ドリーム小説










私のヒーロー!!























16年間 私の生きてきた世界の中 私にとってのヒーローはたった一人だった。




私が物心ついたそのときには、その人はもう地元では名前を聞いただけで恐れられる、それくらいの不良で。

皆が皆、その人を怖がっていたけれど、私にとっては兄のような存在で。


何度もあの人のせいで怖い目にあったけれど、それでもそのたびに私を助けてくれて。

彼の所為で引き起こされる様々な災厄は、これまた彼の手によって終息するわけで。



だからこそ、子供の頃から刷り込まれた

お兄ちゃんが助けてくれる

その考えは、高校生になった今でも、お兄ちゃんが学生をすぎた今でも、私の中に根強く残っているのだ。







けれども、私の前にはどうやら人生で二人目のヒーローとやらが現れたらしい。







季節はずれなもこもこ帽子

目の下の隈は悪い目つきをよりいっそう悪化させて

整った顔にスタイル

露出した肌からのぞく入れ墨は彼がどのような人種かを明らかにしていた。



「邪魔だ。」



私の前転がる男。

理由は目の前に現れた隈の男で。

ふりあげられた長い足はあっさりと男に地面を拝ませて。






事の起こりは数分前。

学生の本分である学習を終えて、意気揚々と帰宅への道のりを歩く。

夏が近づくこの季節。

本日は日差しが強く、是非とも冷たいものを口に入れたい。

その欲望に逆らうことなく、私は帰り道にあるコンビニへと足を踏み入れて。

太るとわかっていながらもあらがえない欲求のままチョコレートを、ジュースを、そしてお目当てのアイスを手にレジを終え、


そうして外に足を踏み出したその瞬間。



「おい、不死鳥の女ってぁ、お前かぁ?」


どこからともなく現れた五六人の不良軍団によってあっさり私は拘束されて。

気がつけば人気のない場所に溶けきったアイスと共に放り出された。


「っ、ちょっ、なんですか?なんなんですか?!
あの人とは最近ほとんど接触ないんで、なんかはなしふられてもご期待に添えないですよ?!
え?なに?不死鳥に女をとられた?あーそれはまあ、なんていうか、ご愁傷様です?
はぁ・・・まあ確かに、お兄さんよりもあの人の方がどう考えてもかっこい、いやいやいやいや、なんでもないです、何にも言ってないですからっ!!
お願いですからそういう、ね!?物騒なものをですね!?
出さないでっ、ちょ、なんでたばこの火を近づけてるっ、いや、ちょ、ほんとまってくださ、それは熱いし痛いですよ!
ほら、お兄さん、想像してみてくださいっ、熱いフライパンの上にじわじわと溶けるバター・・・。
そこに砂糖を溶いた卵につけた食パンをふわりと乗せて、じゅう、っておいしそうなにおいが・・・っわー、ごめんなさいっごめんなさいっ!
出来心ですよ!ただの出来心ですっっ、ちょっとフレンチトーストが食べたくなっただけなんですよぉぉぉぉっ!!」


腕に近づくたばこの火。

逃げようにも両側後ろさらには前まで拘束されればどうあがいても無理で。

怖いのは嫌い

痛いのも大嫌い

でも、こういうことにはずっと昔からなれてしまっていて。

その原因であるはずの人物。

それでも、その人はいつも私を助けてくれるわけで。



こんな時だって、気がつけば名前を呼んでしまう。




「へるぷみー!マル兄〜!」




そしてその瞬間、ぐしゃり、音を立てて目の前の男が地面に倒れる。

「っ、マル兄!!」

閉じ欠けていた目を開いて助けてくれたであろう人物の名を___

「じゃない?あれ?どちらさまですか??」

呼んだ名前の持ち主はそこに存在しておらず。

そこにいたのは知らぬ人物。

ただわかるのは、何であろうと目の前の人物が私を助けてくれたこと。




「邪魔だ。」





その言葉がたとえ自分に向けられた言葉だったとしても、だ。










「で、おまえがあの不死鳥屋の女だってのは、本当か?」


なんだかんだで不良軍団をあっさりと撃退してくれたその人に、コンビニで買って無事だったチョコレートをお礼とばかりに渡せばそんな言葉を返されて。


そんなはじめからみていたのならもっとはやく助けてくれればよかったのでは?

