ドリーム小説






























_あのこのすごいところはね、すべて、覚えていることなのよ_


昔、聞いたことがあった。

そのとき懇意にしていたナースから。

についての話を。

そんなバカな。

思わず笑った俺を、彼女は楽しそうに笑ってみていた。


_すぐに、わかるわ。_




起こった事態を飲み込めないまま立ち尽くす。

俺を通り越していくのはナースたち。

その動きにあわてて頭を動かして。


あふれる血溜まりに倒れふすのは長いつきあいの相手。


その事態をようやっと理解したように心臓がばくばくと音を立てる。


「さっち、」

つぶやいた名前は、ひどくかすれて、現実味がなくて。

ナースたちが、立ち上がる。

誰かの名前をさけんで。


__


彼女たちが愛おしむ幼子の名前。


ああ、あのこを呼ばなければ。

この場所で唯一サッチを助ける可能性を持つあの子を。


「ここに、います」


いつの間にか、その言葉が妥当だろう。

気がつけばそこに、一歩を踏み出す子供の姿

まるでその声に、その呼び名に、召還でもされたかのように、は姿を現した。

音もなく、気配もなく。

こつり足を進ませて、高い背をまっすぐにのばして。

身にまとった白衣を揺らめかせながら、長い黒髪をたなびかせながら。


まっすぐな瞳は、ただ一人をとらえて。


サッチのそばに座り込んで、ざっと、その体を見渡して。


「エリー、ミモザ」

おだやかな、声。

耳になじむ、優しい音。

呼んだ名前はナースのもの。

彼女たちに何かの指示を出す。

それに彼女たちはすぐに動き出して。


「エース隊長。サッチ隊長を、医務室に。」

エースへの指示を言葉少なに紡いで、そうして、ゆるり、視線が向けられる。

ひどく強い意志が込められたそれ。

まっすぐに向けられる強さに、しっかりしろと叱咤されるよう。


「隊長」

穏やかな色のない声が、さらに響く。

唯一この子は俺を隊長としか呼ばない。

その言葉に秘められた意味を、俺はもう悟っていて。


「よい」


その視線に、言葉に、意志に、俺は全力で答えよう。

呼ばれ出したクルーの名前。

すらすらと、まるで字を読むように、挙げられていく名前。

「誰でもいい、今の人たちを、医務室に。サッチ隊長を、救える可能性を持つ人たちだから。」


_あのこのすごいところはね、全部覚えているところなのよ_

場違いなほどに鮮やかによみがえる記憶。

瞬時、理解する、その言葉の意味を。


「サッチと同じ血液型かい。わかった。」


すぐさまそばにいた一番隊のクルーに指示を出す。

そして、未だにこっちを観たままの彼女に、告げる。


「サッチを、頼んだよい。」


俺の大事な家族を、親友を、仲間を


その言葉に彼女は鮮やかに笑った。



























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