ドリーム小説














あまとうおんな わがしずき












「おはよう、。」

「おはよう・・・」

朝から忍足となんやかんやどたばたしたせいで、非常に眠い。
というか、もともと朝は得意ではないため、今日のように起こしてもらっていなければ十中八九遅刻しているだろう。もちろん原因は寝坊だ。

「眠そうだね?大丈夫?」

優しい。圭ちゃんの心配そうな笑みがうれしい。

「大丈夫、ありがとう。」

ふにゃり笑えばならよかったと返されて。

「ありゃ、日吉君だ、おはよう。」

ふらり、視線を動かして入り口を見ればちょうど入ってきたばかりの日吉君と目があって。

ぽんと呼びかければ少々驚いたように、それでも素直に返事を返してくれた。

「ああ、おはよう。」

それだけいって自分の席にいく日吉君を見送っていれば、ふいに圭ちゃんに問われた。

ちゃん、日吉の目って怖くないの?」

怖い?

よくわからない言葉に思わず首を傾げれば、圭ちゃんはおもしろそうに笑った。

「ああ、感じないならいいのよ。」

「んーよくわかんないけど、幼なじみも同じぐらい目つき悪いし。」


目つきが怖いというならば光もそうだろう。

ぼんやり浮かべる甘味好きな幼なじみを思う。

が、

「あいつももっと愛想よくしたらもてるのにね。せっかくのテニス部なのに。」


テニス部


その言葉を聞いた瞬間、さあ、と背筋がいやな音をたてた。

「圭ちゃん・・・テニス部っていった・・・?」

「ん?そうだよ。あいつこの氷帝のテニス部。しかも準レギュラー。」


信じたくなくて、聞き返せばあっさり返される返事。

がくり、うなだれる私に不思議そうな圭ちゃん。


「どうしたの?」

「ちょっとテニス部にトラウマが・・・」


本当に苦手なんだ。

あのきらきらした人とか、すぐに殺すと連発する人とか、小さいくせに強い力とか、スピードスターとかひどい名前とか・・・ん?ちょっとまって。

忍足って、あれ?・・・名字が一緒なだけ、やん、ね?


ちらりよぎったいやな予感を振り払い、いつの間にか始まっていた授業に意識を向けた。




「あれ?今日はホールケーキじゃないの?」

お昼になって、なぜかクラスの子たちが私に近づいてきて。

そうして取り出したお弁当箱にどこかがっかりとした声。


「今日は作ってもらったんよ。」


昨日の晩ご飯も、今日の朝御飯も非常においしかった。

ということはこれもおいしいに違いない。

わくわくしながらお弁当に手をかける。


「あれ?一人暮らしじゃなかったっけ?」


圭ちゃんの問いかけにうなずいて。


「隣のお兄さんに作ってもらったんだ!」


ちょっと違う気もするが間違ってはいないはず。

そう想いながら開けた先、きらびやかなお弁当の中身がお目見えする。


「おお!おいしそう・・・!」


手を合わせようとして視線を感じて、ふと顔を上げる。

するとそこにはなぜかしょぼんとした表情の男の子。

確か昨日日吉君と一緒にいた子だ。


「どうかしたん?」


何かしてしまっただろうかと思わず聞けば、しょぼんとした表情のまま男の子は続ける。


「ケーキ、食べたかった・・・」


昨日おいしいと、とてもうれしい言葉をもらったからこそ、リピートの声は大変うれしい。


「ケーキじゃないけど・・・」


ごそごそともう一つ包みを取り出して机の上に広げる。


「!!」


ぱかりと開けた先、そこにあるのは抹茶色。

いわゆる和菓子だ。

甘いものはあまり得意ではないと言う忍足さんへのお礼のためにいろいろ試作品を作って持ってきたのだ。

昨日みんなが喜んでくれたためまた食べてもらおうかと思って。

輝かんばかりの表情は興奮のあまり赤らんで、男の子なのにかわいいと思う。


「日吉日吉!」


彼はなぜか日吉君を手招きして、遠巻きに距離をとろうとしていた日吉君を無理矢理巻き込む。

なんか、ごめんね日吉君。

けれどそんな彼の表情は中をのぞき込んだ瞬間驚きに染まって。


「よかったら食べて〜。」


わらわらと集まってきたクラスメイトたちにいいながら自分は忍足さんが作ってくれたご飯に手を着ける。

おいしい。

自分もここまでとはいえなくても、もっとご飯とか作れるようにならなきゃなあ。

そんなことを思いつつ箸を進める。


。」


呼ばれた自分の名前に顔を上げれば困ったようなうれしそうなそれを押し隠したような不思議な表情にぶつかって。


「ほうひたん?」

「・・・食べ終わってからでいい。」


待たせぬようにとあわてて口を開いたのが悪かった。

必死で口の中のものを咀嚼して再度口を開いた。


「どうしたん?日吉君。」


用やっと口から言葉を発することに成功して問う。


「うまかった、ありがとう。・・・俺は洋菓子より和菓子の方が好むんだ。・・・また作ってきてくれないか?」


恥ずかしいのかちょっとそっぽを向いて。

頬をかすかに赤く染めて日吉君はつぶやいた。

なんだか光を彷彿させるその態度にふわり胸が暖まる。


「よろこんでくれるんやったらいくらでも!また作ってくるわ。」


懐かしさとうれしさとちょっとだけの寂しさを抱いてほにゃり笑ってそういった。





















戻る