ドリーム小説
名前変換なし。
脚立まじっく
「と、届かん・・・っ」
うぐぐぐぐ、必死に手を伸ばせど、それは目的のものにたどり着く気はしなくて。
「うう、なぜに届かん・・・っ!!」
場所は図書室、時間は放課後。
赤い夕日差し込むその場所に、人影は彼女一つのものだけ。
必死でのばす手。
それが目指すものは一冊の本。
脚立の上に立ち、さらに手を伸ばしてはいるが、残念なことに、何かが足りない。
「背が小さいからだろう。」
どうして、なぜ、そんな言葉を繰り返す彼女に答えを渡したのはいつの間にか彼女の後ろに立っていた一人の男子生徒。
さらり、色素の薄い髪を目元までおろし、おかっぱに近いその髪型は奇妙ながらも、彼によく似合っていて。
「う、・・・ひよし、せんぱい」
びくりとその声に体を震わせながらそっと振り向く彼女。
脚立に乗っているというのに、日吉とよばれたその少年と目線が変わらない。
その声も、姿も、知らぬものではなかったから、思わず名を呼ぶ。
彼、日吉若は彼女の所属する図書委員の先輩。
そして今日彼女と共に当番であったはずの人物。
見つめ合うこと数秒。
小さなため息と共に彼女の手に持たれていた本が日吉の手の中に収まる。
「う、あ・・・」
今まで必死になっていたそれはいとも簡単に本棚へと戻されて。
「あ、・・・りがとうございます・・・」
小さく述べられた感謝の言葉。
それに日吉が再びため息。
そして再び向けられる鋭い視線。
そのまなざしはひどく鋭くて、彼女はそれを苦手としていた。
まっすぐと射抜くようなそれは、彼女の心全てを見透かすかのように。
心の奥底に微かにある、気持ちに気づくようで。
「なぜ、」
声変わりはもう終わったのか、もともとなのか、低いその声は、ずくりと彼女の中に沁み込む。
理由を問われれど、質問が理解できずにいたかからそっと首をかしげてその瞳をまっすぐと見返す。
「俺を呼ばない。」
一拍の空白の後問われたそれ。
でもまだ理解しきれないそれにもう一つ、目の前の彼はため息。
「今日の当番だったやつに聞いた。」
「用事があったからとかわってやったんだろ?」
「二人ペアの当番二人ともと。」
ゆるり、一度だけ目線が外される。
そして再度引き込まれる瞳。
「お前とペアなのは俺だろうが。」
「なぜ呼ばない。」
語尾が強いそれは、まるで怒られているようで。
でも、彼と約一年間共に同じ委員会で過ごしてきた彼女には、その彼の表情が怒りだけではないと理解していて。
本当は呼びに行こうと思ったのだ。
けれど向かったテニスコート。
誰よりも早くその場所に立っていたその人。
先代の、生徒会長でありテニス部の主将でもあった人の後を継ぐために、必死に毎日努力していたのを知っている。
先代の、悔しい思いを払拭するために、誰よりも頑張っているのを知っている。
まだ練習が始まらなうちから自主練に励むその姿。
独特の目を奪うフォーム。
綺麗な姿勢。
まっすぐにボールを見るその瞳。
とても真剣な、その姿
それを委員会の仕事といえど、邪魔したくなどなかったのだ。
「私、一人でもできた、ですから・・・!」
言葉がつっかえる。
それでも、ぐっと、まっすぐにその瞳を見つめ返しながら言葉を紡ぐ。
微かに日吉の眉がひそめられる。
「全然、大丈夫でした、からっ」
鋭くなった視線に、思わず外してしまった視線。
何度も、おとされる、ため息は彼女の気持ちをどんどんマイナスへと向かわせて。
「どこが、大丈夫だと?」
じわり、微かにあった距離が、一歩詰められて。
「上の本棚まで、手が届かなかったのにか?」
「う、そ、れは・・・」
先ほど見られていた事実を変えることはできない。
「そ、の、脚立があれば、届く、・・・はずだったんだもん。」
うろうろと視線を迷わせればさらにため息。
「うええ・・・」
それにいたたまれなくなって、足元に視線を向ける。
「もし、一人で」
こつん
足音が、すぐそばで響く。
がたり
「っ、わ!?」
乗っていた脚立が、ぐらり、揺らされて。
「っ、」
傾いた体制が、重力に従って、ぐらり、落ちる。
「こうやって、何かあった時」
体に回る温もり。
衝撃はそれに吸収されて。
「どうするんだ」
認識できたのは低い低い、引き込まれそうな深い声と
体に回る強く優しい腕のぬくもりだけ。
※※※
日吉はなんで彼女が一人でやっていたのか気づいてます。
彼女と同じで一年間彼女のこと見てきたから。
なぜに名前入れなかったのか、自分でも謎。
さりげなくかっこいい日吉が好き。
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