ドリーム小説
14 さみしいと感じる心は確かにあって
風邪を引いた。
それはもう何年ぶりかわからないくらいに。
朝起きたときからだるい、という感覚はあったのだが、まあ、気のせいだろう、と体をだましだまし動かしたのが悪かったらしい。
何かできることを、と探して甲板にでた瞬間、ふつり、意識は切れて。
気がつけば白い世界。
そこにあったのは今は亡き両親の姿
そして大好きだった兄夫婦
「」
光に溶ける空間で確かに名前を呼ばれた気がした。
じわじわと上がる熱に、呼吸に、いっそのこと死んでしまったら楽なんじゃないかとそんなことを思う。
夢と現実をまどろみながらそっと額に乗せられた冷たさにほっと息を吐く。
そうすれば微かに笑う声が聞こえて。
ゆるりと瞳を開けばいつものイゾウがそこにあって。
「まったく。お前はうちの長男にそっくりだ。」
その長男がだれか、わからないほど鈍いわけではなく。
何のことかとぼおっと言葉を聞いていればさらに笑い声。
「うちの長男は頼られること、甘えられることになれすぎてるのさ。だからこそ、自分からその行為をすることなどできねえ。誰かが甘やかしてやらねえとな。・・・お前も同じだろう?。」
だって、わからない。
甘えるって、どうすればいいのか。
頼るってどういうことなのか。
全部自分がされる側だったそれは、自分から動くことなどができないと言う証拠であって。
唯一、自分がたった一人甘えられた存在は、もうどこにもないのに。
「あの子、私の髪、見て、泣いたでしょう?」
ぼおっとする思考では自分がなにを話しているのか、あまりわからなくて。
寝てしまえば話したことも忘れるのだろうと想いながらも切れ切れに言葉を紡ぐ。
「私の黒いこの髪は、あの子の父に、私にとっての兄と同じ。」
「あの子は母に似たから、この黒髪をうらやんで。兄が亡くなってからはこの髪が愛しいって。」
「お父さんといるみたいだからって。」
「姪に当たるのか?」
「うん。私あの子にとってのおばさんなの。」
ぼんやりとした意識の中思い出す幼い日のこと。
「私、あのこのことはじめ大嫌いで。」
「お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも、大好きな人みんなあのこにかまうから。」
兄と自分は大きく年が離れていて。
兄が結婚して子供であるあの子を授かったとき、自分はまだ8歳で。
妹と言う存在を受け入れるには大きすぎて、心が狭すぎた。
「でも、両親と兄夫婦が亡くなったとき、誰ももういないと思っていた私を、呼んでくれたの。手を握ってくれたの。」
「ああ、この子がいたんだって。思ったの。」
「私がこの子を守らなきゃって。」
泣いて泣いて、想うばかりだった私を悲しみの世界から救ってくれたのはまだ幼かったあの子。
これからはこの子のためにあろうって、そう思ったの。
「だから、あの子を守ってくれる子が現れるまでは、私が守らなきゃって・・・」
それはもう、意味のないことだけれど。
「イゾウさん、あの子を、守ってね。」
ふつり、ふつり、途切れる意識は急速に眠りへと向かう。
お願い、そう呟いた声はおそらく届かなかっただろう。
「本当に、お前にそっくりだ。なあ、マルコ。」
扉の外にその話を聞いていた存在があるなんて、知らない。
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