ドリーム小説
※※一部グロイかもです。
「まだ私の腕の中にいることに、安心すればいい。」
暗いくらい闇。
いつもならば聞こえるはずの虫の声さえ、響かない。
不自然なくらいの静寂。
無音に近いその場所はただただ恐怖を呼ぶ覚ますかのよう。
そんな場所に、彼女はいた。
「っ、」
がさり
近くの草が揺れる。
風のせいかもしれないそれはしかし、の恐怖心をさらに加速させるだけだった。
どくりどくり
うるさいほどに音を立てる心臓を必死でなだめるがそれはあまり効果をなさず。
混乱した頭ではあれど、それでもどこかは冷静に今の状況を理解していた。
くのたまではなくにんたまとして学んでいるではあるが、くのいちの子たちとも仲が良い。
妹を持たないにとって、後輩たちは可愛くて仕方がない。
今日もそんな幾人かを連れて、久方ぶりの休みを買い物をしたりして過ごしていたのだ。
そこまではなんの変哲もないただの日常、だった。
闇が近づき、空が赤く染まるころ。
いつもよりも遅い時間まではしゃいでしまったと慌てて学園への道を歩いていたたちの前。
現れたのは刃物を手に持ったがらが悪そうな幾人もの男たち。
にやにやとこちらを見る目は愉しげで。
咄嗟に後ろの後輩たちを庇うように前に立ち、彼らを見据える。
の実技の成績は悪くはない。
他の男の子たちのように力はないが、それを女性特有の柔軟さでカバーしているのだ。
しかし、それはあくまで忍者としての学びの中である。
忍びは最前線に立ち刀を振るう存在ではない。
闇に潜み影となり主を守ったり、また情報を集めるために暗躍する。
何が言いたいのかというと、
つまり、彼女は忍びとして優秀ではあれど、不意打ちをつけないような相手、特に体格的に差がある男には、勝てようもないということだ。
もちろん、もそれは理解していた。
だが彼女の後ろにいるのは守らねばならない存在たち。
の行動は決まっていた。
太陽の光などとうの昔に消え去り、静寂と黒が支配する世界。
思うのはにがした後輩たち。
自分をおとりにして彼女たちを学園へと向かわせてからは結構な時間がたっている。
可愛い後輩たちは無事にあの安全な箱庭へと帰れただろうか。
ぐっと、息をひそめて、時が過ぎるのを待つ。
この闇夜の中動くのは苦ではないが、相手の数が多すぎる。
どのようにすればいいか、頭は回れど、いい考えは浮かばず。
と、
がさり、再び近くの草が揺れる。
同時に溢れる嫌な気配。
いつもであればもっと早く気が付けるはずだったそれは、焦った思考によって遮られて。
「みいつけた」
その言葉はまるで、地獄への招待状のようだった。
一人に見つかれば、まるで砂糖にたかる蟻のように、集まる男たちに身の毛がよだつ。
女である自分が、男である人間に捕まればどのようなことになるか。
理解はしていても、知識として持っていても、対応できるはずなどなくて。
「っ、」
伸ばされる手が、ただ怖くて。
身をよじっても、それはすぐに抑えられて。
声を上げようにも手でふさがれてしまえばどうしようもなくて。
怖くて怖くて、
ふわり
突如、よく知った気配がその場に現れる。
同時になくなる体への重み。
そして辺りに広がる、怒りにも似た感情。
目の前に広がる濃い緑
「おまえたち、だれだ?」
その獣は、音もなくの前に降り立つ。
ここからでは見えないがその口元は楽しげに上がっているのだろう。
「私はお前らを知らない。」
この場所はこの人の縄張り。
とてもとても強くて恐ろしい獣の。
「お前たちは侵入者だ」
ひゅ、と空気を震わす音。
すぐにどしゃり、その場に落ちる重みのあるものがおとされた音。
その獣に隠されて、はそれらを見ることはない。
でもにおいが、濃いにおいが辺りに漂って。
「そして」
ばさり
の体にかけられたのは自分よりずっとずっと大きな衣服。
彼女の体をすっぽり覆うそれはまるでじしんをやさしく包み込むようで。
「私の大事な存在に手を出した。」
ひたり、辺りに広がった静かな怒り。
でもそれはを落ち尽かさせてくれて。
「覚悟は、いいな。」
低い声。
耳を打つ慣れた声色。
一瞬の乾いた音と同時に、それは消えた。
「」
そっとかけられた声。
びくりと体を震わせれば、ゆっくりと伸ばされた手。
それにすら縮こまれば、今度は少しばかり強引に掴まれて。
「っ、や、」
先ほどまでの恐怖がよみがえる。
怖い怖い、
そんな感情にのまれそうになったのを止めたのは、やっぱり目の前の存在で。
「」
愛しむように、慈しむように、呼ばれる名前。
「」
何度も何度も、落ち着くように、なだめるように。
「こへいた、せんぱい、」
ようやっと向けられた先、見つけた瞳はひどく優しい色をしていて。
「遅くなったな。すまなかった。」
ほろりほろり
それはまるで魔法の言葉のよう。
柔らかくじんわりとを溶かす。
「あの子、たち、は、無事です、か」
「大丈夫だ。無事に学園に戻ってきてあったかいご飯を食べて、ゆっくり休んでいる。」
それに安心して。
ふ、と緊張が途切れた。
「怖かった、です。」
「ああ。」
引き寄せられた腕の中、その温もりに縋るように。
「誰も、来てはくれないと、思っておりました。」
「私が来ただろう。」
ぽんぽんと優しく背を叩かれて。
「嬉しかった、です、」
「間に合ってよかった。」
ふわり、まるで幼い子供のように、まぶたが沈む
温かい場所。
安心できる場所。
絶対的な安全領域。
「眠れ、。」
「深く深く。」
まどろむ中、音としてはいってくるだけの声。
「そして目が覚めた時」
意味をなさぬそれは、きっと起きた時の記憶には残っていない。
「まだ私の腕の中にいることに、安心すればいい。」
小平太にたすけてほしいというだけの願望。
最後はこれからは離さないよ、という意味で書いたのだが、若干わかりにくかった・・・。無念。