ドリーム小説
4 たった一人の大事なこの子
あの世界ではないこの世界に来て、どれほど時が過ぎたのか。
そんなことはもうどうでもいいことで。
あの子がいない世界で、生きる意味を見いだせないまま、それでもまだ自分は生きていた。
はじめに自分が「殺した」ものはどうやら賞金首だったらしく、たまたま通りがかった海軍とやらに賞金をもらった。
あの世界であの子を守って生きるためだけに学んだ体術はこの世界でえらく重宝した。
居場所があるわけでなく、いろんな島を動き回って。
護衛をしたり、賞金首をかったり。
女だとわかればやっかいごとに巻き込まれるからと体つきを隠す服を身にまとった。
長い髪は切るつもりだったけれど、あの子が好きだと言ってくれたものの一つだったから布を頭に巻き付けることで隠した。
そうして、ただ目的もなく毎日を過ごして、年単位で時間は過ぎて。
そして今、目の前のことが信じられなくてただ呆然と立ち尽くす自分がいた。
あの世界でのたった一人の家族。
ふわふわとゆれるあまいろの髪も、華奢なその体も。
いつもはきらきらと輝く大きな黒目にたっぷりとした涙を乗せて、いつもは鈴が鳴るようにさえずる声は、恐怖からかこわばって。
「その手、放しなよ」
こんなところにいるはずがないとわかっていながらも、あの子によく似たその子を放っておくことなどできなかった。
華奢で白いその腕をつかむ無粋な男をはり倒す。
衝撃で震える彼女を守るように背に庇う。
向けられる刃にはもうなれた。
飛び散る紅にももう吐き気は起こらない。
ただ自分の後ろで震えるその小さな存在を守りたい、思ったのはそれだけで。
「、ちゃん・・・?」
そっと引かれた袖。
小さくこぼされた音。
それは確かに自分の名前で。
ゆっくりと振り返って、瞳に移したその姿。
記憶の中よりも幾分か成長した、愛しい家族。
手を伸ばして、触れたそれは確かに温もりがあって。
「・・・愛・・・」
呟くように名前を呼べば、目の前のその体は全力で自分に飛びついて来て。
譫言のように呼ばれる自分の名前。
この世界では誰一人知ることのなかった私の名前を。
どうしてここにいるのかとか
なぜ人に追われていたのかとか
どうやってここで暮らしていたのかとか
聞きたいことはたくさんあるけれど、それよりもこのこと再びあえたことがどうしようもなくうれしくて。
ぎゅうぎゅうと体を抱きしめて名前を呼んで、
涙を流すこの子をなだめるように撫でて。
「一人にして、ごめん」
小さくうなずいたその体をもっと強く抱きしめた。
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