ドリーム小説
18 誘いの声は甘く甘く
「・・・クザンさん?」
愛にばれぬよう、船長さんに頭を下げて夜のうちに降りた船。
船長さん以外にたった一人告げたイゾウは困ったように笑いながらも見送ってくれて。
そうしてとりあえず彼らがここを出発するまでは身を隠そうと宿を探していれば視界のはしにどこかで見たことのあるような姿を見つけて。
あわててそちらを見ればそこには黒いもじゃりとした髪、高いにもほどがあるくらいの身長。
そして見たことのある自転車を押していて。
思わず呟いた声。
それにぴたり、歩みを止めたその人はくるり、眠たげなやる気のなさそうな瞳をこちらに向けて。
「あー・・・ええと・・・どっかで見たことある気がする・・・誰だっけ?」
困ったようなそんな言葉にそういば名前を教えたことはなかったと気がついた。
「ちゃん、ね。ん、もう覚えた。」
近くにあった食事どころに入って向かい合う。
座っていたところで高い身長は相変わらずで。
「あのときはお世話になりました。」
下げた頭にふわりと温もりが走る。
少しだけ重たいそれはでも、優しくて。
「うん。元気そうでよかったよ。」
くしゃり、髪をかき回されたけれど別に怒るほどのことでもなくて。
「なにをして生活してたの?」
なんでもない世間話のようなそれ。
一瞬言葉に詰まりながらも船に乗るまでの生活のことを話す。
そっか、とうなずいてクザンは少し考えるように首を傾げた。
「これからもそうやって生きていくつもり?」
その問いの真意はわからなかったけれど、その答えを自分は持っていなくて。
どう答えようかとぼんやりとクザンを見ていれば再び苦笑。
「ちゃんさえよければ、一緒にくる?」
この人がいったい何の仕事をしているのか、そんなこと知らなかったけれど、あの子を守るという意義を失った自分にはとてもとても魅力的に思えて。
「・・・クザンさんは私を必要としてくれますか?」
そんな言葉を出した自分は思っていた以上に最近のいろんなことに疲れていたらしい。
一瞬虚を突かれたように目を見開いたその人は、ふわり、きれいに笑った。
「うん。俺はちゃんがほしいな。」
もういいか。
自分の中で何かあきらめがついたような気がした。
たった一人のために生きるというのは存外楽で、自分の考えを押さえ込むのもそれを理由にすればとてもやりやすくて。
あの子に依存していたのは自分だ。
その対象を変えてなら、この世界でもきっと生きていける。
どうする?そう目線で問うてくるクザンにふにゃり、笑って見せた。
「一緒につれていってクザンさん。」
伸ばされた手。
それをつかもうと同じように手をつかんで、そしてそれは
「それは聞けない話だねい」
横から伸ばされた手によって遮られた。
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