ドリーム小説
11 母なる海は愛し子を求め
髪が切られる事件があってから隊員たちはさらに自分に近づかなくなった。
というのも愛が私の髪を見て泣き叫んだからだ。
彼女のテリトリーになっている食堂で、そこに入った瞬間、彼女が今まで浮かべていた笑みは消え去って。
どうしてどうして、そう叫びながらすがりついてきた。
私のとは違うその髪がきれいで大好きだったのに、と。
それはこの子の笑みしか知らない隊員たちには驚きと共に恐怖に値する現象だったのだろう。
あの子がどうして「」という存在に固執するのか。
あの子が家族だと紹介したそれは確かに彼らの中で事実として存在はしていたはずなのに。
向けられる視線は合いも変わらずいいものではない。
嫉妬、羨望、恐怖。
家族でもない存在がこの船に乗ることへの不信感。
隊員ですらあまり気軽に近づけない隊長格にかまわれているという事実に対する嫉妬
あの子が大事にするあれをどう扱えばいいのかわからないと言う恐怖。
何一つ間違ってはいないし、何一つ理解できないものではない。
だからこそ、さっさとこの船を下りてしまいたいというのに。
陸はまだ遠く。
甲板にて男では気がつかないようなところを細々と掃除していればざわり、聞こえてきた喧噪。
何事かとそちらの方を見れば隊員たちが船から身を乗り出している姿。
「隊長が___」
「___エースッ」
聞こえてきたそれは、つまり悪魔のみを口にしたエースが落ちたということで。
なかなか飛び込むことができないでいるその理由としてはこの海域が海王類の生息域にはいっているということだろう。
いつもであれば水中にも強い奴やらが飛び込むであろうに今はなぜかあまり先頭を得意としない奴らしかいなくて。
気がついたときには身を海の中へと落としていた。
青い世界の中、ゆらゆらと、沈んでいく。
愛し子よ、帰っておいでと、この世界で完全なる平穏をと、
母なる海は手を広げて。
きれいな世界は、残酷にも彼を望む。
手を伸ばして、重いからだを引き寄せて。
必死で空気を求めて浮上する。
青い静寂は一瞬にして喧噪に変わった。
「っ、けほっ」
水中であれど意識を失ったその体は大変重く。
必死で顔だけでもと水面に浮かばせて。
そのまま見上げれば船上でばたばたとせわしない音。
「おい、そのままもう少しだけ待て!」
顔を出したのはリーゼントが特徴的なサッチで。
そのまま縄ばしごがおろされる。
どう頑張っても自分ではこの体を持ち上げられないのは向こうも承知だったようで。
そのまま飛び込んでこようとサッチが服を脱ぎ捨てる。
「っ、こんな時に!!」
だがそれはさらにざわめきを増す船上によって止められて。
皆がにらむ先、振り返ればそこには大群で押し寄せてくる海王類。
震えたからだからエースが落ちないようにと腕に力を込めて。
「サッチ、あの二人を頼むよい。」
喧噪とは正反対の静かな声が、響いた。
どうじにめにはいったのはこわいくらいにきれいなあお
いままでのなかでこんなにもきれいなものは見たことがないと、それくらいきれいないろ
「、エースを。」
いつのまにサッチが飛び降りてきたのかはわからなかった。
それでものばされる手に重いからだを渡して。
先にあがれと指示されるまま船の上に戻る。
ただただ、青い色に見入られながら。
だから気がつかなかった。
自らあがった瞬間広がったざわめきも
皆の瞳が自分に釘付けな訳も
その後に顔を真っ赤にして目をそらす人物がたくさんいる理由も
「助かった、ありがとな、___?!」
自らあがってきたサッチに手を貸して、その瞳が自分を見て、そして、
「?!おまっ、女だったのか!?」
水に濡れた服がべったりと体に張り付いていたのを見られるまでは。
「ええと、まあ、はい。生物学上は女ですね。」
その言葉にがくり、首を落とすサッチやいつの間にか戻ってきたマルコがそっとシャツを体に掛けてくれたり、イゾウが見せ物じゃないとみんなから私を隠してくれるまで。
隠していたと言えばそうなのだが、実際問題ばれても問題はなかったので言わなかったこと。
とりあえず、女だとようやっと認識されたようです。
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