ドリーム小説
「さっさと俺に落ちろよ、無自覚方向音痴。」
「さんのすけえええええ!!」
響く声。
脱力する後輩たち。
視えない暴君。
最後のとりでであった滝夜叉丸ががっくりと座り込んでしまった瞬間、辺りには何とも言えない静寂が満ちた。
「なんでだ?なぜ今日はこんなにもすぐにいなくなるのだ?今日何回目だと思っているんだ!?」
その言葉ももっともである。
というのも、彼、三之助がいなくなるのは今日五回目。
そのたびにすぐさま結成された三之助調査隊によって(隊員は四名。暴君のぞく。)探しだされていたのだ。
が、今回、というかたった今、まるで幻術でも使ったかのように三之助は消えたのだ。
皆が一瞬目を離したその隙に。
見事に消えたのだ。
「また見つけた瞬間に言われるんだぞ?先輩たち何処に行ってたんですか?・・・てなっ!!」
精神的にも限界なのか、滝夜叉丸がくつくつと笑っている。
それをみてどんびきしている二人の後輩をみて笑う。
「では、さっそく私は探しにまいりますね。金吾ちゃん、しろちゃん、滝夜叉丸先輩のことをお願いしますね。」
これ以上あの人に負担をかけるわけにはいかないと一人で動き出す。
あっちへふらふらこっちへふらふらする彼は何処に行ったのだろうか。
うろうろうろうろ。
視えない彼を追うように足を動かす。
先ほどおられたばかりの枝を見つけてはそちらへと向かう。
そうしているとふいに目の前に見えた黄緑。
三年生の服の色は森の中では見つけにくいなあ、と自分も来ているのを棚に上げ思う。
「三之助君。」
ふらり、また姿を消そうとするのを慌てて捕まえて名を呼ぶ。
くるり、振り向いた彼はしばし止まった。
「・・・あ、発見。」
がちり。
つかんだはずの腕を逆にがちりと掴まれる。
「?」
「まったく、何処にいってるんだよ。本当にみんなよく迷子になるよなあ。」
先ほど滝夜叉丸が述べたことが正解だったわけだ。
くすくすと思わず笑いが漏れる。
「ん?何笑ってるんだ。」
「三之助君の無自覚方向音痴もここまで来るとすごいなあって思ったんです。」
面白くて仕方がない。
そんな口調で話していれば、ぐっ、と強くなる腕。
掴まれたままであるからさすがに少し痛い。
「三之助君。少し痛いですね。」
困ったように言葉を紡げど三之助の力は弱まらない。
目を合わせようにもなぜかそらされて。
「ひゃ、」
ぐい、と引っ張られてそれにつられてふらつけばぽすり、軽い音を立ててあったかい何かにつつまれる。
そのまま再び引っ張られて、重力に従いながら体をねじれば今度こそすっぽりと、ちなみにこんどは背中からぽすりと包みこまれて。
「あら?」
後ろから抱きしめられるような形で座り込んで、その状態の不思議さには首をかしげた。
「無自覚方向音痴」
先ほどが三之助にはなった言葉がなぜか鸚鵡返しのように返されて。
「え?」
「それはあんたのことだよ、。」
後ろから回された手がのお中の前で交差する。
擽ったいそれに小さく声を漏らせば微かに後ろの彼が身じろぐ。
「どういうことです?」
言葉の意味を測りかねて問えば、むすりとしたような口調で返される答え。
「そういうとこが無自覚。」
残念ながらには理解ができない。
だがしかしなにかしら三之助の機嫌を損ねてしまったということだけ理解できた。
「ごめんなさい?」
とりあえず謝ってみようかと謝罪を述べれば、ため息。
「いい加減、気がつけよ。」
ぐっと距離が詰められる気配。
「いつになったら俺を見るのさ。」
耳元でつぶやかれる言葉に、顔が赤くそまる。
「いつまで違う方向に向かってんのさ。」
ぞくりとするほど色濃いそれに、思考が止まる。
「さっさと俺に落ちろよ、無自覚方向音痴。」