ドリーム小説
名前を呼んで
どさり
その音は暗い森の中でよく響いた。
冷たかった刃はぬれた液体で生暖かく。
頬にも付いたそれを袖でぬぐう。
は、と詰めていた息を吐き出して。
そっと空を見上げる。
そこは月も、星もなく、真っ暗。
普通の人にとってすごしにくいそれは、忍びにとっては味方となる。
(帰ろう。)
学園にくる依頼。
それは先生方の判断により生徒に振られることが多々あって。
今回のもそれ。
近くの村に仇名す山賊がいる。
それを始末せよ、とのこと。
昨日同室のものとともに言われたそれだが、同室のものは今日体調を崩して。
なので私一人で参加したこの任務。
こなすことはできたが、体中むせ返るような錆のにおい。
(気持ち悪い。)
でも、この感覚に慣れそうになっている自分に気づく。
(早く、帰ろう。)
再び思い歩き出す。
でも、
「・・・どこ、に?」
あれ?
私はどこへ帰らなきゃいけないんだっけ?
ふわり、なおも色濃い錆のにおいに思考が鈍る。
私は、どうしてここにいる?
私は、何をしている?
愕然と立ちどまる。
ここはどこ?
どこにかえるの?
いまなにをしていた?
わたしはだあれ?
どくりどくり
心臓の音がじかに聞こえるような感覚。
背が冷える。
「っ___」
呼吸が苦しくなる。
ひゅうひゅうとのどが音を出す。
わたしはだれ
ここはどこ
いまはなに
なにをしていたの
どこにかえれば
い い の ?
思考が先ほどまでと違い、白く白く染められていく。
目の前がちかちかとして立っていられなくなって、
私は、わたし、はっ___
一際大きく息を吸ったとき
「!」
響いた声は知っているもの。
届いた名前は___
ぼんやりとした記憶の中浮かび上がるのは明るい笑顔。
優しい先生
尊敬する先輩
可愛い後輩
ああ思い出した。
わたしはわたしで
わたしは忍務を受けてここにいて
わたしは確かにこの山賊さんたちを殺めて
そして
私の帰る場所は、あの場所。
優しさにあふれる暖かな陽だまり。
大切な大切な、友人たちがいるあの場所
ゆるり目の前に、夜の闇の中なお黒い漆黒の髪がたなびき、おちる。
「」
「っ、・・・へぃ、すけ、」
心配そうな優しい顔に覗き込まれる。
「大丈夫??」
「っらい、ぞう」
いつもとちがう狐の仮面をかぶったそれはどうしてだろうか。
「怪我はしてないな。」
「さぶ、ろ」
雲の合間からこぼれだした月の光を受けてきらきらと輝きだした銀色。
「無事で、よかった・・・。」
「はちっ、ざっ」
ふにゃり、固まった心をほぐすかのような笑みで。
「いつもは無理するんだから。」
忍びであれば、当たり前のこと。
本当であれば、手出しは無用。
命を落とせばそれまでで。
それでも彼らは心配してきてくれて。
優しくて大切な仲間たち。
どうか今だけは許してください。
忍びの卵である今だけは。
この優しさに浸るそのときを。
「お疲れ様。」
手に握り締められたままだった刀からやっと手が離れて。
「湯の準備も食事のしたくもできてるよ。」
優しく髪をなでられて。
「疲れただろ?」
にかりとした顔で笑みをくれて。
「がんばったな。」
ぽんぽんと肩を叩かれて。
「「「「おかえり、」」」」
「さ、学園に帰ろう?」
それは私がこの場所にいることを許してくれる言葉
あなたたちがいるから私は私でいられるの。
た だ い ま
※※※
・・・くらい?
でもこんなシリアスけいがすき。
ちなみに三郎が狐の仮面なのは急遽、忍務にいっているのを知って慌てて飛び起きたから。
若干変装してる間がなかった、というよりその間さえ惜しかった、という設定だったり。
(この話の中では寝てるときはちょいと変装はずして、狐の面とかかぶってるといいな。)
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