ドリーム小説



















10 誰が悪いというわけではなくて















ザンッ



耳元で響いたのはそんな音。

同時に視界に散るのは黒色。


なにがおこっているのか、それは軽くなった頭と宙に舞う髪が物語っていて。


振り向けばそこにいたのは訓練をしていた相手たち。

でもそおの表情は故意ではないとわかるもので。

自分はここで、部外者でありながらも訓練に参加することを許してもらっていて。

自分の獲物である小刀を使うことで周りの攻撃をいなしていた。

本来であれば一対一であるはずのそれは、監督する隊長が姿を消した瞬間、数人対一に様変わりして。

力はないから受け流す。

身軽な体でよけまくる。

それが自分が生きていく上で学んだことだったから。



今までも何度も数人と戦ったことはあった。

そのたびに死ぬかもしれないと、そう感じることは確かにあった。

だからこれも訓練の一環だと思い無心に体を動かして。


そして、目の前に迫っていた死の匂いをまとわせた刃を必死によけた。




代わりにあの子がほめてくれた黒髪を、引き替えにして。




ぱさりと甲板に落ちるそれら。

切ったであろう人物たちも思わず動きを止めていて。


「お前たち。」


響いたのは静かなる怒声。

声の主を見れば姿を消していた16番隊の隊長で。

いつもはすずやかな瞳に激情を乗せながら、常よりも速いスピードでこちらにくる。


、怪我は?」


くい、と顎を捕まれて左右に首を振らされる。

空気にふれてちりりとした痛みを発したそこはおそらく軽く切れているのだろう。


「イゾウ隊長・・・」

髪を切った船員の声が小さく落ちる。

それに向くことはなく、イゾウはざっくばらんに切り落とされた髪を見て目をゆがめる。


「イゾウさん。自分は大丈夫です。元々髪を切る気ではあったので、逆に手間が省けました。」

笑って見せてそういえば、さらにぐっと眦があげられた。

そして、ため息。


「俺は数人と戦うように指示した覚えはない。」


くるり、自分に背中を向けて彼は言葉を紡ぐ。


「今現在武器を手に持っている奴、これから甲板掃除だ」


背中しか見えないけれど、彼は確かに自分のために怒ってくれているようにで。

それに少しだけ胸が暖かくなる。




「もったいないねい」


さらり、髪が梳かれる気配とともに後ろから聞こえてきた声。

それが想像していなかった人物であったためあわてて振り向く。

そうすれば青い青い瞳がこちらを見ていて。


「首、切れてるよい。医務室いくぞい」


くい、と手を引かれて、足が動き出す。

振り向けばそこにはあわてて掃除用具を持ってきて言われたとおり掃除を始める隊員たち。

それを監督するようにイゾウはたっていて。


。医務室から帰ったら俺の部屋にいろ。髪整えてやる。」


背を向けられたまま告げられたそれに小さく返事を返して


この船の中ではイゾウ以外には男だと思われているはずなのに、こんな大事にされてしまっては少々いたたまれない。

そんなことを思いながら自分の手を引く相手を見る。


金色の髪が、風になびくその姿は素直にきれいだと感じた。













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