ドリーム小説
「!」
ふらふらとエースさんの手紙を手に部屋から出て、親父様の元へと足を進めていれば呼ばれた名前。
ゆっくりと振り返れば、そこには、まさかのリーゼント。
早すぎる回復に一瞬だけ唖然として、そして、何かの糸が、切れた。
ぼとり
地面に落ちていく滴。
これは何だろうか。
目の前の彼があわてている気がしなくもないが、なんだかもう、どうでもいい。
「、どうした!?どっか痛いのか!?」
温もりが、頬にふれる。
のぞき込まれた顔。
でも、なぜかそれはにじんで見えて。
「泣くなよ、、俺は無事だから、な!?」
声を、発しようとしたら、息が、つまった。
苦しい、苦しい。
心臓が、頭が、腕が、のどが。
親父様、親父様、たすけて、おやじさま
「っ、ぅぇっ___っ!」
ぼとぼとと滴が止まらない。
どうしたらいいのかわからない。
何で泣いてるのか、理解できない。
嬉しい?
この人が、ちゃんと動いていることが。
悲しい?
親父様のお願いを守れなかったことが。
悔しい?
私じゃ、彼の枷になりきれなかったことが。
そんなの、彼らとの関わりを、持たない私じゃ見えていた結果なのに?
「!?」
声が聞こえた。
大好きな、声。
私を許して、慈しんで、愛してくれる、隊長の、声。
たすけて、たすけて。たすけて、隊長。
ぶれる世界の中、隊長を求めて手を伸ばす。
そうすれば手は、温もりにふれる。
体は、蒼に包まれる。
ぼとぼとこぼれていく涙も、その蒼にふれて。
「たいちょ、っ、たすけてっ、」
苦しい
意味が分からない
だって、私は、彼の、家族じゃ、ない。
おとうとでも、あねでもいもうとでもあにでもなんでもない
私と彼は、他人だったのに。
想いが、勝手にあふれる。
言葉が、濁流のように口からあふれる。
私はちがう、わたしは、かぞくなんかじゃないのに
「」
ぐ、と力を込めて、抱きしめられて。
足が宙に浮く。
子供みたいに抱き上げられて。
ようやっと、口が、閉ざされる。
耳元でつぶやかれる言葉が、思考を、正常へと近づける。
「お前がなんといおうと、お前は家族だ。
俺たちにとってかけがえのない妹で、姉で、兄弟だ。」
ぐららら、
特徴的な笑い声。
私の大好きな、敬愛する、親父様の声。
「なにを泣いてる?大事な娘よ。」
優しい声が。
あのときと同じ声が響く。
その声が響けば、とうとう涙腺は決壊をなくして。
「っ、ごめんなさっ、私じゃ、とめられなかった、」
あのかわいい弟を
あのいじらしい兄を
わたしにすがりついた、きょうだいを。
みんなの、だいじな、かぞくを
ごめんなさい、ごめんなさい
まもれなくて、ごめんなさい。
「そんなこと、ないんじゃないか?」
「お前は、エースがちゃんと戻ってくるって約束を取り付けただろう?」
にじむ視界をあげれば、手紙をもって笑うリーゼントの姿。
「帰ってきた末っ子を全力で抱きしめてやれよ、お姉ちゃん。」
ゆるり、頭をなでられる。
そっとそれにすりよれば、笑う気配。
「お前はずっと前からもう家族だよい。俺はお前を大事な妹だと想ってる。俺外だって、決してお前を邪魔だなんて想ってねえよい。」
隊長の言葉は優しい。
いつだって私を甘やかすように。
「お前が認める前から、お前はみんなに家族だって認められてんだ。」
親父様の、大好きな、おおきなてのひらが、ふれる。
「かわいい娘を家族じゃないと、そういうやつがいるならば、ここにつれてこい。」
「俺が怒ってやる。」
私を、家族だと、そういって笑う。
本当は逃げていただけなの。
大切なものが増えれば増えるほど私の手は、なにも救えないと実感するから。
だったら、はじめから増やさなければいいのだと。
でも、彼は言った。
私に守られるほど弱くはないと。
逆に、守ってやるって。
そんなこと言われたら、私の決心は揺らぐもので。
親父様とドクターとナースさんたちと隊長。
それだけだった私の世界が、ゆっくりと形を変えていく。
それ以外、に分類されていた世界が、ゆっくりと家族と言う名前を形容していく。
言っていいの?
想っていいの?
家族だって、信じていいの?
「おにい、ちゃん・・・?」
初めて口にした言葉は、ひどく恥ずかしくて。
でも、二人の兄がとても嬉しそうに笑うものだから、もういいか、とすべてを許せた気がした。
※※
家族が増えることをおそれる秘蔵っ子
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