小説






今回の拍手は8割くらいシリアス。

BASARAからは佐助が参戦。
あとは忍たまの一年から六年まで。

『忍務』について。

三年までは大丈夫ですが、四年くらいから赤い表現が出てきます。
五六年生はさらに。

無理、というかたはクイック&ターンで決めポーズ後逃げてください。

1 ここ
2 BASARA 佐助の仕事。
3 一年生 とどける
4 二年生 まぎれる
5 三年生 しりぞける
6 四年生 しのびこむ
7 五年生 まもる
8 六年生 にんむ

時折ものすごく長いです。














※※※※※※※※※※※※※※








バサラ




佐助の仕事




「旦那〜朝だよ。」

朝。

朝から鍛練ばかりするような旦那ではあるが、朝にはなかなかに弱い。

俺様の仕事はまずこの旦那を起こすことから始まる。

しかしながら旦那は寝起きがものすんっっっっごく悪い。

幾度も声をかけてようやっとのそりと置きだしてきたかと思えば、いつもは無邪気にも見えるその瞳をするり、細めてどす黒い気配を発しながら

俺様の悪口を言う。


・・・あれ、俺様ってこれでいいの・・・?


思わず遠い眼をしたくなる。

起きた旦那をそのままに、覚醒するまでの時間に朝ごはんの準備。

覚醒した旦那はそのまま道場につっこんで朝練を開始するから、それが終了するまでが俺様の勝負どころ。

野菜を切って、魚をさばいて焼いて。

お味噌汁を作って〜

そうしていればどたどたどたと廊下を走る音。

旦那が来た合図であるそれを耳にしたら、ご飯を持って旦那のところへ。



・・・あれ?俺様って忍びだよね・・・?



