ドリーム小説














あまとうおんな しんせき




















「忍足さん、私土日いないので、ご飯はなくて大丈夫です。」


そういって出発したのは日吉君たちと一緒に晩ご飯を食べた後の土曜日。
向かったのは神奈川にある親戚の家。
もともと東京で一人暮らしをするのを許された条件としてこの親戚の家に月一で参加することがあげられていた。

ひとまず転校して初めての土日。

おとなしく親戚の家に顔を出そうとは家を出たのだ。



「いらっしゃい、ちゃん。」

「こんにちは、おばさん。」


見た目からでは年齢不祥なその人は、ふわふわととてもきれいに笑う。
母とは
血がつながっているはずなのにいろんな面で似ていない。

「あれ?赤也は?」

いつもであればが来た瞬間大型犬のように飛びついてくるはずの同い年のいとこ。
その姿どころか気配が見えないため訪ねればころころと楽しげに笑うおばさん。

「あの子今日部活なのよ。帰ってくるのは夕方ね。」

「そうなんや。んー、じゃあがんばって帰ってくる赤也のためになんか作ろうか。おばさん、お台所貸してくれる?」

中学に入ってからの赤也は部活に忙しくなったみたいだ。自身、実はここのところ全然会っていないためあの子が何をしているのか、どんなことをしているのか、まったく知らない。

