ドリーム小説























せかいはやさしくなどなくて  












「どうだい?旦那。まだ生娘だよ?」

「悪いが顔が好みじゃねえんでな。」

通算180日目の惨敗。

私にとっては嬉しいことですが、女将さんにとってはとても困ったこと。

私の横でどうしようかとため息をつくその姿は大変申し訳なくなってくる。

生きるためにはしかたがない、幸いなことに、なのか、私は女でだから、最終的には自分を売るという方法もある。

そう考えていた最終手段はあっさりと使用せざるを得なくなって。

というのも、この町には基本的にはそういうお店がたくさんあって。

需要があるのもそういう仕事で。

何の知識も、知恵も、そして、できることもない、世界も知らない私に、世界はそんなに優しくはなく。

衣食住の保証があるだけでも十分だと、女の人の体を売る店に、自ら足を踏み入れた。

たまたま人のいい方で、住み込んでもいいという許可をいただき、代わりにいろんな雑務をこなすことを約束して。

そうして、私はこの世界で自分を売って生きる方法を手にいれた。

けれども、まあ、約半年間もまるまる指名が入らないなんて、女将さんも思わなかったのだろう。


「さて、どうしようかねえ、


本当に困った顔をしながら女将さんは頬に手を当てる。

このままだと衣食住の保証すらなくなってしまう、これはやばい。

できるならばこのまま私なんかを買う特異な人なんてでてほしくはない。



・・・そう、でてほしくなんか、なかったのに。




「白髭の隊長さんなの?」

「あらすてき!!」


艶やかなお姉さまたち。

181日目の連敗に向けて、ちゃくちゃくと断られ続ける私の前で繰り広げられる言葉たち。

きれいなお姉さまたちはひとりのリーゼントに群がっていて。

それに対してリーゼントはそれを当然のように甘んじて受けていて。

うん。

どうがんばっても私じゃ無理だ。

そうそうに言い寄るのをあきらめて、違う相手を捜すためあたりに目をやる。

しかしながら見る人みんながすでに腕にきれいなお姉さまたちをつれていて。

どうがんばっても付け入る好きなどありはしない。

ああ、だからこそリーゼントにくっつくお姉さまたちも必死なのか。

今晩の相手がいなくなっては大変と。

ちらり、そのリーゼントにもう一度視線を向ければ、ばちり、なんだか瞳がかちあって。


うわあ、目が合っちゃった。


思わず視線をはずそうとすれば、なぜかそのリーゼントはそれはそれは楽しそうににんまりと笑って。


「嬢ちゃん、今日の相手は決まってんの?」


くっついていたお姉さまたちをやんわりとほどいて、ふらり、私の前に立ちはだかった。


「え、」

言葉を発する前に、ぐい、と顔を近づけられて、じろじろと視線を向けられる。

「旦那、この子なら安くしときますよ?20にもなってまだ
生娘だからね。」

女将の横からの言葉。

20にもなって、はよけいだと思う。

けれども女将も私を売ろうと必死なわけだから、しかたがない。


「名前は?」


あまりにも見つめられすぎて、さまよいそうになった視線を咎めるように、顎に手を当てられて、上を向かされて。

まっすぐな視線が、私の瞳を、いぬく




、ね。」

口からでた私の名前を、かみしめるように何度かつぶやいて。

そのまま、その人はにんまり、笑った。








「決めた。今夜の相手、ちゃんね。」









つれていかれた部屋。

どっくんどっくん、なる心臓。

これからどうなるのか、知識はあっても経験はないわけで。

シャワー浴びておいで、そういわれたから無言でうなずいて、シャワーに当たる。

でも、ここからどうしたらいいのか、よくはわからなくて。


すきなひとに、すべてあげたい。


そんなことを思えるほどに子供ではなくて。

それでも、


すきなひとに、すべてあげたかった。


そう思うほどには子供で。


頭の中に浮かぶあの人は。

今、この世界で生きているのだろうか。



温めた体をタオルで拭いて。

備え付けてあったバスローブを身につけ、ようとしたのだが、なぜか先ほどあったその場所には一枚のシャツがあるだけで。

「・・・あれ?」

思わず声を出せば、くつり、笑い声が扉の外から聞こえて。

「そこにおいてあるシャツ、使えばいいから。」

愉しそうな声。

・・・もしかしなくても私はだいぶん癖のある人に捕まったのかもしれない。

リーゼントの人のシャツは大きくて、私の膝暗いまでの長さがあった。

男の人ってこんなに大きいんだなあ、と思いながら扉を開ければ、目の前にその人がいて。

「・・・うん。思ってたよりクルかも。」

何かぼそりとつぶやいて、その人はにっこり笑った。

「俺も浴びてくるから少し待ってろ。」

ぽん、と優しく頭をなでられて、じわり、久しぶりの温もりに乾いた心臓が水をもらった気分になった。

しかしながら待つ時間とはどうしたらいいものなのか。

経験のなさからまったくわからないため、そわそわと部屋の中を歩き回る。

もうにげだしたい

そう思うくらいには頭は混乱していて。


「なに?待ちきれねえの?」

ぞわり、耳元で響いた声。

体が温もりに包まれて、後ろにじわりとしっとりとした肌がくっついて。

思わず、呼吸が、止まりそうに、なった。


「すっげえ心臓の音。」

くつくつと笑われて、それさえも体に響いて。

「初めてだっけ?」

その問いにゆっくりとうなずけば、じゃあ、優しくしてやるよ、と声が降ってきて。

それと同時に耳に、頬に、首に、しっとりとした何かが当てられる感覚が広がって。