それから、大将に言われていた仕事をこなしつつ、旦那の警備。

警備は当番制。

今日は言い渡された仕事が簡単にできるものだったから旦那が執務をしているその天井裏で情報チェック。


「さすけえええ!」

・・・まあ。こうやって呼ばれるのも日常茶飯事だ。

「はいはいなんですか?旦那。」

「団子が食べたい。」



・・・俺様は忍びなんだけどなあ・・




そう思いつつも買いに行ったり、作ったりする俺はすごくできる忍びだと思う。


夜。

これまた俺様がつくった夕餉を食べ終えた旦那に食後の甘味を渡して。

そうして今日一日の報告、

今日は誰がきたとか、何処の動きが活発か、とか。



そんなこんなな、俺様の毎日。






何時まで経っても眠る様子が見えない旦那を不思議に思って、天井裏から下りれば、ぽかり、蒼い月に向かって杯を傾ける旦那がいて。

「佐助」

名を呼ばれれば、近くによる。

「おぬしも飲め」

差し出された杯を、はあ、と答えながら受けて。

忍びとして訓練してきた俺には酒は効かない。

美味しい、と思うことはあれど、べろんべろんに酔う、という感覚は理解できない。


「俺は、御館様のためならば、この命惜しくはない。」


いつも話している話ではあれど、どこか、雰囲気の違うそれに旦那をじっと見る。

ふわり、苦笑。

「しかし、な。残念ながら少し怖いとも感じるのだ。」

始めて聞いた旦那の弱音に、ぎくり、体が強張ったのがわかった。

どこかで昔聞いたことがあるから。

いつも強い人が弱くなった時、それは何かの前兆であると。

でも、

「だから、な。佐助。俺の背中はお主に任せておるのだ。」

一瞬。

その瞳が自分を映した瞬間、この人にはかなわないという思いにさせられて。


「頼りにしておるぞ、佐助。」


その言葉に、笑いながらいつもように返すことしかできなかった。








※※※※※※※※※










一年生の場合






「これを届けに行ったらいいんだよね?」

「うん。金楽寺の和尚さんにね。」

「それはいつものことだからいいけど・・・」

「・・・なんでこんなに人数多いわけ?」


上から順に乱太郎、伊助、金吾、きり丸。

発言はもっともで、彼らの視線の先にはいつものは組、のみならず、なぜか・・・


「僕たちに聞くなよ。」

「僕たちだって不思議なんだから。」

「そうだよねえ・・・」

「人数多いよね・・・。」


怒ったように視線を外しながら話すのはい組の伝七、一平。

困ったように、こてり頭をかしげるのはろ組の伏木蔵と怪士丸だ。


「本当に!あほのは組と一緒になんで僕たちが・・・!」

「なんだと!?」

ため息と同時に吐き出された左吉の言葉に団蔵がかみつく。

が、


「これだけの人数、何かあると考えた方がいいな」

「そうだね、庄左エ門。」


学級委員二人によってあっけなく無視されて。


「相変わらず庄ちゃん、冷静だね。」

「彦四郎もなかなかだねえ。」


苦笑いする三治郎に孫次郎もそう続けた。








「「し〜ほうろっぽうはっぽ〜う、しゅ〜りけっん!」」




「うるさい!!」

いつものように楽しげに歌いながら目的地へ向かって歩いていれば、とうとうおとされた雷。

それはもちろんい組からのもので。

「うるさいってなんだよ、左吉。」

むっ、とした顔で問いかけた団蔵に左吉も怒りながら返す。

「これは学園長先生に頼まれた大事なおつかいなんだ!」

「早く届けて早く帰らないとだめだろう!」

左吉に続いて伝七も口を開けば始まる言い合い。

「うるさいのはそっちだよ。話してても目的地にはたどり着くんだから、別にいいじゃん。」

兵太夫が参戦すればもう、それは止まる気配を見せなくて。

「ど、どうしよう・・・」

平太の困ったようにつぶやかれた言葉。

「一平、同じい組でしょ?どうにかしてよ。」

伏木蔵のその言葉に、い組でも比較的温厚な部類に入る一平が、しゅん、と落ち込む。

「僕にも止められないよ・・・」


そんな会話をよそに、

「兵ちゃん、落ち着いてよ。」

「ほら、団蔵も。どうどう。」

「僕は馬じゃない!」

三治郎が兵太夫を。

虎若が団蔵をそれぞれ抑え込む事に成功して。

「そうだよ〜。喧嘩は駄目だよぅ。」

喜三太が困ったように間にはいればどうにかこうにかいい争いは止んだ。



と、その時。


微かに変化した空気。

ざわりと体中にまとわりつくような嫌な視線。

ぴくり、

一番に反応したのはは組の頭脳。

次いでは組の面々が次々と顔をこわばらせ、辺りに目をやる。


「ど、どうしたの・・・?」


「なんか、やな予感がする。」

一平に答えたのはきり丸。

その言葉に、はっとしたようにい組、ろ組の面々も辺りを見回して。

そっと腰の得物に手をやって金吾が低く構えた。


「彦四郎」

ぴいんと糸を張ったような緊張感。

響く庄左エ門の声に、彦四郎は返事を返す。

「ここは僕たちは組に任せて、ろ組とい組は先に和尚さんのところに向かって。」

まっすぐと、見えないどこかを睨みつけながら放たれた言葉に、動揺するのはい組。

「な、なにを言ってるんだ!」

「お前らなんかに、任せられるか!」

動揺しながらも声を名いっぱい張り上げる左吉と伝七。

「そうだよ、は組だけじゃ、危ないよ!」

「僕たちも、残る・・・」

一平に怪士丸もそう続けて。


「僕たちは大丈夫だよ。」

「なんだかんだで、こういうの慣れてるしね。」

「任せておいてよ〜」

しんべエに乱太郎、喜三太が言う。

「っ、でも、」

さらに言い募ろうとした彦四郎の言葉は途中で遮られる。

「彦四郎、伝七、左吉、一平。」

「これは、忍務、だよ。」

「孫治郎、平太、怪士丸、伏木蔵。」

「僕たちの目的は、その手紙を無事に金楽時の和尚さんのところに届けることだ。」

「目的を達成するためには、何でも使う」

「それが僕たちの目指している忍者だよ。」

「だから、今回は俺たちが使われてやるよ。」

兵太夫
伊助
団蔵
金吾
虎若
三治郎
そして、きり丸。

じゅんじゅんにたたみかけられて、い組もろ組も言葉を発するこができなくて。

「だから、ね」

「ここは僕たちに任せて。」

「手紙をお願いね。」

喜三太
乱太郎
しんべエ


そんなは組の姿を見て、い組とろ組はようやっと動き出した。


「っ、早く追いつけよ!」

「先に行くだけだからな!」

「気をつけてね!」

伝七、左吉、それから一平が投げ捨てるように叫んで走り出す。


「怪我、しないようにね。」

「先に行って、待ってるから。」

「道に迷わないでね。」

「皆で学園に帰るんだから。」


伏木蔵、怪士丸、孫治郎、そして平太がぎゅ、っと泣きそうになりながら踵を返す。


「っ、任せた!」

最後まで残っていた彦四郎が、ぐっと、何かをこらえるように叫ぶ。

「、任せろ。」


それに庄左エ門が答えれば、ようやっと安心したように、先に行った皆の後を追いだして。



「さあ、て。庄ちゃん。」

「どうしようか。」

伊助の言葉に三治郎がつけたすように。

「なにが来るかわからないけど、」

「当たってほしくない予感ほど、あたっちゃうんだよねえ。」

虎若に続いた乱太郎の言葉に、しゃれにならない、と誰もが思う。

「まあなにが来ても、いまさらどうしようもないからな。」

「できるだけ頑張ろうねえ。」

金吾が少し震えた声で発せば、喜三太が柔らかく答える。


ちりり、いよいよ近づいてきたその気配に、皆の緊張感が高まったかと思えば。

「うう、帰ったらおまんじゅうたべたい。」

しんべエの緊張感のない言葉に、皆がふ、と笑う。


「さて、ではそのために、僕たちは今この時を乗り越えなきゃね。」


兵太夫のにやりとした言葉は、段々辺りに浸透して。


「んじゃ、ま、いっちょ頑張りますか。」

「うはあ!なんか緊張する!」

きり丸に団蔵がそう言いながら、低く、構える。


「じゃあみんな、は組の力見せてやろう。」


庄左エ門の言葉に皆が皆、短く肯定の言葉を返した。










※※※
一年生。
おつかいという名の肩慣らし。
基本的に何もないけれど、おつかいをする、という使命感を育てる。
時折行くまでの道に盗賊が出たり。
そういう時はなぜか大人数で出動。
やっぱり頼りになるのは実践慣れしてるは組。
そして、最終的にこの後現れた盗賊は、見守っていた山田先生、土井先生に退治されるんだよ。





