ドリーム小説
あまとうおんな てんこうせい
「初めまして。関西にある四天宝寺高校から来ました。言います。よろしくお願いします。」
頭を下げて、挨拶をして。
ぱらぱらと返される拍手にひとまず安心。
受け入れられるかどうかはおいておいて、歓迎されない雰囲気ではないことにほっとした。
「わからないことが多いだろうからみんな教えてやれよ。」
まだぜんぜんなれない標準語に違和感を感じながらも担任の言葉にもう一度よろしくと声を発して、指定された席に向かう。
その間にもよろしく、といった軽い声がかけられて、それらに笑顔で返事する。
席に着いてからも前後左右から声をかけられて、どうやら心配が杞憂に終わりそうなことに安心して。
転校生の休み時間は戦争だ。
その言葉にひどく納得した。
休み時間のたびにいろんな人から声をかけられて。
さらには他のクラスからも見に来られて。
見せ物パンダのようだ。
そんなことを思いながらようやっと訪れた昼ご飯の時間に気を取り直す。
「、お昼食べよう。」
前の席に座っていた彼女、西倉圭こと圭ちゃんが男前な笑顔で誘ってくれる。
うなずき机を寄せあって互いに弁当箱を出す。
「・・・、それは?」
「お昼ご飯だよ、圭ちゃん。」
の出したお弁当箱、基何か大きなものが入っている箱に圭の顔がぴしり、ひきつる。
「・・・ワンホールのケーキに見えるのは気のせいか?」
「ちょっと違うよ?ふつうのワンホールよりも小さめに作ったから。」
立ち上る甘い甘い匂い。
教室中に充満するそれに、何事かと目を向けられる。
「・・・、まさかそれだけとはいわないよな。」
「なにいってるん?圭ちゃん。これがメインだよ。」
ゆっくりと確かめるように言葉を紡ぐ圭にけらけらと笑って答えた。
「ケーキはデザートだろう?」
「おなかに入れば一緒や。」
なにをいったい当たり前なことを。
そんな表情をしては言った。
時季はずれの転校生。
関西弁。
ふつうの女。
はじめはそれだけの印象だったのだ。
それだけの。
「・・・なんだあれは」
俺の言葉はおそらくこのクラス全員の思いにちがいない。
その証拠に共に昼を食べていたクラスメイトも首を上下に動かしている。
視線はたった一つに釘つけられているのだが。
「甘い・・・」
クラス中に蔓延する甘い甘い匂い。
和菓子の甘みは好きだが、洋菓子の甘みはそこまで好みではない。
そのためこの教室にいるのが苦痛になってくるような。
そんな気分だ。
「ホール、とはやるな。」
友人がぽつりとつぶやく。
首を上下にふりすぎたのか、今度は左右に首を回している。ちなみに目線は未だにケーキだ。
いやいやいや、注目するところはそこじゃない。
はっきり言ってまずなぜ昼にケーキ?!だろう。
「しかし、おいしそうだ。」
再びつぶやかれたそれ。
はあ?と声を出す前にそいつは立ち上がりふらふらと例の転校生に向かっていく。
「おい。」
思わず声をかけるが見事なまでに無視だ。
ああ、そういえば忘れていたがこいつは極度の甘党だった。それも俺とは逆の洋菓子の甘いものが大好きだ。
「さん。それ、一口ほしいんだけど?」
転校生の横に行って。不思議そうに見上げてくる顔に向かって。
あっさりと、まるで既知の中であるように笑ってケーキに指を指す。
「ん、かまへんで?はい。」
これまたあっさりと、まるで幼なじみかのように持参したスプーンに乗せたクリームやら諸々を彼の口に向ける。
「ありがとー。」
にこにこと、それを口に入れて、そして、止まった。
ざわり、その突然のクラスの静寂に、緊張が走る。
たった一人、転校生をのけて。
「・・・なにこれ、おいしい・・・」
ぽつり、思わずといったように漏らされたそれ。
ざわり、静寂が消える。
先ほどもいったようにこいつは洋菓子が好きだ。
いろんな有名店のものを食し、辛口の評論をよく述べている。
そんな彼が言葉を失うほどうまい。
それはつまり、
「さん、私もほしい!」
「俺も!」
まるで砂糖に群がるありのように。
その勢いに押されながら転校生のケーキはどんどん減っていく。代わりに献上品のようにパンやおにぎりがおいていかれるから、彼女は気にはしないようで。
おいしい、その言葉にふにゃふにゃ笑っている。
「日吉、おまえも食べとけって!」
一番にそれを口にした友人が俺は洋菓子が苦手だとしているにも関わらず誘ってくる。
そこまでいわれたら是非とも食べてみたいものだ。
「日吉君?ん、食べて食べて。」
呼ばれるように近づいていけばほい、とスプーンが目の前に差し出された
みんなが使ったのと同じものを使えるか、とか潔癖の気があるわけではないので、遠慮なくそれを口に運ぶ。
「・・・うまい。」
洋菓子であるというだけで否定の言葉を口にすることは多いというのに、それはそんな言葉を出させないほどに、おいしかった。
「ありがとう」
礼を言うのはもらった自分の方だというのに、ひどくうれしそうに笑うものだから、思わず顔を逸らした。
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