ドリーム小説
あまとうおんな おとなりさん
「さて、お隣さんに挨拶だ。」
引っ越してきてまだまだがらんとした室内。
荷物もそんなに多くはないため段ボールの数も少ない。
今日から私、ことの一人暮らしがスタートだ。
関西と関東。
同じ日本といえど、言葉はもちろん文化も違う。
この高校二年生という微妙な時期に転校した理由としては、まあ簡単にいえば両親の海外出張だ。
今までの学校でいいじゃないかと言いたかったのだが、残念ながらおまえの一人暮らしは不安すぎる。
そんなお言葉をいただいたため、仕方なく親戚が近くに住んでいる東京にきたのだ。
といってもあんまり親しくない親類と一緒に住むとか無理だとさんざん言い放ったおかげで、はれて一人暮らしをゲットした。
週に一度はその親類の家に顔を出すようにというのが条件だが。
引っ越し先に配るようにと作っておいた小さなクッキーの詰め合わせを手に持ってお隣に突撃だ。
甘さ控えめではあるが、苦手じゃなければいいなあ、と思いながら隣のベルを鳴らす。
が、
待てども待てども、住人は現れず。
「うむむ。仕方がない。ここは夜に回して他のところを先に済ませよう。」
あっさり足を方向転換して、は他の部屋へと向かった。
「んん、こんなもんだろう。」
あらかた片づけを終わらせて、目線をやった窓の外。
暗い。
「・・・・・・・・・電気をつけよう。」
見事なまでに集中していたからだろう。
それすらも気がつかず。
「晩御飯はどうしようか。」
台所に向かい、まだ設置されたばっかりの冷蔵庫をのぞき込む。
卵、牛乳、生クリーム、その他諸々。
「・・・ケーキでいっか。」
どう見ても窓の外は晩御飯の時間だ。
どうしてお菓子がでてくるのか。
それは彼女の両親が一人大阪に残るのをしぶった理由の一つだ。
彼女、はお菓子づくりの腕はプロ顔負けなのだが、いかんせん、料理が壊滅的にできないのだった。
「ん?」
スポンジを焼いていればかたりと音がした。
先ほど留守であった隣室からだ。
「おお、かえってきたんや。」
オーブンをそのままにエプロンも身につけたまま先ほど渡しそこなったクッキーを手にサンダルを履く。
そのままドアをでて隣の家のベルを躊躇なく押す。
「___はいはい、どちらさん?」
がちゃり、開いた扉の奥。
中から現れたのは胡散臭そうなめがねの関西弁だった。
「・・・初めまして。今日隣に越してきました、言います。よろしくお願いします。」
きょとん。
大人びた顔立ちの割に子供っぽい表情だ。
こてり、そんな効果音とともに傾げられた首。
こちらも思わず同じように首を傾げる。
つまり見つめあいながら互いに首を傾げるというおかしな状態だ。
第三者がみたら避けて通るだろう。
「これただのクッキーですが、よければどうぞ。」
持っていたクッキーをぽん、と目の前の人に差し出せば、はあ、と軽い返事とともに受け取ってくれるそれ。
「それでは。」
お隣といえど、そんなに深く関わることはないだろう。
そう思いながら自分の家へと退散しようときびすを返す。
「お嬢ちゃん、大阪からきたん?」
それを止めたのは先ほどから生返事しか返してなかったその人で。
耳慣れた関西弁に思わず振り向けば、にこにこと、相変わらず胡散臭そうな笑み。
「久しぶりに関西弁聞いて、思わずとまってしもた。俺ももともと関西におってん。」
今度はこちらが生返事の番だ。
見事なまでの関西弁。
この大都会東京にすんでいるというのにぶれていない。
この人がどれくらいこの場所にすんでいるかはわからないが、ふつうすんでいる場所の言葉につられるものではないのだろうか。
ある意味ものすごい執念だ。
「何かと不便あるやろうし、何かあったら頼ったらええで?」
笑みを浮かべて親切な言葉を放ってくれるその人。だがやっぱり思うのは胡散臭い笑み。という感想だった。
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