ドリーム小説


























 せかいはやさしくなどなくて  









広い広い世界、

絶対に、もう二度とあうことなどなかったであろうあなたに、再び出会えた。


もうそれだけでいいやって、そう思いこむことにした。


次の島で降りよう。


そう決めたのは早かったけれど、結局次の島までの時間はだいぶん長いようで。


あの日、サッチさんが遠ざかってから、イゾウさんに拾われてから、なぜか私は彼のご飯係に決定されて。

それと引き替えに、小さな物置を自分の部屋として使うことを許された。


手に入れた自分の空間。

そこは、何一つ自分のものではない場所で。


身につけていた服はあの町で女将さんにもらったもの。

化粧水など、この船の上では貴重品なわけで、ナースさんたちに譲ってもらうことなどできるわけもなく。

けれども、どうせ次の島で降りるならばすべて一緒か、とそんな結論に至る。



サッチさんの女


そんな彼に失礼な名目は、

イゾウさんの雑用。

そんな名目に変化して。


ナースさんたちの洗濯と、イゾウさんの身の回りの世話。


私の仕事は二つになった。




この世界で私のことをはなしたのはサッチさんだけ。

マルコさんはあのときの言葉の通り、決して私に接触しようとはせず。

廊下ですれ違おうともまるでいないもののように扱われて。

最近では、サッチさんもそうなって。

私をみてもなにをいうでもなく、ただ、視線を逸らす。


船から下りるには、とても都合はいいけれど、やっぱり、それは悲しくて。

他の人だって、にたようなものだ。

サッチさんを裏切って、イゾウさんに媚びたのだろう。


そんな言葉が飛び交う船内


私は家族ではないから、向けられる視線はひどく冷たい。



。」


イゾウさんのゆったりとした黒髪をとかしていれば不意に名前を呼ばれる。

「なんでしょうか。」

答えればくるり、イゾウさんはこちらに向き直ってくる。

「おまえさん、本当に次の島で降りるのか?」

降りたいと、その話をしたのはイゾウさんだけ。

次の島に着いたならばそのまま行方をくらまそうと、そう思っていると返す。


「まあ自由にすればいいけどな。おまえは結構使い勝手がいいからな。」

けどな、


そうつぶやいたイゾウさんの手が、私の首へ、延びた。


気がつけば、目の前には天井とイゾウさん。

首には体温が低いイゾウさんの手。



「___俺が手放すかどうか、覚悟しておけばいい。」


ぞくりとするような、艶やかさで、イゾウさんは、つぶやいた。



「い、ぞう、さん」


震える声で名前を呼べば、くつり、笑われて、解放される。

「ま、せいぜい俺に気づかれないように逃げればいい。」

あわてて体を起こして、距離をとる。

手に持ったままの櫛を近くの机において、脱兎のごとく部屋から逃げ出す。

ここにいるナースの人たちは、女の人たちは、私なんかじゃ比べものにならないくらい、きれいな人たちばかりで。

私がそんな対象になることなどないと、そんな変な安心をしてた。



けれども、そんなことはないのだと、じわりと、気づいてしまって。



もう嫌だ、

さっさと、この場所から逃げてしまいたい。


自分の部屋へと向かって足を進めていれば、廊下の向こう、マルコさんの、姿。

その横に立つ、きれいな女の人。


あの場所にたちたかったわけじゃない

あの場所を望んだ訳じゃない


なのに、どうして、こんなにも世界は私に優しくないのだろうか。

この世界の人間じゃないから?

じゃあどうして、私をここに連れてきたの?

あの人に会わせたの?



こんなことなら、あの町で、あの人に再会することのないまま一生を終わらせてくれればよかったのに














夢を、みた。

青い青い、きれいな鳥が、私を包む夢。

暖かくて、優しい、蒼

ぎゅう、と抱きつけば、それに答えるように、その鳥はすがりついてきて。

もふもふの感触に、身をゆだねれば、この世界にきて初めて、こんなにもゆっくりと穏やかに眠れた気がする。


_おまえが、一番に俺を頼らねえのが悪いよい。_



緩やかな記憶の中、焦がれた声が、そうつぶやいた気がした。









「マルコさん、お話があります。」

島が近い。

その話を聞いたから、最後にもう一度お話ができれば。

そう思った相手はマルコさんで。

無視されるのを覚悟で声をかけた。

そうすればしばらく無言で見つめられた後、夜ならばあいていると、言葉を返されて。

「では、夜、少し部屋に行かせていただきます。」


小さな、約束。

この世界で、初めてかもしれないそれは、私の心を穏やかにさせた。


「なあ、俺もそれくいてえ。」


そばかすが健康的な彼に話しかけられても、快く、イゾウさん用に作ったご飯をお裾分けできるくらいには。









「マルコさん。」



名前を呼んで、ドアをたたけば気だるげな返事。

入っていい、その言葉に素直に扉を開けた


その先、に


「だあれ?マルコ隊長。」


ベッドに埋もれる、二人の、姿が、あって

マルコさんと、その、体の下に、女の人。

脱ぎ捨てられた服が、すべてを物語るように。



「___ああ、そういえば約束してたねい。」


髪をかきあげて、眠たげな瞳をこちらに向けて、ベッドの縁に腰を下ろす。

後ろの女の人に、ばさりとシーツをかぶせて。


「で、なんだよい。」

そのまま続けられる会話。

それに素直に言葉を続けられるほど、私は冷静ではなくて。


好きな人が、好きだった人が、そういうことをしているとは知っていたけれど、この目でみたかったわけじゃない。


「あ?」


ぼろり


気がつけば頬に水が、滴っていた。

この世界で初めて泣いたかもしれない

ぼんやりとした頭で、そんなことを考える。



「じゃまして、ごめんなさい。」

笑え、笑え

「そんなに大したことじゃなかったので、気にしないで続けてください。」

この人が私を思いだしたとき、少しでも、笑顔であればいい。


「さようなら、まるこさん」



どうか、お元気で


笑って、扉を閉めて、廊下にでて、ただ、走った。

自分の部屋に飛び込んで、ずるり、扉を背中に、座り込む。




もう、いいや。

全部、どうでもいいや。


最後は笑って、ありがとうと、さようならと、そうつげたかった。

嫌われているってわかっていても、少しだけでも話がしたかった。



ごめん、サッチさん。

私なんかのことで、わずらわして

ごめん、イゾウさん。

私なんかのことを、気にかけてくれて



大好きでした、マルコさん。

あなたが生きるこの世界で生きてもいいと思えるほどには。




けれども、もう全部終わりですね。


はじめから結果が見えていた恋は、ただ、苦しいだけのものでした。

何の取り柄もない私がこんな世界を生きれるはずもなくて




こんな船に乗り続けることだって、できるはずなくて。




明日、島に着く。


そうしたら、もう、私はこの場所から___















 
  5  唯一のつながりが消える話








せかいは

   やさしく

     など

        なくて



















※※※※※
ありがとうございました。






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