ドリーム小説
いつだってそばにいたいのは、
授業が終わって、放課後。
生徒たちが喜び勇んで教室から出ていくのに、私も続く。
今日はなにも教授に仕事をもらっていないので、ゆったりとした放課後を送る予定だ。
以前よりもずっと増えた知り合いたち。
彼らに声をかけたりかけられたりしながら、目指すのは湖。
風が気持ちがいいそこは、最近のお気に入りで。
しかしながら、最近の寒さのせいか人は少ない。
これ幸い、とばかりにべたり、地面に座り込む。
と、どこからか羽音。
どこだろう、と見上げるより先にその音は私のすぐそばに現れて。
「わ、」
白い、きれいな色に思わず声を上げる。
ふんわり、降り立ったのは純白の梟。
見知らぬ梟では、ない。
「・・・ヘドウィグ?」
確か、そんな名前だったと思う。
友人が呼んでいたのを思い出しながらそっと名前を口にする。
と、正解だ、とでもいうように、彼はぐりぐりとこちらに頭をすり付けてきて。
「・・・かわいい、」
ゆっくりとその羽をなでれば、もっと、というように手のひらに頭を押しつけて。
望むのならば、と、両手を使ってヘドウィグをなでまくる。
「・・・?」
「・・・へ?」
と、突然響いたのは自分の名前。
思わず間抜けな声を上げながらそちらをみれば、きょとん、とした表情で立ち尽くす、めがねの友人。
「ハリー?」
私の呼びかけに答えたのは、私がなでくり回す梟で。
「ヘドウィグが突然飛んでっちゃったから、何事かと思った。」
へらり、笑う。
柔らかい、暖かい笑顔で。
「を見つけたんだね。」
そのまま私の横にそっと腰を下ろして、瞳を細めてこちらをみてくる。
「かわいいですね。」
もっとなでろ、とばかりに私のそばから動かないヘドウィグをなで続けながらつぶやく。
「・・・ヘドウィグをなでるもかわいいけどね。」
そんな言葉と同時に、頭にぬくもり。
ゆっくりと視線をハリーに向ければ、彼の手が私の頭をなでているのがわかって。
ぴしり、思わず固まってハリーを見つめれば、彼もぴたり、止まって。
「・・・ごめん、忘れてた。」
彼の笑顔が困ったようなものに変わる。
そっと温もりが遠ざかって、彼の口が再度開かれる。
「は僕より年上なんだったね」
こてり、首を傾けられて告げられたそれ。
「・・・でもやっぱり、妹みたいだ。」
さらに続けられる言葉に思わずうなだれる。
年上の威厳なんてもってはいないけれど、妹みたい、といわれるのは少しばかり切ない。
「ハリー」
そっと呼べばおそるおそる、伺うようにこちらをみてくる緑の瞳。
宝石みたいにきれいな色。
優しくて強い、私の自慢の友人。
「私は、ハリーを守りますから。」
ぽろり、こぼれた言葉に彼の瞳は開かれて。
「年上は、年下を守る義務があるのですよ。」
だから、いろんなこと、抱えすぎないで。
私を頼ってくれていいから。
「」
今度は、私が呼ばれる。
なあに、と首を傾ければ、ハリーの手が私に伸ばされて。
そっと頬にふれる。
「それは違うよ」
なにに対する否定なのか、少しばかり理解できずその瞳を見返す。
柔らかくハリーの瞳が細められた。
「あのね、。日本ではどうかわからないけれど、」
少しだけいたずらっけが混じる瞳。
口元が楽しげにあがっている。
「男の子は、女の子を守るものなんだよ。」
にっこりと、今までで一番いい笑顔を、ハリーは浮かべて。
ぶわり、熱が、あがった。
そんなこと、男の子から言われたことなんて、なかったから。
目を背けたいのに、ハリーが頬に手をやったままだから動けなくて。
口をぱくぱくと開くことしかできなくて。
ますますハリーの笑顔は深まって。
「っ、ヘドウィグ?!」
突然、なでるために触れていた梟が鳴き出した。
それにはっ、となって手元をみる。
ヘドウィグは再度声を上げて、空へと舞い上がった。
「あ、」
先に声を上げたのはハリー。
それに促されるように視線をあげれば、真っ黒い、色がそこにあって。
私が、愛しいと感じる人が、そこにいて。
確かに、目があったと思ったのに。
彼はあっさりと目線をそらして。
なぜか今来たであろう城の方へ戻っていく。
「教授、」
呼んだけれど、どうやらその声は届かなかったようで。
立ち上がって汚れを払う。
そしてくるり、ハリーに向き直って笑う。
「ハリー、さっきの言葉うれしかったです。ありがとう。」
守るって、そういってもらえたこと。
「でもね、ちゃんと私も頼ってくださいね」
強がることの多い彼にそう告げて、私は走り出す。
向かうのは、大好きな教授のところ。
「教授」
再度名前を呼ぶ。
今度は聞こえているだろうに、完全な無視だ。
追いついて、彼の横に並ぶ。
ちらり、見上げた表情はどことなく不機嫌で。
そっと彼のローブに触れる。
こっちをみて、そんな意志を込めて引っ張れば、ちらり、視線が向けられる。
「教授__」
「ポッターをおいてきてよかったのかね」
言葉を放とうとしたのに、それは教授に遮られて。
珍しくも彼がハリーを伺うようなことを言ったから、言葉に詰まる。
教授の眉間のしわが険悪なものになる。
「話していたのだろう?何か楽しいことでも。」
彼の言いたいことがわからなくて、首を傾ける。
「我が輩のところに来ぬとも、構わないと言っているのだ。」
普段よりも乱暴な口調。
それを必死で押さえるみたいに、言葉尻は変に優しくて。
なんとなく、わかった。
その眉間による皺の理由。
なんとなく、理解した。
彼の言いたいこと。
じわり、笑顔が沸き上がる。
ああ、愛しいなあ、と思う。
ぐい、と彼のローブをさらに引っ張って、足を止めさせる。
見上げるその顔。
相変わらずの不機嫌顔。
でも、それがいい。
「ハリーと話すのは楽しいです。」
だって、友人だもの。
「でも、教授」
ねえ、聞いて
「私がいつでも一緒にいたいのは」
私の言葉を
「お話していたいのは」
信じて
「あなたです。」
私の言葉を
手を伸ばす。
精一杯背伸びをして。
その色味の薄い頬に触れる。
「教授」
あの場所に来たということは、私を捜しに来てくれたのでしょう?
最近よくあの場所にいるって、以前話していたから。
それを覚えてくれていたのでしょう?
「セブルス教授」
幾度目かの呼びかけに、彼は一つ、ため息。
じいっと見つめていれば、表情は困ったものに変わる。
しかたがないな、とでもいいそうな、優しい色を帯びる。
先ほどまでの眉間のしわは薄くなって、瞳は温もりを宿して。
温もりが、頭に宿る。
先ほどハリーに触れられたときとは全く違う、高揚感。
笑みが、あふれる。
「教授、大好き、」
私の言葉に教授はあきれたように、小さく笑った。
私は彼よりも、不器用でとても優しい人がいい
※※※
もじゃー様リクエストありがとうございました
魔法連載を気に入っていただけたこと、とてもうれしく思っております。
嫉妬教授、何それ楽しい・・・!と書かせていただきました。
時間軸的には本編真っ只中、くらいかな?と思っております。
素敵なお話を書く機会をいただきまして、ありがとうございました。
連載終了までもう少しお時間いただくかと思いますがお付き合いいただけると嬉しいです。
煌 那蔵