※※※※※※※※※※※※※








二年生の場合  







「お姉さん、お姉さん。このかんざしとかどうですか?」

「お姉さんにすごく似合うと思いますよー。」


ふにゃりふにゃり。

白い髪をふわふわと揺らしながら四郎兵衛が道行く人に声をかける。

呼ばれたお姉さんはまんざらでもなさそうに近寄ってきて品物を手に取り見聞する。

ちなみに四郎兵衛の横で、どことなくやる気なさそうに声をかけているのは三郎次だ。

声をかけたかいなく、そのお姉さんはひらりと手を振って雑踏の中へと戻って行った。



「もうっ、三郎次。もっとちゃんと声出してよ。」

目の前からいなくなったお客さん。

むう、と膨れたように四郎兵衛が言えば、はあ、と大きなため息。

「なんで俺らこんなことしてんだ?」

「村の人たちに紛れ込んで、最近あった面白いことを探してきなさい、ていう授業だからでしょ?」

聞かれたといに律義に答える四郎兵衛だが、三郎次が聞きたいのはもちろんそんなことではなく。

「百歩譲って、出店は理解できる。・・・な、ん、で?女性相手の小物屋さんなんだ?!」

「だって、綺麗なお姉さん相手にする方が楽しいのだもの。」

うがあ、と吠えるように四郎兵衛につっかかるが、何とも言えない理由によりあっさりとそれはかわされて。

再びため息をついた三郎次にほけほけと四郎兵衛は笑い返した。




「あら、かわいい。」

目の前が暗くなったかと思えば、ふわり甘い香りが漂ってさらり、黒髪が揺れた。

四郎兵衛がそっと顔を見上げればそこにはとても綺麗な女の人が立っていて。

三郎次も同じように見上げたが、ぽかり、と口を大きく開けたまま止まった。

「綺麗ですねえ、お姉さん。」

いち早く立ち直ったのはこれまた四郎兵衛で。

ほけりとした表情ではあるけれど、本音をぽらりと漏らす。

と、ふわあり。

とても綺麗にその人は微笑んだ。

「私に似合うのあるかしら?」

計算されつくしたように傾げられた首にどくんと大きく音を立てた胸をそのままに、そっと手元のかんざしへと目を伏せる。

道行く人々の視線を集める彼女はいったい何者だろうか。

目を伏せながらも、目の前の女性の情報を集める。

農民では手にできないであろう豪華な服は、華奢なその体をより一層小さく見せる。

袖から見える白い手は、土を触ることなど知らぬようにまっさらで。

髪も、紅も、最高級品。

甘い香りが示すそれは加羅を炊くことができるような家柄。


それらはつまり、目の前の女性を一般人から外すのに十分な情報だ。


「お姉さんにはこんなのはどうでしょうか?」

いつの間にか立ち直っていた三郎次が、普段ではありえないほど柔らかく微笑み、一つのかんざしを差し出す。

色のセンスがいい三郎次のことだから、何の心配もしてなかったけれど、そっとつけられたそれに思わず感嘆のため息をもらす。

三郎次が渡したかんざしは決して地味なものではない。

それどころか、今目の前に置いてあるものの中で一番華美といっても過言ではないものだ。

だというのに。

「こんなにきれいなお姉さんだと、どんなかんざしも色あせて見えてしまうね。」

そう呟けばくすり、目の前の女性がとても艶やかに微笑んだ。


「上手な子たちね、このかんざしもとてもかわいらしいわ。これをくださる?」

それは思ってもいない申し出で。

「もちろんです。あなたみたいにきれいな人につけてもらえれば、このかんざしも嬉しいと思います。」

そういいながらお金を出した女性。

受け取る瞬間、ふわり、三郎次の鼻を擽る、加羅以外の香り。

それはよく知っている香りで。

まっすぐに顔を見るのは憚られていたのだけれど、思わず女性の顔を凝視する。

と、目の前の女性が微かに身をよじった。


次の瞬間。


「うわっ!?」

彼女の後ろからすごい勢いでつっこんできたのはみなれた姿。

それは目を回しながら、四郎兵衛たちの前に倒れ込む。

「わあっ!?」

「何してんだ?!左近!」

思わず左近に駆けよって名を呼べば、その後ろから放り投げるように飛ばされてくる久作。

目を向ければ明らかに人相の悪い男たち。

それに放り投げられたのであろう久作は、受け身を取りながら体勢を立て直した。







「左近。僕はいま猛烈に怒りたい気分だ。」

「ごめん、久作できたらやめてほしいかもしれない・・・。」


何か面白いことを見つけてきなさい。

情報を集めるだけじゃ面白くないからと、いつもの学園長の思いつきであるそれ。

街に繰り出すけれど、一向にこれといったものは聞こえてこなくて。

なにか策を練ろうかと思っていれば、共にいた左近がだれかにぶつかって。

それが、いかにも、な顔をした人たちで。

慌てて逃げ出しはしたけれど、彼らは追いかけてきて。

どうしようと思えども、とりあえずは逃げるしかなくて。

走って走って、時折こけそうになる左近を手伝いながら走り続ける。

学園内での修行のたまものだろう。

まだ息が切れることはなく、走り続けていれば、前方に見たことのある白いふわふわ。

それに向かって走り続ければ、とうとう左近が勢いよく地面へとダイブした。

白い彼ら、四郎兵衛の元へと。

「わあっ!?」

「何してんだ?!左近!」

驚いたのは向こうだが、もちろん久作もびっくりだ。

と、一瞬油断したのが悪かったのか、後ろを追っかけていた男が、久作の腕をひねりあげ、あろうことか思い切り投げつけた。

「っ、わっ!?」

慌てて受け身をとって体勢を立て直したけれど、その男たちは完全に追いついていて。



「おい、もう逃がさねえぞ!」

ぶつかっただけだというのに、すごい執念だ。

