ドリーム小説






























「親父様、親父様」

私の手は、まだ、誰かを救うことができますか?


親父様のように、大きくはない手だけれど

親父様のように、すべてを抱きしめることなんてできないけれど


私の言葉に親父様はとても優しい表情で、一度、うなずいてくれた。








「エースさん。」



あの出来事から一夜開け、なんとか彼は一命を取り留めた。

しかしながら意識は戻らず、ドクターやナースたちのもと、治療が続けられている。

本来であれば私もすぐそばで彼の治療に当たる、はずだった。

が、親父様に一つ、お願いをされたのだ。


「エースさん」


再度、名前を呼ぶ。

もくもくと通路を進む少年の名前を。

ズボンから延びているベルトをつかみ、それ以上距離があかないように、と必死に足を進める。

「エースさん」

三回目。

その呼びかけに、ようやっと彼は足を止めてこちらに向き直った。

表情は怒りにあふれ、私の手がなければすぐにでもかけだしていきそうで。


「離せ。」

一言、突き放すような言葉には答えず、さらに力を込めてそのベルトをつかむ。

彼の力を持ってすれば、こんな拘束簡単にはずせるだろうに。

彼は決してそれをしない。

瞳に、赤い炎が浮かぶ。

今すぐにでもこの手をふりほどいて飛び出したいだろうに。

きっと、起きた彼に私が告げた言葉が原因。

「エースさん。私は、弱いです。あなたの炎で私は簡単に死んでしまう。」

その言葉に、エースさんの瞳はひどく揺れて。

「もう、だれも死んで欲しくねえ・・・」


とても優しい彼だからこその言葉。

それに思わず頬がゆるんだ。


「エースさん。私という足枷は、あなたには有効ですか?」

それに答えることはなかったけれど、それが答えも同然だった。






これは、きっと、親父様の思惑どうり。




_末っ子が、勢いのまま飛び出さないように、ちゃんとみておいてやれ。_


呼び出されて告げられた言葉。

彼が血溜まりの中、倒れていた原因を知ったとき、エースさんは一目散に船を飛び出そうとした。

それを止めたのはマルコ隊長。

あっさりと意識を落として、そのときは事なきを得た。


けれど、ずっと彼が押さえ続けられるわけもなく。


それならば、と白羽の矢が放たれたのは、私。



彼の家族ではなく、でも他人でもない。

曖昧な、関係の、私。







食事の時も、訓練の時も、一日ずっと彼につきまとう。

私を始めてみるクルーばかりで、皆が不思議そうに首を傾げてはいたけれど、その視線にくじけそうになったけれど。

親父様のお願いに反することなどできなくて。

私自身、この末っ子と呼ばれる少年が、少しだけ愛しく感じてしまって。

会話は、ない。

決してこちらに視線を向けない。

それがまるで幼子のすねている様によく似ていて。




「まさか・・・」

「そのまさかですよ。」

夜寝るときだって、いつだって、決して離れてはあげない。

ベッドの上で絶望したような表情を浮かべる彼を無視して、ベッドに上がり込む。

えい、と電気をけして。

彼の頭に手を伸ばして、ぐい、と引き寄せて。

ベッドに一緒に横たわる。

布団をかぶって、ぎゅう、と彼を抱え込みながら、そっと背中を、頭をなでてやれば、固まっていた彼の体がゆっくりと柔らかくなっていく。


「・・・こんなんされたの、初めてだ・・・」


小さくつぶやかれたそれに、かすかに笑う。

私もナースさんたち以外にするのは初めてだよ。


「ゆっくり、おやすみ。」


彼の隊のクルーが、今回のすべての発端だったこと。

唯一の掟である、仲間殺しに手をかけたこと。

隊長である彼が、親父様の命にも背こうとしていること。


すべて、忘れてくれていいから。

ぐ、っと抱きしめていた体が、動いた。

背中に回された腕が、ぬくい。

ぎゅう、とすがるように力を込めて抱きしめられる。


母にすがる子供のように。


彼は私を、妹みたいだ、と言ったけれど、私にすれば、君は弟みたいだよ。







お願い、お願い、忘れていいから。


親父様を悲しませないで。


隊長を苦しませないで。



みんなの表情をこれ以上、曇らせないで。





目覚めた先、なにもつかめていない手のひらと、冷えきったベッド。


人気のない部屋に、たった一つ走り書きの文字。





_ぬくもりは愛しいけれど、それでも奴を捕まえなきゃならねえ。勝手でごめん。それでも、帰ってきたらもう一回抱きしめて欲しい。_







ごめんなさい、親父様。

やっぱり私じゃ、枷にはなれなかった。
































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