ドリーム小説














あまとうおんな ほーるけーき
















「・・・・・・・・・甘い。」

いつもと同じように部活が終わり、いつものように帰宅したマンション。

違ったのはあたりに広がる甘い甘い匂い。

それは自分の部屋のある階に柔らかく漂っていて。

別にいやなわけではないが、得意というわけではなく。

しかもそれが自分の部屋に近づくにつれて濃くなって。


「昨日挨拶に来た子の家やんな。」


どうみても発信源は自分の横の家、昨日挨拶に来たこの家で。この晩ご飯時になぜにこんなに甘い匂いが・・・

_ああそれからケーキをワンホールお昼に持ってきてました。_

日吉の言葉をふ、と思い出す。

昨日貰ったクッキーは非常においしかった。

甘いものが苦手な自分でも、さくさくと食べれるもので。

日吉がおいしいと絶賛するケーキ。

この子だろうか、思いながら鍵を開けて自宅に入る。

・・・というか、お昼ご飯にホールケーキを持ってきて、・・・まさかとは思うが晩ご飯もホールケーキとか、ない、よな・・・。

浮かんだ考え。よく知りもしない相手。

だが昨日と今日。二日間のあいだに台所で何かを炒める音も、甘い匂い以外も感じたことはなく。

まさか甘いものしか食べてないとか・・・


なんだかんだで面倒見がいいと自負している(まあそのせいで背負わなくても言い苦労を押しつけられることが多いのだが。)こともあり、どうにも放ってはおけない。

さらにい隣の子は関西弁。

どことなく、親近感。

じわじわと浮かぶ考えを必死で振り払う。


と、

パリン


小さく何かが割れる音。

同時に小さく悲鳴も聞こえて。

それがきっかけとなって、思わず家を飛び出て隣の家の呼び鈴を押していた。


「はい?」


あわててならした呼び鈴に対してひどくのったりとした返事。かちゃり、開けられた扉に脱力する。


「あ、お隣さん。」

「忍足や、お嬢ちゃん。チェーンくらい掛けとかな。」


ため息と共に出された言葉にこてり、首を傾げる少女。名前は確か、といった気がする。


「一人暮らしの鉄則やで?特に女の子なんやから。」

「はあ。」


なんともやる気のな返事。それにもうため息しかでない。


「そういえば、忍、足・・・?さん。どないしたんですか?」


そう問われてようやっと本来の目的を思い出す。それと同時にぶわり、広がっていた甘いにおいに気がつく。


「なんか割れる音と悲鳴聞こえたからな。なんかあったんかと思ったんや。」


といってもお皿が割れたとかそんなことだろうと思ってはいたが、ちょうど言い口実になったのでそう口にする。


「ああ、ちょっとばかり食器の反乱があっただけですよ。」


なんでもないようにいうが、食器の反乱って・・・。

思わず言葉を失い、さてどうやって会話を続けようかと視線をうろつかせれば目に飛び込んできた、赤。


「ちょ、お嬢ちゃん、手!」


怪我してるやんか!そこまで言葉が続かなかったのは思わず掴んだ手が思っていたよりも柔らかかったことよりも、その傷が思っていた以上にでかかったからだ。と、信じたい。


「あ、大丈夫ですよ。さっきお皿掴んだときに怪我しただけなんで。」


そのわりにどくどくと赤い血はとまることなく。というか直で割れた皿にさわったんかい!


「あーもー!手当するから救急箱だし!」


一人暮らしの年頃の(まあ同じ高校生ではあるけれど。)女の子の家に入るのはどうかと思ったが、放っておけるはずもなく。

傷に障らないように手を引き彼女の家の中に入る。

よりいっそう強くなった甘い匂いを感じながらも頭の中にはとりあえず手当という考えしかなくて。


「ええと、忍足さん。」

「なんや!」


控えめに握っていた手を引かれて。ばっと振り向けば困ったような表情。そして、述べられた言葉。


「うち救急箱とかない・・・」

「・・・取ってくるからおとなしゅうまっとき。」


へらり、笑う彼女になんだか毒気を抜かれて。今までで一番大きなため息と共に自宅へ戻った。











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