そんな男たちの視線が四郎兵衛たち、否、四郎兵衛たちの傍にたたずんでいた綺麗ないでたちの女性に向いた。

次の瞬間彼らの表情は賤しいものに変化し、まるで今まで追いかけていた久作や左近のことなど目に入らないようにその女性へと近づいて行った。


「そこのお嬢さん。そんなちいせえ子たちと遊ぶよりも俺らと一緒に遊びましょうよ。」

楽しげに近づく彼らの前に立ちはだかったのは左近で、久作で、三郎次だった。







左近と久作を追ってきたのであろう男たちは四郎兵たちの目の前の女性を見た瞬間矛先を変えた。

次に起こることを簡単に想像できるそれに動くのは速かった。


「四郎兵衛、お姉さんを安全なところに!」

三郎次の言葉を聞くや否や、四郎兵衛は女性の手を握り走り出す。

後ろから聞こえてくる声を無視しながら、四郎兵衛は路地裏を走り抜けていった。


「っ、」

引っ張っている女性から微かに漏れた苦しそうな声。

それに四郎兵衛は慌てて足を止めた。

振り向けば苦しそうに、胸元に手をあてて息を整えようとしている女性。

「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか・・・?」

慌てて顔を覗き込もうとすれば、大丈夫だと返してくる小さな声。

「、私は、大丈夫ですっ、あの、かたたちは、大丈夫、でしょうか・・・?」

途切れ途切れにこぼされるか細い声に、ふわり、四郎兵衛は安心させるように笑いかける。


「大丈夫です。僕たち、こう見えても強いんですよ。」

ふにゃり、ふにゃり、その笑みにこわばっていた女性もようやっと柔らかく笑って。


「お姉さんには、もっと不敵な笑みが似合いますよ。」


そしてその言葉にぴたり、固まった。



「見つけたぞ!」

女性から視線を外して追いついてきた男たちに目を向ける。

「あれ?追いつかれちゃった。」


ぽろりこぼされた言葉に男たちは楽しげに笑う。


「さっきの餓鬼どもは丁重に相手してやったからな。」

その言葉にふう、と四郎兵衛はため息をついた。

「まったく、最近1年は組の問題を引き起こす性質がうつっちゃったのかなあ。」

ぼんやり、四郎兵衛がつぶやく。

「さあて、お嬢ちゃん、俺らと一緒に遊ぼうじゃねえか?」

四郎兵衛がそっと女性の前に守るように立つ。

「今は動かないでくださいね?」

男たちが一歩近づいた次の瞬間、

目の前の小さな影は姿を消して、気がつけば一人の男は宙を舞っていた。

一人の男は地に伏していた。

一人の男は腹部に強い痛みを覚えていた。

一人の男は首元にあてられた鈍く冷たい感覚に、動けずにいた。


「まったく。ここまで追いかけてこなかったら放っておいてあげたのに。」

むう、と四郎兵衛が首元にあてたくないをそのままに呟く。

「というか、左近、お前がぶつからなかったら始まらなかったんだけどな。」

はたりはたりと手をたたきながら四郎兵衛に近づく久作。

「そんなこと言っても仕方ないだろう!」

左近が男たちを縛りながら答える。

「四郎兵衛、その男さっさと気絶させろよ。」

左近を手伝いながら三郎次が言う。

「はいは〜い。」

その次の瞬間には最後の男も地に伏していた。



そして、くるり、四郎兵衛は女性へと振り向く。

それに、他の皆も視線を向けて。



「どうでした?立花先輩。僕たち頑張ったでしょう?」


にこにこ、とても楽しげに四郎兵衛がつぶやけば、女性はため息をつきながらまっすぐに四郎兵衛たちを見た。

「どこで気づいた?」

さらり、女性顔負けの髪をたなびかせて、女性、否、立花仙蔵は不敵に笑った。

「うええ、立花先輩?!」

仙蔵の言葉に答えるより前に左近が驚きの声を上げる。

まともに顔を合したわけでもないから当然だろう。

「さすがですね。」

さらに久作は、仙蔵を見ながら感嘆のため息を漏らした。

「やっぱり、先輩でしたか・・・」

苦々しそうにため息を漏らすのは三郎次だった。

「始めはすごくきれいな女性だなあ、と思ったんですけれど」

楽しそうに笑いながら四郎兵衛は続ける。


「手が、綺麗だったんですが、やっぱり豆があったんです。」

それから

「三郎次が火薬のにおいに反応したので。」


四郎兵衛の言葉に仙蔵は少し悔しげに、でも楽しげに笑った。


「二年生にはばれるはずがないだろうと、少し甘く見てしまったみたいだな。」

四郎兵衛に目を向けて、次いで三郎次を見る。

「悪かったな。」

そっと手を伸ばしてくしゃり、三郎次の頭をなでる。

驚いて固まった三郎次をそのままに左近と久作の頭もくしゃりと撫でる。

何ともいいきれないような顔をした左近と久作。


最後に四郎兵衛伸ばした手。

待ち望んでいたようにその手に擦り寄る姿は猫のようだ。


「さて、この男たちはあとは私がなんとかしておこう。」

仙蔵はそう言い置いて男たちと共に姿を消した。



「さすが、六年生・・・」

「いや、あそこまですごいのは立花先輩だからだ・・・。」

茫然としたままの左近と久作。

四郎兵衛が嬉しそうに笑う。

「これで、課題できたね。」

それに首をかしげたのは三郎次だ。

ひくり、頬をゆがめたのは左近。


「まさか、今の立花先輩の・・・?」


「うん。だって、課題は面白いことを見つけてきなさい、でしょ?」


そのときの四郎兵衛の笑顔は今日一番輝いていたという。













※※※
二年生。
忍者としてはまだまだ。
自然に話を聞き出すことが目的。
情報収集。
若干脱線した。
でも一般の男よりも早く動けるし、強いよ