そんなことを思えども、自称ちきんな私にそれを言葉にすることなどできるわけもなく。

じとりとその顔を見つめて、そうして

「わー、すごい隈。」

と、別のことを口からポロリとこぼす始末。

ぴしり、目の前の人の雰囲気が固まる。

慌てて口を押さえたがそれは全く持って意味を持つはずもなく。


「いい度胸じゃねえか。」


それはそれはイイ顔をして壮絶な笑みをくださった。

あ、このひとめちゃくちゃ怖い。

あの人の所為で見慣れている極悪顔。

しかしながら見慣れたところで怖いものは怖いわけで。



「今の聞かなかったことには・・・?」

「できると思うのか?」



それはそれは楽しそうに、その男は私へと手を伸ばして___



「俺のものになにしてんだよい。」



後ろからの温もり

よく知った香り

耳を震わす声


私よりもずっとずっと大きな手


私がこんな目に遭う原因で

同時に助けてくれる人



「マル兄!」


振り返った先

奇抜な髪型と高い背

そして、常であれば眠たげになる瞳はしかし、鋭い光を携えて。






「俺のものに手を出す覚悟、できてんだろうねい。」







ああ、やっぱり、私のヒーローはどうやらこの人だけらしい。


先ほどあらわれたヒーローもどきさん。
基、隈の人は、私の後ろにいるマルコ兄さんを見てそれはそれは愉しそうな表情を浮かべて。


「トラファルガー、もう一度言う。これは俺のだ。手え出すんじゃねえよい。」



ぎゅう、と後ろからの圧迫感。

同時に目元を隠されて。

目の前の人物がどんな表情をしているかはしらないけれど、それはどこかとても愉しそうな声で。


「えらく毛色の変わったもんを好むんだなぁ、不死鳥屋。」


くつくつと響く笑い声。


それはどう考えても前の隈の人のもの。

小さく聞こえた舌打ちはどう考えてもこの人のもの


「わー!!ダメだよ。マル兄!この人、助けてくれた人!私助けられた人!!落ち着いて、落ち着いて!私平気、いきてるよ、へいきだよ、げんきだよ!」

ぎゅう、と体に抱き着いて、今にも繰り出されそうだった手足を必死で防ぐ。

だめだよ、なんだかんだでこの人助けてくれたんだから。


「・・・はあ。その呼び方はやめろって言ったはずだが?」


ため息とともに落とされた言葉。

それにそっと目を上げればそれはそれはイイ笑顔。


「わー!!ごめんなさいっマルコ!だって長い間ずっと兄って呼んでたから慣れないんだよ!」


「うるせえ。さっさと慣れろ。」

わーひどい、理不尽!

想いながらもこの人から離れられないのも、この人の言葉を受け入れてしまう私も、もうそれは太陽が昇る位置が変わらないように、私にとって不動のもので。



「なんだ、本当に不死鳥の女だったのか」


隈の人の言葉に振り向けば爛々と輝くひとみとかち合って。


「ああ。俺の女だ。かわいいだろい?手、だすならそれなりの覚悟決めろよ?」


・・・ちょっとまって。今なんて言った?


「え!?マル兄・・・じゃなかった。マルコ、何それ、私いつからマルコの女!?」


私の言葉にきょとりとマルコは瞳を瞬かせた。


「だってお前は俺のもんだろい。」

「え!?まじですか?!」


あっさりきっぱり、何を言っているんだと、そういうかのように。


そのままさらりと撫でられた髪。

ゆるりとおでことおでこがごつりと当たって。



「お前は生まれたときから、俺のもんで、俺だけの女で、これから先も俺のだろい?」




至近距離での悪い顔は、今まで見た中で一番に格好良かったと、そう思ってしまう私は結局のところこの人のことが大好きなのだろう。











とてもとてもかっこいい私のヒーローは、気が付けば私を一生守ってくれる人になっていたようです。





















本当はミニ連載にしようと思っていた物。
ローとマルコさんの選択にしようと思ってたけど、無理だったので。


















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