ドリーム小説
「・・・頼むから好きな娘相手くらい恰好つけさせてくれ。」
カツン
軽い何かが刺さるような音。
委員会が終了して闇色に近づく空の下。
があるいていれば聞こえてきた音。
何事かと思いそちらに足を向けた。
その先。
ヒュ
カツン
視えたのは紫色の忍び衣装。
暗くなってくる世界の中で、その存在は何よりも輝いて見えて。
うぬぼれで自尊心が高い。
後輩たちにはうだうだと話をすると嫌われてばかりいるその先輩。
けれどもは知っていた。
その人は、うぬぼれてもいいとおもうほど、誰よりもまじめに学び、吸収し、努力していることを。
自尊心が高いということは、自分を何よりも磨くことを怠らない人であるということを
うだうだと話をする中には、後輩たちへの愛が詰まっていることを。
委員会も終えて、疲れているだろうに。
いつもは艶のあるその髪も、そこはかとなくよれてみえて。
まっすぐと先を見据えるその瞳も少し疲れているように見えて。
それでも、その人を、は綺麗だと感じた。
「?」
ぼおっと、ただその存在を眺めていればふいに向けられた視線。
まっすぐなそれに、思わず息をつめれば、ふ、と軽く息を吐く音。
「どうしたんだ?」
柔らかく笑むその表情に、引き寄せられるようには彼に近づく。
「さすが、滝夜叉丸先輩です。」
ぽつり、声を漏らせば、驚いたような表情。
後、照れたように笑う。
いったいどれくらいの人が知っているのだろうか。
この人が褒められた時に一番静かになるのだと。
この人は褒められた時とても嬉しそうに笑うのだと。
「全て、真ん中に刺さっておりますね。」
的を見ればどれもこれも、きそうように真ん中に刺さっている。
「いつも、頑張っておられますものね。」
委員会でも、授業でも、この人は何一つ手を抜くことなく。
わからないことがあれば、迷わず人に問う。
教えを請えば、優しく導いてくれる。
「私も、見習わなくては、なりませんね。」
ふわり、笑って楽しげに告げたその言葉は、むっとした声によって遮られた。
「」
低い声に驚いて彼を見れば、その瞳は起こっているというよりも不満げなもので。
「あまり私を見くびるな」
「・・・え?」
の言葉は間抜けにその場に響く。
「私が知らないとでも思っているのか?日々努力しているお前のことを。」
一歩、近づかれた距離に息が苦しくなる。
「男である私たちについていけるようにと、毎日必死に努力していることを。」
まっすぐなその視線は、そらすことを許さない。
「」
呼ばれた名前が、ひどく心地がよい。
「私はお前の頑張りを認めているのだ。」
するり、伸ばされたう手がそっと頭に乗せられる。
「あまりそれ以上頑張らないでくれ。」
「・・・え?」
先ほどとはまた違った声が口からこぼれる。
滝夜叉丸の表情は苦しげで、笑っているのに泣いているようで。
「それ以上頑張られてしまっては、私が追いつかれてしまう。」
くしゃり、髪が柔らかく撫でられる。
久方ぶりのその感覚に、顔に熱が上がるのを隠すように下を向く。
「私は、お前の先をずっと歩いていたいというのに。」
絞り出すような声が、心に響く
「頼むから、無理をして先に行こうとしないでくれ。」
顔をあげたいのに、その表情を見たいのに。
手が思ったよりも強く押さえつけてくるものだから動けなくて。
「滝夜叉丸先輩・・・?」
黙りこまれてしまえば沈黙が苦しくて、そっと名を呼べば瞬時する気配。
「・・・頼むから好きな娘相手くらい恰好つけさせてくれ。」
「・・・え、」
その意味を理解する前に、引き寄せられたの体はふわりとしたぬくもりと柔らかなにおいに包まれていた。