そんな彼に久しぶりに会うのだから、彼の好きなものでも作ろうかと台所に立つ。

ちゃんのお菓子、おばさん大好きだから楽しみだわ。」

ふわふわ笑うおばさんに笑って返して、さて、何から作ろうかと家から持参したエプロンをつけた。












「ただいまー!」

夕方18時すぎ。

まだ暗くはないが、うっすらと外が夕闇に包まれる時間帯。

作り終えたお菓子を冷やしたり、仕上げをしていれば聞こえてきた元気な声。それと同じ場所から聞こえてくるにぎやかな話し声。

誰か友達でも連れてきたのだろうと思いながらも手を休めることはなく。

「おかえり。」

まだ見えぬその姿に向かって声を上げれば、ぴたり、止まる話し声。

そしてすぐにばたばたとせわしない音と「赤也?!」と驚く聞いたことのない声。

ばたばたとした足音は止まることなどなく、一直線にこののいる台所へと向かっていて。

?!」

ばっ、と廊下を滑るようにして現れた黄色を身にまとった少年。
黒い癖のある髪がふわふわと揺れて。

を目にした瞬間、ぱっ、と花が咲くように明るくなる表情。
こぼれんばかりの笑みはそのままにがばりと手を伸ばされて、ぎゅう、と抱きしめられる。

なんだか全力で喜ぶしっぽと耳が見える気がする。
すりすりと首もとにすり寄ってくるそれは忠犬だ。

ぎゅうぎゅう、加減なくされるそれは少々苦しいが再会を喜んでくれている様子なのでなんとも怒れず。

「赤也大きくなったねえ。」

前は同じくらいの身長だったのに、少しみないうちに行つのまにここまで大きくなったのか。

くしゃりとその髪をなでてやればさらにうれしそうにすり寄られる。
おい、苦しい。

、久しぶり!」

それはそれはうれしそうに言うものだから、こちらの頬もゆるんで。

「久しぶりやねえ、赤也」

同い年というのに弟のように感じる赤也。小さな時からいろんなものを作っては与えてきた、いわゆる餌付けのたまものといえよう。



「うお、なんかすっげーいい匂いすんだけど。」

「赤也、どうしたんじゃ?」

目の前の赤也のその向こうから聞こえてきた声。
残念ながら赤也の背によってその方向への視界はゼロ。
誰かいるのはわかるが声以外で確認することもできずに。

「赤也、赤也〜?」

ぺしぺしと頭をなでていた手で腕を放すようにとたたけば、ぎゅう、ともう一度力を入れて、そして顔を上げた。

「うっわ!何これおいしそう!!」

のいてくれた赤也の向こう。
目がチカチカするような赤色と銀色が瞬く。

赤い方が台所に広がる甘いものに目をやってきらきらと輝かせる。

銀色の方も少し驚いたようにそれらに目をやって、そしてこちらに向き直った。

「赤也、友達?」

「ちげー。部活の先輩。」

友人かと思って問えばそんな返事。
まあ確かにおなじ年だったら、なんというか、何ともいえない気分になりそうだが。

「・・・あのね、赤也、先輩も良いけど同級生の友達も作りなね?」

「ちゃんといるって!!」

小さな時から年上ばかりにかまわれていたため同年代の子たちとつるむことがあまりなかった赤也。その弊害のように、小学校の頃は同じ年の友達は多くなかったようで。

そっと慰めるように肩に手をおいて紡げば怒ったように張り上げられる声。

まあ、完璧に怒っているわけではないとわかっているので問題はないが。

「初めまして。赤也のいとこのいいます。いつも赤也が迷惑をかけてすみません。」

「ちょ、!なんで迷惑かけてること前提なんだよ!」

「だってその通りやろう?」

「!〜〜〜〜っ、」

ぐっと口をつぐんで言い返さないと言うことはその通りなのだろう。素直さは幼いときから変わることはないようで。
そんなかわいいいとこの頭を一度二度、なでてやる。
むっとしたように視線を逸らすけれどその表情はどちらかといえばうれしさを必死でこらえるような顔で。

「ほんまに、赤也は素直やねえ。」

そして本当に背が高くなった。
前は簡単になでれたというのに、今は結構背伸びしなければば届かないとか。

「なあなあ!これ作ったん、お前??」

赤也と戯れていれば、きらきらした赤色が楽しそうにこちらに向かってきて。

それにうなずけばさらにその瞳は輝いて。

「いつも赤也お世話になってるみたいなんで、よかったら食べてください。」

どうぞどうぞと笑って言えば、赤色はえらく俊敏に動いて。

「ちょ、丸井先輩!一人で食べないでくださいよ!」

赤也がすごい勢いで食べだした赤い人をあわてたように止めにいく。

仲がいいようで何よりだ。

にこにことしながらそれを、みていれば、さらり、髪が何かに触れた。

何事かと振り向けば赤也よりもずっと高い人物が後ろにいて。

銀色が鮮やかに光るものだがら光が反射して少々目に痛い。

だがそこよりもなにより、注目すべきところは彼の手がさらさらとの髪に触れていることで。

「どうかされたんですか??」

無言で髪をさわられればどうすればいいのかわからず、問うた。

するとそれにようやっと目の前の銀色は視線を髪から動かして、まっすぐにを目に移した。

きれいな色。

髪だけでなく、瞳も、まとう雰囲気もひどくきれいな人だと、そう感じる。

「仁王雅治、じゃ。」

におうまさはる

突然告げられたそれは名前なのだろうが、突然すぎて答えを返せず。

「よろしくな、チャン。」

にこり、なんだか似あわぬ笑みで名前を呼ばれて。

返せたのははあ、という乾いた返事。

「なあ、俺、甘いの苦手なんじゃけど。」

髪を触る手はそのままに、どうしよう、と首を傾げてくる。

甘いのが苦手ならば食べなければいい、とは、甘いもの大好きなにとっては言えない言葉で。

「なら、ちょっと甘さ控えめの和菓子もつくったんで、よかったらそれ食べてくれませんか?」

先ほど冷蔵庫に冷やしておいたわらび餅をとりだして、銀色、基仁王さんの前においてみる。

少々目を見張ったように見えたのは一瞬で、そっとそれに手を伸ばしていく姿が見える。

「・・・うまい。」

それはとてもとても心外だとでもいうように呟いたものだから、
なんだか笑いが漏れて。

「そういってもらえたら作り外がありますわ。」

「仁王先輩!ずるい!に何もらったんですか!?」

「なんだと!?仁王お前甘いのだめじゃなかったのかよ!?」

おいしい、その言葉を聞けたことがうれしくて
ふにゃふにゃと笑う。

そうすればまた目を見張った銀色が、今度は困ったように笑った。

二人してそんな風にほのぼのとしていれば聞こえてきた二つの声。

ぐい、との重心が後ろに傾く。
見上げれば赤也がいて、右腕には赤也の手があって。

どうやら引き寄せられたらしいそれに少々驚きながらも笑う。

「いーなー!仁王!」

「やらん。」

赤い人が仁王さんにべたべたとすがりつく。
それを上手にかわしながら仁王さんはもくもくと和菓子を口に運んでいた。













※※※※
親戚は切原家

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