※※※※※※※※※※










三年生の場合












ぶわり

微かに香る硝煙のにおい。

それは、この場所にあり得るはずのないもの。

つまり、侵入者がこの先に存在することを示していて。


そこを目指し木の上を文字どおり飛ぶように駆けていた三人組が、ぴたり、止まる。

鼻を突く嫌なにおいを遮るように口元の布を引き上げて、鋭い眼光で目指す場所を睨みつける。


「左門、三之助。」

「わかってる。」

「任せろ」

三人組の中の一人が上げた声に、残りの二人が返事をする。

それが自然であるかのように、彼らは連なる動きを見せていて。


「俺はこのままここで指示する。予定の場所に誘い込むぞ。」


「「了解」」


指示を出した作兵衛に頷き左門、三之助はすぐさま行動を開始する。





『近頃裏裏山に何者かが侵入しているようだ』



学園長の言葉に、白羽の矢が立ったのは黄緑色が目に眩しい三年生であった。

急遽とりつけられた実習。

その速さはつまり、下級生に被害が出る可能性がありうることを示唆し、それでいながら3年生に預けるということは、彼らでも対抗できるものであることをも示す。



彼ら三年生、それは大きく分ければ下級生であれど、それでも彼らは守るべきものを持っていた。




音もなく忍びよる。

それが難しいことだと感じなくなったのはいつからだろうか。

すごい速さで流れゆく景色を気にも留めず、向かうのはこの平穏の土地をあらそうとする無粋な奴らのもと。

三年生 それはまだ人の命の重さを知らず。

未だに人の命を奪うということをしたことは、ない。

だからこそ、この実習は、彼らをあやめるのではなく、この場所に二度と来ないようにするという目的のものだ。



ちらり



三之助の反対側で機会を狙う左門に一度眼をやる。

そして司令官である作兵衛のもとへも。



一瞬


刹那の時、それは起こる。

相手からすればいつの間に、ということであろう。今まで自分が持っていた得物が手元から消えているのだから。


ざわりざわり、どよめく彼らをそのままに、三人は次へと向かう。

左門が、あえて音を立てて彼らの後ろに降り立つ。

作兵衛や三之助のように口元を隠してはいない。

微かに焦ったような表情をして見せた左門は予定道理の場所へ向かって・・・は走り出さなかった。


「おお。正反対。」

「っ、あんのばかっ!」


思い切り見事なまでに正反対の方向へと走り出した左門。

そしてそれを追いかけだした盗賊たち。

予想はしていたが、いざというときは実はやる左門に期待していた作兵衛の落ち込みは半端ない。

落ち込む作兵衛の背中を慰めるように三之助がたたく。


「見ろ、作兵衛。たぶん大丈夫だ。」


促されてみた先には、ひらり、とても綺麗な蝶。

それを見た瞬間、左門はそれを追うように方向を変えて。

そしてもちろん左門を追いかけていた盗賊たちも左門を追って方向を変えて、

そうして予定の場所へと彼らは導かれていく。


「まったく。」


左門を追うように走り出せばもちろん道を外れる三之助。

それを捕まえながら走っていれば、ひらり、現れたい組の彼。

赤い色を首に巻きながらも忍びらしく気配を消して、孫兵は作兵衛に続く。

「左門は相変わらずで、・・・三之助も相変わらずだな。」

ちらりとそんな孫兵を横目に見る。

「なんで俺一人に任せるんだよ。」

作兵衛のむすりとした声に、ふ、と孫兵は笑う。

「作兵衛に止められないものが僕たちにとめられるとでも?無茶を言うなよ。」

それがもっともだと作兵衛も理解はしているのでそれ以上言葉は出さなかった。


と、


「っ、わあああああああああ」

「なんだこれはあ!!???」


左門が向かった先。

いたるところから聞こえてくる声。

悲鳴。


見れば、左門は見事にそれらを避けつつ走っていたが、もちろんそこに罠があることなど知らない盗賊たちはそろいもそろって罠にかかっていく。

それはもう、すがすがしいほどにあっさりと。


「左門、止まって止まって!」


ふわり、木の上から下りてきた藤内がそのまま走って行こうとする左門を必死で止める。

「ふぎゃっ、」

その横、降りてきた数馬は見事に足元にあった石に蹴躓き、地面と熱い抱擁を交わす。

「・・・大丈夫か?数馬。」

作兵衛がそっと彼らの横に降り立って数馬に手を貸せば、ふにゃりと泣き笑いのような表情で数馬は手をとった。


「藤内の罠、さすがだね。」

「伊達に作法委員やってないからね。」


ふわり、微笑むが、それはどことなく委員長に似ていた。


「数馬の薬もなかなか。」

「これで二度と、この場所にこようなんて思えなくなるよ。」


数馬のあったかい笑みは、なんだかいつもよりも眩しかった。


は組怖い。

そう思ったのはだれだったのか。


目の前に広がるのは、倒れ伏す男たち。

それを横目に皆が安堵の笑みを漏らす。

特に数馬はぐるりと皆を見渡して、ふわりとても綺麗に笑った。



「みんな怪我がなさそうでよかった。」









※※※
裏山に来た盗賊さんたちを追い返す。
まだ、人に手をかけるということを知らない。
だから、追い返すだけ。
仲良し。








※※※※※※※※※※※



四年生の場合






ひっそりと、草木も眠る丑三つ時。

闇色の影が四つ、とある城へと潜り込んだ。



「こっちは私と喜八郎が行く。」

「わかった。ではタカ丸さん、僕と一緒に。」

「うん、よろしくね。」


四つの影は二手に分かれ、すばやく影のように姿を消した。