、」

先ほどまでと違う呼び方、それに、ぞくりと背中が粟立つ。

この人の名前を呼び返したいけれど、肝心の名前を私は知らなくて。

ぐい、と顎を捕まれて、後ろに反るように首を傾けられて。

唇に、相手の、熱が、近づく


「っ、な、まえ、」

なまえをおしえてください

そういおうとして、うまく舌が回らなくて。

単語だけになったというのに、目の前の人は理解してくれたようで。

「ああ、そういえばいってなかったな。サッチ、だ。俺の名前はサッチ。」

「サッチ、さん・・・」

「ああそうだ。・・・なあ、もういいか?」

限界、それが言葉になるかならないか、それくらいのタイミングで、私の唇は、吐息は、奪われた。

熱く熱く、口内をまさぐられて。

手が、体中にふれて。

まるで溶かされるみたいに、思考がふやけていく。

怖い、その感覚は確かにあったけれど、それでも、この人なら大丈夫だと、そんな謎の考えがあって。

「っ、」

自分の声じゃないみたいに甘い声が、でる。

くつり、それはそれは余裕そうにサッチさんは笑いを押し殺す。

「もっと声、だして。」

耳元でかすれた声で、そんなことをいわれれば従う以外の方法なんか知らなくて。

「怖くなんかねえから。ほら、もっと、俺にすがりついて。」

伸ばされた手が、サッチさんの首に回る。

ぎゅう、とすがりつけば柔らかく頭をなでられて。

、おまえかわいい。」

かわいい、なんて、ほとんどいわれたこともない言葉。

どうしたらいいのか、わからなくなる。


「な、もっとおまえの乱れてる姿、みてえ。」


サッチさんの言葉に、体が、かっと熱くなる。

どうしたらいいのか、わからなくて、こたえるために、ひっしにてをのばして。


「力、ぬけ。」


そんなことどうやったらいいのかわからなくて、にじんだしかいでさっちさんを見上げたら、ふわり、すごく優しくほほえまれた。



___」




「サッチ、じゃまするよい。」

突然開いた扉。

聞こえてきた声。

すぐそばにあった体温が急速に離れて、代わりに視界が白で覆われて。

「マルコ!せめてノックくらいしてくろよこの馬鹿!!」

「どうせ女と仲良くやってるだけだろうがよい。」

ぼおっとする意識の中、続く言葉の応酬。

その中でサッチさんが発した言葉に、小さくからだが反応する。

マルコ

その名前は確かに私の部屋に訪れたことのある異世界人の名前。

まさかとは思いつつもその独特な語尾は聞き逃せるものではなくて。

「さっちさん・・・?」

そっとかけられていたシーツから顔を出して、サッチさんの名前を呼ぶ。

そのまま視線を彼に向ければ、そこには、確かにあの世界であの場所で一時だけではあれど、ともに過ごした彼の姿があって。

「あ?なんだ、サッチにしてはえらく凹凸のないのを選んだんだねい。」

ちらり、一瞬だけ、向けられて、そうしてすぐさまはずされた視線。

それは、ずくりと胸を突き刺して。

「うるせえな。いいんだよ。たまには変わったもんも食べてみたくなるだろう?」

わかってはいたけれど、変わったものといわれていい気はしないわけで。

先ほどまでの熱が嘘みたいに体から引いていく。


なんだか、もう、いいかな。


先ほど視線をはずされた。

それだけでもう、いろんなことがどうでもよくなって。


彼の記憶に残れるだけの存在では、なかったのだと。

おそまきながらに実感して。

そして、それと同時に私のこの世界で生きなければという意味が消滅して。


「用がねえならさっさとでていけ。」

「あ?別に用がねえとは言ってねえだろうが。」

「せっかくが慣れてきたのに、おまえの所為で台無しだろうが!」


「・・・?」


サッチさんが、私の名前を呼んで。

それを聞いたマルコさんがこちらをみて。

そのまま保っていた距離をずかずかと進入してくる。

ぼおっとそれを見上げていれば、至近距離まで彼は近づいてきて。

私をぐっと、鋭い視線で見下ろす。

「・・・なんでこんなとこにいんだよい。。」

それは驚きといらだちがない交ぜになったような表情で。

「おいマルコ!なに威嚇してんだよ!」

サッチさんがあわてたように間に入ってくれたけれど、それでも鋭い視線は変わらずに。

「なんで、こんなとこで、こんなことしてんだって聞いてんだよい!」

ぶわり、膨れ上がる怒り。

それに対処する方法なんか知らなくて、思わず目の前のサッチさんにすがりつく。

サッチさんも私をそっと抱きしめながらマルコさんへ鋭い視線を投げかけて。


「ま、るこさんだって、かってにきて、かってにかえった、じゃないですかっ」


ぎゅう、とサッチさんにすがる手をゆるめることなくマルコさんを見返せばいっそう不機嫌そうに眉がひそめられて。


「俺があの世界でおまえに何度も助けられたとしても、俺はおまえをこの世界で助ける義理なんかねえからな。勝手に生きて、勝手に帰ればいい。」


あっさりと世界に放り出された私に、救いの手が差し出されることはなく。

唯一知っていた一人は、たった一人のその人は、私を受け入れてくれることなどなく。




歓迎されるなんて、

思ってなかったけれど。

嫌悪を含んだ視線で、

怒りを返されるなんて、

突き返されるなんて、





そんなこと、想像だってできなかった。















          
         2 リセット出来たらと願う話  




















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