ドリーム小説














あまとうおんな せいとかいちょう

















あれよあれよと言う間に転入一日目は終わりに向かう。
転校初日ではあるけれど、あまり周りに迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思い、授業が終わった今人気のない校舎を一人歩む。

静かな校舎はどこかもの寂しく、それでいて自分を柔らかく迎え入れてくれて。
校庭や体育館から聞こえる運動部の励む声。音楽室と思われる方向から聞こえてくる楽器の音。
放課後の時間を有意義に過ごす部活所属生に頑張っているなあ、という感想を持ちながら進む。
進む、進む。
そして、気がつく。

「ここはいったい、どこやねーん・・・。」

手にしていた生徒手帳にかいてある校内地図。それをぐるぐると回しながら現在地を探す。
だが残念なことにその方法は方向音痴の証明だと言うことを示していて。
さらに地図を回すだけでは飽きたらず、自分自身もくるくると位置を変えて首を傾げる。

「・・・おい。」

「うーん。とりあえず一階に行ければどうにかなる気はするやけど。」

「・・・おい。」

地図へと意識を向けている所為で先ほどまで誰もいなかった空間に一人の生徒がいることに気がつくことはなく。

「・・・おいこら、無視してんじゃねえ。」

あまつさえその人物が自分へと声をかけているなんてわかるはずもなく。

「とりあえず、階段に向かうか。」

「・・・てめえ・・・!」

あっさりとその人に意識を向けぬまま自分で決めたことに一つ頷いて。
さてでは進もうと足を一歩、踏みだ、そうとした。が、

「ぐえ、」

急遽首もとに走った締め付けられる感覚に思わず声を上げる。それもとても女子と言うにはおこがましい声を。

「おいこら無視しやがって。」

いきなりの衝撃に目を白黒させながらせき込む彼女。
そこでようやっと自分のそばに人がいることに気がついて。

「っ、・・・どちらさんで?」

ちょびっと涙目になりながら(自分がしゃがんでいるせいで)目の前の足に向かって声をかける。

「・・・お前ホールケーキを昼ご飯に持ってきたって言う転校生か。」

誰という答えをもらえぬまま、なぜかあっさりと自分のお昼事情をさらされ、は止まる。

「・・・なぜそれを?」

「部活の後輩が話してたからな。」

知らない人に自分のことを知られているほど気持ち悪いことはない。
そのように思っているにとって彼の言葉はひどく衝撃的で。
そして同時にその犯人を突き止めてやると無駄な意志を燃やす。
そして目の前のこいつがどんな顔をしているのか、それを見届けてやろうとばっ、と顔を、あげた。

えらくべっぴんさんなことで。

色素の薄いその髪は夕方になりやわらいだ日の光を浴びてふわり、色を変えて。
まっすぐにこちらを見すえてくるその青い瞳はこちらの意識を乗っ取りそうなくらい綺麗で。
着る人を選ぶであろう淡い水色のジャージがこの人をよりいっそう引き立たせる。

思わず、見とれる。が、

「俺は跡部景吾だ。この学校で生徒会長兼テニス部の部長を務めている。」

それを聞いてはぴしり、固まった。
生徒会長ということで転校生のことを知っていることは百歩譲ってよしとしよう。
だがその後聞こえてきた単語は彼女にとってひどく恐ろしい言葉に聞こえて。
もうその時点で目の前の人の人間とは思えないほど綺麗な見た目について同行考える余裕などなく。

「ええと、生徒会長さんでしたか。」

固まったに怪訝な表情を向けながらそれに頷く。
一歩、二歩、ゆっくりと後ろに下がるがなにをするのかと興味深げに見守りながら。

「そうですか。ええと、それじゃ。」

逃兎のごとく方向転換をして走り出したに思わず目を見開く。かといってそのまま逃がしてやるほど優しくもない。

「まちやがれ!」

ワンテンポ遅れてを追い、走り出す。相手は制服、しかもスカート。
それに比べて跡部は部活用のジャージ。
どうみても追いつかれることは目に見えていただろう。
軽いバイブの音と共に揺れるポケットに阻まれなければ。

「っ、こんな時になんだ!」

いつまでもなりやまないそれに仕方なく足を止める。携帯画面を見れば、着信。
そこに表示される名前は中学時代から続くライバルの一人で。

「なんだ、こんな時間に。」

_ああ跡部君。部活中にすまんな?ちょっと聞きたいことがあってな?_

耳元に当てた電話から聞こえてくるその声。向こうで苦笑しているのが気配で分かって。
あいもかわらず丁寧な奴だと考え、そういえばさっきの転校生も関西弁だったなと思いながら先を促す。

_最近氷帝に転校生、きてへん?_

その言葉に無意識に眉間にしわが寄るのを感じた。

また面倒なことになりそうだ。














※※※
転校生は四天から来てます。


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