「目的はこの城の兵力、火器などの道具を調べること。私たちは兵力の確認だ。喜八郎、余計なことはするなよ。」

「わかってるよ滝。」

ふわりふわり、音を立てず走る続けるその影は、辺りに気を巡らせながらも目的地へと急ぐ。

彼ら、滝夜叉丸と喜八郎二人共に駆けるその姿。

言い合いをしながらも、たがいに背を預け合えるそんな関係を二人は築いてきた。


ぴたり、屋根裏に忍びこみ、目的地の天井裏まで辿りつけば二人はこれまた同時に足を止める。


「気配は、」

「5。」

「忍びは」

「気配なし。」

ちらり、二人共に目を合わせて

「行くぞ。」

「もちろん」

共に降り立つ部屋の中、中にいた男たちに気づかれないうちに、彼らを眠らせて。

音もなく、呼吸さえ持聞こえぬ静寂の中。

忍びよった机の上、広げられた策略図。

「映すよ。」

喜八郎が懐から取り出した筆でそれらを映す。

その間滝夜叉丸は辺りに気配を払いつつ、事が終わるのを待つ。


「終わり。」

喜八郎のその声を合図にふわり、二人は姿を消した。






「タカ丸さんっ、」

「っ、」

硝煙蔵の明かりとりの窓から中に入ろうと覗き込む。

三木エ門が気がついた時にはすでにタカ丸は地面へと降り立っていて。

しかし名を呼ばれた瞬間素早く身を立て直して飛ばされた手裏剣の方へ眼を向けた。

見えない姿はそれでも気配をあらわにしていて。

すたり、タカ丸の目の前に三木エ門が降り立つ。

くないを目の前に構え、見えぬ相手を見据える。

無意識に、年上であろうと後輩であるタカ丸を無意識に庇うその姿勢。

庇われているタカ丸はそれを感じながらも、あまんじて受け入れる。

そうしてうかがうは機会。


じり、先ほど入ってきた窓から入り込む微かな灯が目の前の人物を映す。

ゆるり、相手は手に得物を構えたままこちらを見据えていて。


と、ゆっくりと入ってきていた光が失われ次の瞬間、目の前の男が素早く動き出した。

三木エ門もそれに対抗するように一歩足を踏み出そうとした、

が、

「三木エ門、口をふさいで目を閉じて。」

そっと後ろから回された自分よりもずっとたくましい腕。

同時に聞こえてきた言葉に考えるよりも早く体は動いていて。

瞑った目の奥、まぶたの裏で朝よりずっと明るい光が舞う。


それがおさまらないうちに、三木エ門の腕はタカ丸によって引っ張られていて、そうして気がついた時には硝煙蔵の外にいた。

まだちかちかする瞳を瞬かせながら辺りを見回せば、斜に構えた滝夜叉丸と相変わらず読めない瞳の喜八郎が目に入って。

「まったく。こんな簡単な忍務だというのに。」

やれやれと首を振る滝夜叉丸。

むっとするが、敵の気配に気がつけなかった私に落ち度があるので何も言えない。

「さっさとここから動くよ。」

そんな私たちを止めたのは喜八郎のそんな一言だった。




衝撃により強い衝撃を与え、同時に幻覚作用を引き起こす道具。

喜八郎が持っていて、硝煙蔵の窓から投げ込んだのはそんなものだった。

三木エ門の後ろからどうにかして突破口を探していたタカ丸の眼にはいったのは先ほど入ってきた窓から覗き込む滝夜叉丸だった。

完全に気配を消しながらもしっかりと現状を把握して、そうしてタカ丸に矢羽を飛ばしたのだった。


「ごめん、三木。」

城から脱出して、とりあえず安全なところまで逃げてそうして放たれた第一声はタカ丸のものだった。

「僕が気がつかなきゃいけなかったのに。」

ぎゅ、っと手を握り締め表情を歪めてタカ丸は続けた。

ずっと髪結として生きてきて、忍びとなろうと決めたのも最近で。

それでもこの実習についてこれるようになったことはすごいことだというのに。

彼の成長は早かった。


「大丈夫ですよ、タカ丸さん。」


滝夜叉丸が述べた言葉に、しょんぼりとしていたタカ丸の瞳が彼へと向けられる。


「実習は成功です。」

「・・・え?」

「なにいってるんだ、滝夜叉丸。僕たちは武器の数などはかれなかったぞ?」

三木エ門も怪訝そうに問う。

「ん。」

ひょい、と喜八郎の懐から取り出されたのは、びっちりとかかれた兵力、武器数など。

「ええ?どうして??」

心底不思議そうなタカ丸に滝夜叉丸は微かに笑って答える。

「帰りに敵に遭遇したのだがな、それから逃げるために色々な部屋をてんてんとしていれば見つけたんだ。」

その言葉に、ようやっとふにゃり、タカ丸本来の笑みがその場に戻って。

「よかった・・・。」

その言葉に三木エ門たちもふわり笑った。


「次も・・・一緒に連れて行ってくれる?」

そおっと、呟くように問われた言葉。

タカ丸を見れば、どことなく窺うように視線をさまよわせていて。


暗に、足手まといだと言われるのを覚悟するような、それでいて、先を望むその姿は、滝夜叉丸にとって、三木エ門にとって、そして喜八郎にとっても好感が持てるもので。


「何言ってるんですか。次も一緒に組みますよ。」

「むしろタカ丸さんがいてくれれば、私たちは安心して忍務に挑むことができるんですよ。」

滝夜叉丸が、三木エ門が、告げればタカ丸は泣きそうに笑って。

「私も、タカ丸さんにいてほしいです。」

ぎゅう、と喜八郎が猫のようにタカ丸へとへばりついてつぶやいた。


「次はもっと頑張るから、よろしくね?」


タカ丸はふわあり、とてもやさしくわらった






※※※
侵入。
忍者として一番もっともな仕事のような気がする。
私の中では基本的に四年生くらいから人を手に掛けます。
タカ丸が若干足でまといとされながら、共にいようとする。
年上でも一番経験が浅いタカ丸だけど、滝たちはタカ丸に救われてるといい。


