ドリーム小説
神無月三十一日
「ああ、そういえば今日はハロウインでしたっけ?」
朝晩の冷え込みがきつくなってきたこのごろ。
白いシーツをかぶった後輩二人を見て呟いた。
「はろういん、ってなんだ?。」
ぼそり呟いたその言葉にすぐさま反応を返してきたのは委員会の先輩である三郎であった。
「仮装してトリックオアトリート、お菓子を持っていないならば悪戯するぞ、そういいながら人を訪ねていく行事です」
「それはそれは、すごく面白そうではないか」
にやり孤を描く口元に、そのあまりにも楽しそうな声に、
しまったそう思っても後の祭りだった。
とりっく、おあ、とりーと!!〜お菓子?それとも悪戯ですか?〜
「「立花先輩〜!とりっく、おあ、とりーと、です!」」
作法委員の後輩たちがいつもとは違う格好をして菓子をせがんで来る、その姿に頬が緩む。
事前に雅に聞いていた知識があるので、きちんと用意していた菓子を配ってやる。
きゃあきゃあ言いながらどこか他のところへ向かうその姿を見送っていれば新たな気配。
振り向けば、いつもとはまったく雰囲気の違う、がそこにいた。
「立花先輩、トリック、オア、トリートです。」
ふわり微笑みながら両手を差し出す。
いつもより妖艶に見えるその姿はそう、服装のせいであろう。
ふんわり、桜色の下地の服はの白い肌によくはえる。
そこに一筋引かれた紅の赤がさらに顔全体を引き立てて。
「桜の精にでもなってみようかと思いまして。」
言葉なくその姿をしみじみと眺めているとことり、首をかしげてそういうはとても様になっている。
だが、どことなく感じるのは、違和感。
「くれないのでしたら、悪戯ですよ?先輩。」
その口元が笑みを彩る。
「お前からの悪戯と言うのは大変興味深いな。」
ずい、と顔を寄せればふ、と一歩下がる。
「立花先輩は、悪戯がご所望で?」
くい、と下がった状態から首だけを伸ばし下から覗き込まれる。
常にはないその艶気に思わず息が詰まった。
ぽん、と金平糖の包みを手のひらの上に乗せてやれば、すぐさま体を離してにこり、笑う。
「別に私は悪戯でもかまいませんでしたのに。」
そういって去って行ったその姿。
「・・・・・・ああ、そうか・・・」
気づかなかった自分が恨ましい。
それは願望と言う名のフィルターがかかっていたのようだ。
「食満先輩っ!」
廊下を歩いていたら、かけられた声。
それに振り向けばいつもとまったく違う雰囲気の後輩がいた。
「・・・・・・、か?」
「はい、先輩っ、トリックオアトリート!です!」
脳裏に先ほどまでの後輩が映る。
そういえばしんべエに全部やってしまったなあ、そう思いだす。
「あー・・・すまないな・・・実は全部なくなってなあ・・・」
あたまをがしがしとかき回しながら、申し訳なく思いながら言えば、そこには落ち込んだ顔があるかと思えば
にやり
そこには艶色含んだ鮮やかな笑み。
「でしたら、先輩はいたずら、ですね?」
ゆっくりと距離が詰まる。
動こうにも、その瞳に魅了されて動けない。
ゆるり
持ち上がる手。
桜色から除く腕は白く、穢れなくみえて。
胸元に手を添えられて至近距離で覗き込まれて、その瞳の深さに瞠目する。
これは、誰だ?
決まりきっているはずの答え。
でもそれは結びついてくれなくて。
「鉢屋先輩ー!!」
廊下の奥から聞こえてきた声に、目の前のはくすりと笑って一言、
「残念」
そうもらすとふらりと消えていった。
いまさらながらに顔に上がる熱。
後ろから現れた新たな存在に、意味を悟る。
「・・・・・・そういうことかよ・・・」
ちょっと、動揺しちまったじゃねえか・・・
「木綿と絹ごしはな___」
兵助の話を右から左へ聞き流して、今日は生物が脱走していないから平和だなあ、と思っていたとき。
どん
後ろに感じた衝撃に、
首に回った白い腕に、
耳元で感じる甘い吐息に、
体中の温度が上がる気がした。
「え?ちょ、え!?」
そのまま思考がとまって。
「じゃないか・・・・・?」
考えが姿を現す前に兵助の言葉。
微かに疑問系だ。
でもそんなことよりも、今、といったか?
あの三郎の後輩でなかなかいい動きをする、さらにはあの孫兵となかなかな関係を築いているあの、か?
