ドリーム小説














仮面夫婦
























「俺は確かにお前と結婚したが、俺はお前を愛してないよい。」


婚儀を終えて、世界で一番甘いであろうその夜に、私は私を妻に迎えてくれた旦那様にそういわれた。

指の一つすら私にふれることはなく、向けられる視線もまったく優しいものではなくて。


これからも愛することはない、と


眠たげな瞳で、興味のない様子で、結婚したばかりの私の旦那様はそういったのだった。






朝ご飯は、いらない、とコーヒーだけを飲んで、出勤していく。

作ったお弁当は、どっかで食べるから必要ない、と置いて行かれて。

晩ご飯は会社で飲み会があるから、食べて帰ると告げられて。


旦那様のために作ったご飯が、実際に、旦那様の口にはいることはない。





いってらっしゃいを言うために、彼の出勤時間にあわせて起床すれど、彼の姿はもうどこにもなく

明日は何時に家を出るのか、帰ってくるのか、その質問に正確に答えてくれたことはなく

おかえり、の言葉のために起きて待っていれば帰ってはこなくて。


彼との距離を縮めるために、と頑張れど、何一つそれは実ることはなくて。





彼の名前だって、ほとんど呼んだことはない

私の名前だって、一度も呼ばれたことはない




ならどうして、結婚したの?

そんな質問をしなければならないほど、私は子供ではなくって。



旦那様の、取引先の、社長令嬢。


私の持つ意味は、存在意義は、それだけ。



旦那様には私に会うよりもずっとずっと前からおつきあいしている人がいて。

愛している、と、その言葉をつげる相手が存在していて。

時折、一緒につれて帰ってくる甘い香りは、その人のもので



私との婚儀を断って、その人と生涯を暮らすことだってできたのに。



それでも、あなたは、私と結婚することを選んだ。

会社の利益を、自分の幸せよりも



ならばそれに対して私は答えなければならないのに。



彼の望む人に

彼の望む存在に


けれど、あなたが望むものがどんなものなのか、それすらも聞けなくて、わからなくて


愛してはもらえなくても、ふつうの夫婦のように、旦那様のお世話をしなければと思っていたのに




潔い姿勢に
面倒見のよい姿に
少しだけ幼く笑う表情に


ずっとずっと、ひかれてはいたけれど


夫婦になって、知る顔は、知らない顔ばかりだけれども、


それはまったく優しさとは遠くて。





彼の会社の集まりに、参加しなくてはいけないときは、彼は笑いながら、ちゃんと私をエスコートしてくれた。

けれど、その笑みは私に向けられたものではない。

私に誰かを重ねるように見ていて。


「俺の妻だ。ほら、紹介しろよい。」

そのときだって、決して私を呼ぶことはなくて。


「子供はいずれ、と考えてるよい。でも、今はまだ二人だけでもいいかと思ってな。」

子供はいつ、と問われれば、妻にベタぼれな夫を演じて見せて。


そのときだけは、まるで、本当に愛されているかのように錯覚できる。


けれども、その分、家に帰ったときが寂しくて。


いっそのこと、外でも嫌いだと、そういう態度でいてくれればいいのに。













愛してはもらえなくても、せめて名前は呼んでほしいのです







「お父様、あの人とお話してみたいわ。」

小さな頃つれて行かれたパーティで、その人は、とてもとてもきれいに笑っていて。

すてきな人だと、そう思ってしまったの。

思うだけでよかったのに、思うだけにしておけばよかったのに。


望んでしまったの。

あの人が私に笑いかけてくれることを。

ごめんなさい、ごめんなさい

あなたの幸せを奪ってしまって。


ごめんなさい、ごめんなさい


私のわがままのせいで、あなたの一生は縛られてしまって。




おもうだけで満足できなかった私が、全部、悪いの




















仮面夫婦なおはなし

 マルコ
会社の取引先社長令嬢との政略結婚。
夢主はマルコになじもうと必死で努力するけれど
マルコは夢主に興味なし。
ぶっちゃけほかにつきあってる人がいる
でも外面はいい






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