※※注意※※
次の五年生から紅表現。
ぶっちゃけ人を殺したり、という表現多々あり。





※※※※※※※※※※※※※






五年生の場合










ざわりざわり


「今夜は森が騒がしいな」

つぶやいた声は闇に溶け行く。

横にいる言葉を離さず獣がすりりと体をよせてくる。

その温もりを一度、撫でてゆっくりと立ち上がった。

「さあて、狩の時間だ」


にやり、不敵に笑う表情も闇色に溶け込めば誰にも見られることもなく。








同じ顔が、そこにあって、二人はふわり笑いあう。

「何か来たね。」

「ああ。身の程知らずが、な。」

そんな言葉を交わしているくせに、表情は穏やかで。

ただただ、互いの瞳だけが鋭く辺りをうかがっていて。


「あ、はっちゃんがうごいたね。」

ふわふわ、風がふく。

髪が柔らかくはねて。

「んじゃあ、私たちもそろそろ動くか。」

「そうだね」

木の上にいた二人はゆっくりと立ち上がる


「さて、と。」

「僕たちの大事な箱庭を壊そうとする輩に」

「制裁を、な。」


再び風が吹いた時、そこには何の影もなかった。









「勘ちゃんや。」

「なんだい?兵助。」


ほのぼのとした会話。

二人はただ立っていた。

闇色の世界で。




紅に染まる蒼の衣をまといながら。




「今日はえらく騒がしいな。」

「八左エ門も三郎も雷蔵も動いてるからね。」


手に持ったままの刃。

そこについた紅を振り払う。


「嫌なにおいだ。」

「そう感じることができるのは大事だよ。」


辺りに目を走らせれば幾つもの影が重なり合って倒れ伏していて。


「勘ちゃん」

「なんだい、兵助。」


さきほどと同じ言葉。

それでもさっきよりも弱弱しくて。


「この手の感覚が、消えてくれないんだよ。」

「うん、そうだね。」


からり、乾いた音と共に、刃は地面とぶつかって。


「こんな手で、あの子たちに触れてもいいのか、時折すごく怖くなる。」

手を赤く染まるそれを、眼前に掲げて、兵助はつぶやく。

ふわあり

温かな温もりがそれを包み込んで心を溶かすように、揺らす。


「兵助。」


その言葉に促されるように見た勘右衛門の瞳は、柔らかく、温かく。


「僕の手も、真っ赤だよ。でも、あの子たちに触れることが僕にとって大事な時間なんだ。」


ぎゅう、と強く握られた手のひら。

それは確かにここにあることを告げていて。


「温もりを感じることで、俺たちは自分を保つんだ。」


にこり

この場所であまりにも不釣り合いなそれは、それでも兵助の心を和らげて。


「あの子たちとまだ共にいたいから、俺はこの手を使うんだって。」


最後にもう一度、触れて離す。



「だから、ね」


落ちたままの刃を再び拾い上げ、勘右衛門は兵助へと渡す。



「俺たちの大事なあの場所を、俺たちを迎え入れてくれるあの子たちを」


懐から取り出した手裏剣を背後の闇へと投げつける。


「守ろうね。」


鈍い音を立てて、それはあらたな影を地へと伏せさせた。


「そうだね、勘ちゃん。」


眉をはの字に曲げながら兵助は答えた。




再び背後に迫った気配に手に持つくないを向ける。


けれどもそれは一瞬で消えて。



「兵助、勘右衛門。」


かわりに現れた蒼色に、ふわり、凝り固まっていた体を和らげる。



「今日はなんだか多かったね。」

「6年生の先輩方が不在なのを知ったんだろう。」

「まあ、そうはいっても僕たちがいるんだけどね。」

いつもの長屋での会話と変わらない雰囲気で。

五人はそこにあった。





「さて、次のお客さんがお出まし、かな。」


「ああ、早く帰っておばちゃんの豆腐が食べたいな。」



兵助はいつもそれだね、その言葉を皮切りに、再び五人は姿を消した。











※※※
守ることは、責めることよりもずっと難しい。
人をあやめること、もう恐れはないけれど時折弱くなる。
特に兵助。
そんなとき、勘ちゃんに助けてもらってたらいい。
もうすぐしたら学園という箱庭からでなければならない。
だからこそ、大事な後輩たちを守りたい。