「久々知先輩、竹谷先輩。トリックオアトリート!」
耳元で聞こえたその声は確かにそのものの声で。
その言葉は確か後輩たちが口にしていたもの。
雅さんがいっていたはろうぃんと言うものの代名詞なのだそうだ。
「ほら、。」
後ろにくっつかれたままで、どうしようかと考えていれば、兵助が懐から一口大の大きさの白い物体を出してきて。
「お菓子だ。」
いや、どうみても豆腐だが?
それを礼の言葉と共にうけとったは次いで俺に言う。
「竹谷先輩は何もくれないんですか・・・?」
耳元でしゃべらないでほしい。
こそばいんだ。
「ええと、ちょっとまてよ・・・・・・?」
ようやく正常に戻ってきた頭が懐に手を入れるよりも先に、考えを始める。
と言う存在は、こんなのだったろうか?
考え出せば、違和感がありすぎる。
こいつは触れられるのには気をよくするが、自ら触れることはあまりみない。
それなのに交流はあるがそこまで親しいわけではない俺にするか?
さらには、こんなに色気はない。
もう一つ言えば、一つしたのこいつに気づかないほど、気を抜いては居ない。
それらの考えが導き出したのは、まごうことなく一つの結論。
腕を取ってうりゃと思い切り投げる。
それに驚いたような表情を浮かべたのは一瞬。
すぐさまそれはにやりと笑い、体勢を立て直す。
「お前っ__」
叫ぼうとしたがそれは手のひらによって妨げられて。
「先輩、秘密にしておいてください、ね?」
ふわり
妖艶に笑われれば言葉をなくして。
そうしてそいつは姿を消した。
今日はお菓子がよく手に入る日だ。
ということはつまりもお菓子を装備しているはず。
ならば、もらいに行こう。
そう思って歩いていた刹那。
「喜八郎!」
聞きなれた暖かな声が耳に届く。
微かな違和感と共に。
「・・・・・・。」
振り向いたそこ。
居たのは間違いなくだ
私の大事な友人のだ。
たとえいつもとはまったく違った格好をしていようと、
常に浮かべることはない、ありえないほどの満面の笑みをしていようと、
見たことがないほど妖艶なその気配であろうと、
それはであるはずだった。
でも、ちがう。
どんなにその姿が、声が、であっても、
それは、これは、ちがう
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で見つめ続けていれば、はらり、苦笑して、次の瞬間には消えていた。
「・・・・・・さ、を探しに行こう。」
さて、今日の委員会は何をしようか。
そう思案していれば現れた一人の後輩。
いつもとは違うその格好はとてもよく似合っている、が。
「何をしてるんだ?鉢屋?」
「何のことですか?七松先輩?私はですよ?」
微かに引きつた表情。
まったく隠せていないぞ、鉢屋。
「へえ、よく化けているなあ。・・・でも、違う。違和感を感じるぞ。」
そっくりなそいつはでも、まったく違うもの。
いつも以上に感じる違和感。
まるで___
と、すごい勢いで新たな気配が近づいてくる。
これは明らかに。
逃げようと体勢を整えた鉢屋の腕を掴みにかり、笑ってやる。
「暇なんだったら、バレーするぞ!」
さらに顔が引きつる。
「ごめんなさい、先輩、用事が___」
「っ、見つけましたよ!!鉢屋先輩っ!」
現れた紫は、共に最高の助け舟を連れてきていた。
「あ〜あ、見つかったや。」
ぼんやり呟く声はすでにいつものそれ。
「三郎?」
「げ、雷蔵・・・」
だが、やはり同じ顔には勝てないようで。
「うん。自分のしたことわかってるよね?」
「いや、これはだな・・・」
「ふふ、さて、三郎、行こうか」
引きずられて行くその姿を見送って、横で脱力しているにそういえばと思い話しかけた。
「、とりっくなんとかなんとかだ!」
「いや、もう、原形とどめてませんから・・・。」
にこり、笑みを見せた後、一瞬で三郎は姿を消した。
それに体中から血の気が引く。
明らかに、何かをするつもりだ。
そう思った瞬間居てもたってもいられなくなって、全力で動き出した。
「あ、先輩!とりっくおあとりーと!」
「ああ、きり丸。ほら、どんぐり飴だ。これで今は我慢してくれ。ところで、鉢屋先輩見なかったか?」
「ありがとうございます!いえ、見てませんよ。」
「ならいいんだ、ありがとな。」
廊下であったきり丸はきらきらとした目をしていて。
