ドリーム小説
「私が死んだら、どうか海に還してくださいな」
それが、死んだ彼女の口癖だった。
ほろり、ほろり、
音もなく滴が落ちていく。
突如甲板に現れた、体中で悲しみを訴えるその長身。
誰だ?そのささやきはクルーたちのもの。
それらを一身に受けながらその長身は足を進める。
今まで慰められる側だった、ナースたちがふらり、導かれるように歩み出す。
一つの棺。
横たわるのは一人のナース。
不運な事故だった。
非戦闘員の彼女がいたところに、突如として現れた敵。
戦うすべを持たない彼女が命を落とすのは必然で。
棺の前にひざまづくように長身は身を落とす。
今にも動き出しそうな彼女にふれて、また一つ涙を落として。
「、泣かないで。」
ナースたちは自分たちの涙をそのままに、必死でその長身に手を伸ばす。
何度も何度も繰り返す。
泣かないで、悲しまないで
柔らかな声で、暖かな手のひらで、何度も何度も、その人物に訴える。
あなたは何も悪くない
繰り返される言葉達。
それでも、ほとほとと流れ落ちる滴が止まることはなく。
私たちがいるから、お願いもう泣かないで。
ぎゅう、とナースが、長身を抱きしめる。
そうすれば今まで微動だにしなかった長身が、小さくふるえて。
「ごめんなさい、助けられなくて、ごめんなさい。」
その言葉にナースたちは体をふるわせて、さらに必死に抱きしめた。
悪くない、あなたは何も、悪くない。
言い聞かせるように、なだめるように、子供を、あやすように。
「」
静かな、声。
その声にも反応することはなく。
ナースが、示し合わせたように一歩、身を引く。
代わりに現れたのは一番隊の隊長。
眠たげな瞳をいつも以上に伏せながらそっと近づく。
「それ以上、嘆くな。」
ナースが居た場所に身を滑り込ませて、その体を支える。
ほとほとと流れ続ける滴を何度も手のひらで拭う。
「目が溶けちまうよい」
柔らかな声。
常の厳しさは消えて、気遣う優しさがそこにはあって。
頬を手で挟み込んで、黒い瞳をまっすぐに見つめて、笑った。
「おまえに会えてうれしかった、と。大好きだとよい。」
ナースを看取ったのは異変に一番に気がついたこの人で。
間際の言葉を受け取ったのは、この人だけで。
「私も、あえて、うれしかった。」
ほとほととこぼれる涙は止まらない。
でもくしゃりと心から悲しいと告げるように瞳が揺れて。
「最後まで一緒にいれなくて、ごめんなさい、お姉ちゃん・・・!!」
叫ぶように、嗚咽が漏れる。
一番隊隊長にすがりついて、涙をこぼす。
ナースたちが手を伸ばして、泣き叫ぶその者に優しくふれていた。
戻る