※※※※※※※※※※




六年生の場合














闇色の空の下、五つの影が、ただ、あった。


赤く染まるその場所で、課せられた忍務をただたんたんとこなしていく。

微かに香る硝煙のにおい。

辺りに広がる、重なる影。






忍術学園への侵入をずっと図っていた城があった。

我が学園が持つ情報を求めるその城。

以前より警戒していたそこが、ついに、忍術学園へと攻め込むことを決断した。



『我が学園に手を出そうとするその城を攻め落とせ。』



それが下された、学園長の決断だった。




動くのは深緑を身にまとった最上級生。

この学園で最も経験を積み、最も忍者に近い存在たち。






日はまだくれることを知らない昼過ぎ。

一人の男がとある城の前に立っていた。

「最近ここら辺ではやり病があるとお聞きしまして。」

その男は背に荷を背負い、顔に柔らかな笑みを浮かべて城の門兵にそう声をかける。


しばしじゅんじするように見えた門番は、しかし焦っていたのであろう。

二人いたうちの一人を城主の元へ走らせた。




「この薬は熱があまりにも高い時にお飲みください。」

「喉がひどく傷む時にはこの薬を。」

順々に背負っていた荷から薬を取り出しては説明を告げる。

この城にも医者はいるであろうに、今現在その医者すらも病にかかっているとのこと。

さすがに城主が出てくることはなく、女中であろう女性と、医者の助手を名乗るものが熱心に話を聞く。


「体の節々の痛みにはこれを。」

淡々と、それでも笑みは絶やさずに男は言葉を続ける。

「それから、病ははじめが肝心です。何か変だと思った時にすぐにこれを飲むようにしてください。」


最後にそっと出されたそれは粉状で、今まで出した中で一番数が多かった。


何度も何度も述べられる礼の言葉に恐縮するように男は何度も何度も頭を下げて城を後にした。



「こちらこそ、ありがとう。あなたたちのおかげで事は簡単に終えることができそうだ。」




小さな声でそんな言葉をつぶやいて。


















「最近なんだか城の中が大変だとお聞きしました。」

「何か手伝えることはないかと派せ存じました所存でございます。」

「力仕事、修理、なんでもいたしましょう。」


少しきつい瞳を持ちながらも真摯な視線を向けるその男に、話を聞いていた城仕えの男は頷いた。


男は町で萬屋を営んでいるという。

最近町の活気がないことを悲しみ、理由を突き止めそうしてここに来た。

そう述べた男は確かによく働き、知識もなかなかのものであった。

名を呼べば、汗だくになりながらも走ってきて、告げられた用事をしっかりとこなす。

話を振れば、こちらが思いもしない返答を返す。

それはなかなか面白いもので。




「そのお話大変うれしいのですが・・・。それでも私は萬屋ですので。」

一度まじめに城に仕えないか、そう話を振った時に男は申し訳なさそうにそう答えた。

残念には思ったがしかし、仕方がないことで。

それでも、城の中のことが落ち着くまではここにとどまる、そう男は述べた。



「この城のことが、終息、するまでは。ね。」




後ろでのささやき声など、聞こえはしなかった。















城の中が騒がしい。

少し前に入り込んだ城の中。

まかされた管轄の書物を整理しながら意識を外へと向ける。


話を聞いていればとうとう重役たちが倒れたらしい。

女中たちの中であまり大きな被害はないのだが、城の中の男たちが次々と倒れて行った。

城の中でだけの病。

それに恐れをなして逃げていくものたちも少なくはない。

そのおかげで、城にとって大事な書物をこんなにも得体のしれない男である自分が触れられるのだが。

ざわりざわり

ざわめきは広がる。


それはまるで何かの足音のように。

ゆっくりと確実にのど元に食らいつく機会を待つように。



耳だけ外に向けながら、ぺらり、新たな項をめくる。

そうして、その場所をそっとばれないように破り去る。


こうして、また一つ、この城から情報が消える。


それはまるで虫食いのように。

巧妙に破り去られたそれに気がつくものはいるのだろうか。




否、気がつくころには、誰も皆いなくなっているであろう。




















合図。

小さなそれは、それでも確かに耳に届いて。


すぐさま向かった先。

忍頭が難しそうな顔をしていて。

この忍びたいの中でも広がる謎の病。

もちろんそれを主である城主に知らせることなどはしないが。

それによってどこもかしこも手が足りず。


忍びとして学んだ時間が、今この場所で役に立っている。

入って間もないが、それでも役に立つ、そう頭に述べられれば嬉しいもので。


頭の前で跪き言葉を待つ。


曰く、何者かがこの城へと干渉を続けている。

ずっと前からあったそれは、今現在確固たる事実になりつつあって。


最近城へと入った者たちの身元を洗いだせ。


それが頭からもたらされた言葉だった。


まだ入ったばかりの彼に命じるということは動けるものが限りなく減っているのだろう。


「それから」


続く言葉に視線を向ける。

「例の忍術学園の件だが、殿は続行するつもりだ。近々動くぞ、用意しておけ。」


隈が目立つ瞳を伏せる。


「御意に。」


答え、すぐさま動きだす。




闇が近づく時間。

浮かぶのは嘲笑。



「今さら洗い出したところで、何がわかるってんだ。もうすでに事は終息に向かっているというのに。」

くつり、微かにのどを鳴らす。

「さて、あの場所に手を伸ばそうとした自分の浅はかさを怨むがいい。」




さて、終幕はすぐそこだ





























「御殿様。こちらのお酒も美味しゅうございますわ。」

美しき艶やかな黒髪をさらり、体の線にそって流す。

「最近場内で病が流行っているとお聞きしました。」

しなやかな四肢を微かに伸ばしながら、傍の男に寄りかかる。

「これで少しでも御殿様の気が晴れることを願いますわ。」

そっと手に持った徳利から男の猪口にそっと透明なそれを流し込めば、楽しげに男は顔を緩めて。。

もっとそばに寄るようにとまわされた腕に体を預けて、しなだれかかる。


からり


小さな音を立てて透明な液体と共に零れ落ちた猪口。

同時に回っていた手も畳の上に落ちて。

そっと立ち上がり黒髪をはらり、後ろに流す。

何の感情もこもらぬ瞳で、ただその男を一瞥すると、彼は姿を消した。



その小さな出来事は、誰にも知られることないまま。














「お前で最後だよ。」


黒い衣が闇に溶け込む。

紅の水をすったそれは重く、体にまとわりつく。

爛々と暗闇のなか、瞳だけが輝いて。


獣のような、その男は、楽しげに口元を歪める。





「城の中のものも、もう息絶えているころだ。」

伊作の薬は遅行性だが、効き目が強い。

ゆっくりと、気づかぬうちに体にたまったそれは一定量を超えればすぐさま死に至らしめる。

倒れはしても、まだ死ななかった彼らも、もう今頃黄泉の国へ旅立っているだろう。



「あれ?不思議そうな顔をしてるね。そんなに、私たちの行動が驚きなのかな?」

留三郎によってこの城の情報は、筒抜け。

場内の地図はもちろん、隠し通路、さらには兵力、戦力もばっちり握った。

これで、ひとつ忍術学園へ新たな情報が増えた。



「あのな、あの場所に手を出したのが悪かったんだよ。」

長次がゆっくりとしかし確実に忍術学園への情報を消していっている。

それは誰にも知られぬように。

今はもう残っていないであろう。




「そういえば、お前たちの忍隊に潮江文次郎、ってやつが入らなかったか?」

隈の濃い、同級生。

忍務に忠実で、だれよりも忍者に近いと言われる男。


「優秀だっただろう?」


一つ、また一つ、戻ってくる慣れた気配。

背中を預け合うことができる大事な友人たち。



「さて、もうそろそろ、全てが終わっただろうね。」

ふわり、最後に現れた五つ目の気配に笑みが浮かぶ。

軽く鼻を突くのはおしろいの匂い。

この場所に似合わないそれ、しかし、それは終了の合図。




「じゃあ、おやすみ。」












とあるとき、とある城が、地図上から消えた。

噂によれば、どこかの何かに手を出そうとして、そうして消されたと。

それが何処なのか、何だったのか、それが語られることはなかった。









※※※
六年生。
全ての総まとめ。
すでに心は忍びとしてある。
共に残された最後の時間を必死で生きてる。
大事な子たちに手を出そうものなら、容赦はしない。




※※※※※※※※※※










最後までありがとうございました!
こんなところまで辿りつく人とか・・・
いるの?いるのかな?

そんな素晴らしい稀有なあなたに!






「庄左エ門」

学級委員長委員会の最中。

例によって例のごとく、委員長代理、三郎先輩は不在。

彼を探しに勘右衛門先輩も不在。

残ってるのは一年生の庄左エ門と彦四郎だ。

「何?彦四郎。」

目を通していた宿題から顔をあげて彦四郎を見れば、何処となくおどおどと視線をさまよわせていて。

「どうかした?」

再び問えば、ぐっとようやっと決心したようにこちらを見る。

視線は鋭いがどことなく顔は赤い。

「この間はありがとう!は組のおかげで無事におつかいを達成することができた!」

一息でまくしたてて、息を微かに切らす。

きょとりとした後庄左エ門は答えた。

「そんなこと?」

「んなっ!?」

一大決心のつもりで叫んだ言葉、あっさりばっさり切り捨てられて。

「おまっ__」

いい募ろうとした彦四郎

でもそれは庄左エ門に遮られて。

「あの場所ではあれが最善だった。それだけだよ。」

「逆に僕の方こそ言わなきゃ。無事におつかいをしてくれてありがとう。」

にっこり、笑う庄左エ門に、彦四郎は力が抜けるようにため息。


「どういたしまして・・・」

それでも律義に返事する彦四郎はなかなか大物だ。

「・・・っ、」

「・・・」

ぱちり、目が合えば、なんだか笑いがこみあげてきて。

二人してけらけらと笑っていれば、スパン、開かれた襖。

「待たせてごめんね?二人とも!」

片手にお盆。

片手に三郎を持った勘右衛門が現れて。

どさり、三郎の首根っこをつかんでいた手を話せばぐえ、と蛙が潰れるような声。

それを気にすることもなく勘右衛門は二人の前に座り盆を畳に置き二人の頭をわしわしと撫でた。


「お茶にしようか!」

まるでさっきまでの出来事をすべて知っているように笑うものだから、

彦四郎も庄左エ門もまた、笑った。






後日談 学級委員














※※※※※※※※※※

ありがとうございました!!