正直にねだってきたので懐の飴玉を分けてやって。
収穫は得られなかったので、次なる場所へと向かう。
「あ、先輩。」
「!・・・三反田。」
「はい、そうですよ。」
廊下でのほほんとしていた数馬にあたりそうになり慌てて立ち止まる。
「お前は、参加しないのか?」
「みんな気づいてくれないんですよ・・・」
しょんぼりとした様子で告げられたので袖からお饅頭を出して渡してやる。
「わ!いいんですか?」
「ああ。食べてくれ。」
うれしそうな数馬を通り過ぎて、三郎を探す。
「っ、どこに行ったんだ?!鉢屋先輩はっ!」
きょろきょろとあたりを見渡していれば葉の緑とはちがう、若緑。
「あれ?先輩っすか?・・・おかしいな、さっき向こうに居たと思ったんすけど・・・」
「三之助。それ詳しく聞かせてもらおうか。」
首をかしげる三之助。
その言葉に最悪の事態が起こっていることを感じると三之助に詰め寄った。
「つまり、俺が女装してたってことか?」
「はあ、まあそうですね。」
「まじで、鉢屋先輩、いやだ」
ありがとう、そう告げて動き出そうとすればくい、後ろに引っ張られる。
「先輩、とりっく、おぶ、とれーど?」
「三之助、それなんか違う。」
お煎餅を渡して、三之助に教えられた場所に向かう。
そこにはなんともいえない顔で立ち尽くす仙蔵が居た。
「立花先輩!」
声をかければゆるり振り向き、そして全力で脱力した。
「やはり、あれはお前じゃなかったのか・・・」
ちらり、体を眺められて、再び溜息。
むっとしたのは仕方がないだろう。
「さっさと行かないとひどいことになるぞ。」
その言葉にさあ、と背筋にやなものが駆け巡る。
仙蔵に礼を言って走り出せば後ろから呼び止める声。
「はえ?」
振り向けば飛んできた包み。
同時に漂う甘い匂い。
「味わって食べなさい。」
それに改めて頭を下げて、さらに進んだ。
「食満先輩!」
廊下のさきに見えたのはずるりと廊下に座り込む先輩。
やな予感がするのを必死で打ち消して。
振り向いた先輩の口元がもにょもにょと動くのが微かに見えた。
目があったにもかかわらず、ふい、と不自然なまでにそらされて。
すぐそばまで行って明確に見えたその顔は真っ赤。
何したんだ、鉢屋先輩!
「ごめんなさい、食満先輩!」
心の中で盛大に叫んで、とりあえず頭を下げる。
そうすれば目を合わせないままではあるが、気にしなくていい、と言う言葉が返ってきて。
目を合わせてくれないことに不安を感じてぐいと覗き込めば、さらに赤さを増す顔。
思い切り後ろに逃げられて、衝撃を受ける。
(いや、俺は悪くない、俺は悪くないはずなんだけど、え、ちょ、マジで、どうすればいい?!)
頭の中がぐるぐるして必死で考えをめぐらせていれば、ぽん、頭に暖かい感触。
そっとそれを見れば、まだ赤いままではあったが、留三郎がにかり、いつものように笑っていて。
「気にしなくていいぞ。大丈夫だから。ほら、さっさと行かないともっとやばいことが起こるんじゃないか?」
その言葉に脳裏をよぎる様々な想像にとりあえず頭を下げて、走り出した。
示された先へ向かえば、そこには蒼。
「不破先輩!」
最高の切り札を見つけた気分だ。
事情を話して付いてきてくれるように頼めば絶対零度の笑みを浮かべた人がそこに居た。
「うん。もちろん手伝うよ。」
・・・・・・なんか人選、間違えた?
何かをされたのであろう兵助と八左エ門に全力で謝って。
運動場で三郎の捕獲に成功して、雷蔵に連れて行かれる三郎を見送って。
そうしてバレーに誘ってくる小平太から離れることに成功して、疲れきって廊下を歩く。
と
「。」
ぎゅむと後ろから抱きついてきたそれは大事な友人だ。
「ちょうだい」
主語も何もあったもんじゃない。
でもそれが示すものはわかっているから。
「ほら、喜八郎。」
手のひらに和菓子を置いてやれば、あまり変化がないその表情が微かにほころぶ。
その姿が可愛いから、あげずには居られないのだ。
大事な大事な、かけがいのない友人。
※※※
ハローウィン夢。
色気が微塵も感じられないにかわって三郎に出演してもらいました。
・・・・・・カオスだ。
三郎と喜八郎のひいきがよくわかる、ね。
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