ドリーム小説














あまとうおんな くらすめいと










「なあ二年生に転校生が来たって聞いたけどどんな奴?」

部活開始までの時間を各々が自由にすごしていたとき。

そういえば、という風に言葉を発したのは準備体操でぴょんぴょんと飛び跳ねる向日さんで。


「俺のクラスじゃないです。確か日吉のクラスだったよね?」

「ああ。」


律儀に返事をする鳳に仕方なく話に加わる。



「どんな奴なんだ?」

答える気がないというのをわかっていても遠慮などする事のないこの先輩。どうなんだと首を傾げてきて。

男にやられれもかわいくも何ともないはずなのに、まだ背も伸びず小さいままな為、なんというかあまり違和感を感じない。悲しいことに。


「・・・変な奴です。」


転校生のことを思い浮かべれば一番にでてきたのはその言葉。


「は?」

「関西弁の女子で、転校してきて一日目でもうクラスになじんでますよ。ああそれからケーキをワンホールお昼に持ってきてました。」


聞いてきたくせにすでに意識が違うところに飛んでいた向日さんがぴたり、動きを止めた。

笑顔を浮かべながら話を聞いていた鳳がの笑顔がぴしり、固まった。


「気のせいか?今ケーキをワンホールて聞こえたんやけど・・・?」


何気なく話を聞いていた忍足さんが彼らの心中を代弁した。


「はい。間違いなくケーキでした。ワンホール。」


それにぴたり、今度こそ会話が停止した。


「・・・お昼?」

「はい。お昼です。美味しかったですよ。」


あまりにもぽかんと口を開けるものだから面白く感じて。

転校生にもらったケーキの味を思い出しながら答える。


「え!食べたの?日吉。」


鳳が少し驚いたように俺を見る。


「跡部部長が部室においてる洋菓子も食べないのに??」

「俺だってケーキの一口くらい食べる。」


あまりにも俺を眼見してくるものだからため息と共に返せば今度は先輩が食いついてくる。


「若が言うってことはそんなにおいしかったのか?」

「それはぜひとも食べてみたいもんやな。」


向日さんの言葉に忍足さんも答えて。



なんだか面倒なことになりそうだと感じた。



「あ、そういえば俺の横に越してきた女の子も関西弁やったわ。」


そういえば、そんな調子で続けられた言葉。

独り暮らしをしている忍足さんのマンションということは、その人も独り暮らしなんだろう。

まさかそんな偶然が、と思わなくもないが、確かにこの人のマンションは学校からも程よい距離にある。

ありえなくもない。


「突然関西弁が聞こえたからはじめはびっくりしてもうて、黙ってしまったんやけどな。」


思考にふけっていれば忍足さんの声に意識をもどされた。


「俺甘いのはあんまり好きやないんやけど、あの子にもろたクッキーはおいしかったで?」


くるくるとラケットを弄びながら楽しそうに口の端をあげた。


「珍しいな。有士、結構人からもらったの食べないこと多いのに。」


向日さんの言葉に確かにと思う。

と、忍足さんの向こう。

ゆらりゆらり、ひどく綺麗な笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる跡部さんの姿が目に入る。

ちらりと横目で確かめた時計は練習開始時刻をすでに五分ほど過ぎていて。


立ち上がった俺に向日さんと忍足さんがどうした、というように見上げてきた。

鳳はいつのまにか宍戸さんのところにいってすでに練習を開始していた。

薄情な奴め。


「___お前ら。堂々とさぼるなんていい度胸してるじゃねえか。」


低く低く。

魔王のようなおどろおどろしい声。


「跡部!いや、これはな?」

「さー若!練習すっぞ!」


さっさと立ち上がり練習のためにコートに向かっていた俺に後ろから飛びついてくるのは向日さんで。

後ろの忍足さんと跡部さんの声をそのままに、後ろの向日さんを引っぺがしながらため息をひとつ。



なんか、すごく面倒なことに巻き込まれそうな。


そんな予感がした。















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