ドリーム小説














あまとうおんな せんぱい








「!忍足さん!」


入り口から聞こえた声。

それは頭が判断するよりも先に、体が動いていて。

頭をなでられていたそれを振り払い、ぱたぱたと出入り口へと走りよる。


ちゃんやないの。」


少々驚いたような表情の後、ふわり、いつものような胡散臭い笑み。

それがいつもよりも崩れて見えるのは気のせいなのか、なんなのか。


「日吉と同じクラスやってんな。」


ぽふぽふと先ほど会長がやってきたのと同じように頭をなでられる。

気持ちがいい。


「おい、忍足。」


その手に甘えていれば後ろから聞こえてきた会長さんの声。


。離れた方がいい。」


同時に引っ張られるからだ。

ぽすりと背中に当たる温もりと響く声。

見上げれば困惑の表情を浮かべながらも忍足さんをにらむ日吉くんの姿。


「なんやの、跡部も日吉も。そないなふうに睨まんでもええやんか。」


困ったような表情の忍足さん。

でもそこには偽ったような表情はなくて。


「転校生に手ぇだすな。」


ため息とともに忍足さんに向けられたのはそんな言葉。

困った顔は苦笑に変わる。


「別に手だしてるわけちゃうて。」

。忍足さんにはあまり近づかない方がいいぞ。」


日吉君からの忠告。

それがどんな意味を示すのか、それはよくわからないけれど。


「うーん。それは無理やねえ。」

「なんかあるのか?」


会長の言葉にへらり、笑う。


「お隣さんなんです。ついでに言うと、東京でのお母さん。」


それに驚いたような二人の気配。


「お母さんちゃうて、せめてお兄ちゃん言うてな。」


忍足さんの切り替えしに日吉君の腕が強くなって、なぜか日吉君の後ろに追いやられた。

困った忍足さんの顔が見えない。


「きめえ。」


会長さんの一言に苦笑を深める忍足さん。

なんだかおもしろい力関係だ。

そういえば、ひょこり、日吉君の後ろから顔を出して言葉を放つ。


「お母さん、今日のお弁当すごくおいしかったです〜。」

「ん、ならよかった。嫌いなもんあったら言うてな?」


どこの親子だ。

そんなつっこみが入りそうなほど自然なそれ。

出会って数日とは思えないほどのうちどけっぷりだ。


「ださんといてくれるんですか?」

「食べれるようにしたる。」

「まさかの?!」


そんな和気藹々とした雰囲気を醸し出すのは未だに二人のみ。

間に挟まれた日吉君はどうしたらいいのか、考え答えを出すのを放棄するように明後日の方向を見ていて。

会長に至っては無視されるという現象になれていないのか、ぴくぴくと頬をひきつらせていて。

ついでに言うとクラスメイトは次の移動教室に向かいだしており、すでにほとんどの人がいない。


「あ、デザート、持ってきたのまだ余ってるんでよかったら食べたってください。」


チャイムが鳴る時間へとあと一分を切った時計に気がつきあわてて鞄を取りに行く。

まだ数個残っている和菓子を鞄のまま忍足さんへ差し出して。


「よかったら会長も食べてください。」


今までの無視をものともせずあっさりかけられた言葉に面食らうのは会長で。


。次移動だ。さっさといくぞ。」


返事をするまもなく日吉君によって連れ出されたのを見ていることしかできなかった。


















戻る