ドリーム小説
あまとうおんな おさななじみ
「。」
自分を呼ぶ声。低く、年の割に落ち着いた感情を表すそれは小さな頃から聞きなれていたもので。
そして、長いつきあいだからこそ振り向いた先、珍しくも笑みを浮かべるそいつが思うことを理解してしまって。
「逃げなや。」
反射的に足を踏み出そうとすればそれよりも早く首根っこを捕まれて。
長いつきあいなのは向こうも同じ。こちらの行動パターンなどお見通しだ。
「・・・なにさ光」
逃げることをあきらめて、ゆっくりと向き合えば、ん、と
さしのべられる手。
何事かとそれをみていれば、催促するように上下に動く手。
「善哉。」
たった一言。単語のみ。
だというのにそれで意味が分かってしまう悲しい幼なじみのサガ。
「今日は持ってきてへんよ。」
の言葉にぴしり、動きが止まる。
「・・・なんでや・・・」
小さく小さく漏らされた声。それがすねているときの声色だと理解しているため、一つ、ため息。
確かにこの幼なじみである財前光には毎日のようになにかしらの甘味をプレゼントしている。
(というか、持ってこないと本気でへこまれる。)
「今日はちょっといつもと違う感じでつくってん。やしもってこれへんくて。帰りにうちよって?」
そういった瞬間先ほどまでの表情はどこにいったのか、ぱあ、と広がる喜びの表情。
確かにこの幼なじみはひどく偏屈で口が悪くて、なかなか人になつかなくて、年上にも態度はよろしくない。
よろしくはないが、にとってはとてもかわいくて大事な相手ではあるのだ。
だからこそ、この毎日なにかしら甘味を作ってこいとか言う理不尽にも耐え、朝練起きれないから朝起こして一緒に学校へ迎えという命令にも従い、帰りは待て、という忠従な犬に向かって言うように紡がれる言葉にも文句は述べていない。
「部活、頑張れ。」
一つ声をかけて、笑えば、滅多にない素直な笑みが返されて。
と、まあそれは中学入学時ではあったので、今はそんなことはなく。
「なんや、転校したんやっぱり氷帝やったんか。」
「なんで今部活中やないん?」
「部長も電話しとるし平気やわ。」
生徒会長から逃げきりなんとか知ってる道を探して死にものぐるいで学校から脱出して。
さてさっさとかえってしまおうと。
そんなことを思いながら家に向かってあるき出せば、携帯の着信。
みればそこには幼なじみの名前がくっきりと。
受話器マークを押したとたん聞こえてくる遅いという暴言を耳に、中学生の頃はあんなにかわいかったのにと遠い日々を思い出す。
ぽつぽつとはなす今日のこと。引っ越しのこと。今までは目の前で離していた距離。
それが、機会越しになって。耳慣れない声に違和感を感じて、少々、寂しくなる。
なんだかんだでひとときも離れることのなかったその距離が今はこんなにも遠くて。それが、ひどくもどかしい。
「」
自分を呼ぶ声が、ゆるりゆるり、耳に響く。
これが世に聞くホームシックという奴か。そんなことを思いながら響く声に前進をゆだねるように目を閉じて。小さく揺れる視界を隠す。
「先輩もにあえんくなったって、寂しがってるわ。」
前言撤回。ゆらいだ視界は一気に元に戻り、まるでその電話から彼らがでてくるような錯覚に思わず遠ざける。
光の示す先輩とは文字通り光の先輩で。
無愛想な後輩の幼なじみというだけで無駄にに興味を持ちついて回ってきたのだ。
しかもこいつらなにぶん、見目がよい。
四天宝寺は皆が皆明るい気質をしていたためいじめやらそういうことにあうことはなかったが、こいつらが廊下でついてくるため、見事なくらいに避けられて。
一人が好きなを何かあれば引っ張り回していた。テンション高いのきつい。
そう思っていたためできるだけ逃げるようにしていたが光と一緒にいるところを見つかれば全力で、笑顔で追っかけられた記憶しかない。
まあ、一番背が大きくて、猫のような人は自分に干渉することなく甘やかしてくれる存在であったから唯一その人にはなついていたのだが。
「ま、無理はせなや。」
最後にぽつり、こぼされた言葉。
それが光が一番言いたかったことなのだろう。受話区の向こう、少しすねたように照れる彼が簡単に想像できて、思わず笑った。
「ありがとう、光」
普通の人よりも無愛想、優しくはない。
先輩からは目を付けられて、同級、後輩からは距離をとられて。
なんてもったいないのだろう。
何回そう思ったのかわからない。
ただ、人よりも不器用なだけで、本当はとても優しくて思いやりぶかい子だというのに
電話が終わった待ち受けに移るのはその幼なじみと共にとった写真。
携帯を新しくしたときに写真の性能を確かめるためにとったものだ。
いやがる光を無理矢理とったのでいつものぶっちょうずらに磨きが掛かっている。
さて、帰ろう。
見える夕日は大阪とは変わらなくて、それに嬉しくなりながら歩きだした。
※※
前半は過去です
後半が今
・・・わかりにくかった。
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