ドリーム小説














知らない

こんな世界

何も知らない。

先ほどまでの箱庭はどこに行った。

我らの学び屋はどこへ消えた。



あの場所は、こんな風に硝煙と鉄のにおいに囲まれてなど、いなかった。

くすぶる煙

響く叫び声



俺たちの愛する後輩たちはどこへ行った。



「あの人たちの、世界。」

呟いたのは喜三太。

「少なくても、僕たちの世界じゃない」

三次郎が続けた。

その言葉がもたらす意味を、俺たちがわからないはずもなくて。

「きり丸」

乱太郎に、呼ばれる。

詰めていた息を、吐く。

横に寄り添うように立ったしんべヱをちらりとみて。

「大丈夫。ここには、僕らの後輩たちはいない。」

金吾が

「大丈夫。まだあの子たちはこの光景を知らない。」

伊助が告げる。

「今やるべきことは、状況把握。」

庄左ヱ門の冷静な声に心臓が緩やかに元の早さへとちかづく。

「庄左ヱ門」

金吾が腰に下げていた刀にふれて。

「あそこ見て。」

虎若が指さした先、見たことのある黒い烏

そして、橙色

「行こう。」

団蔵の静かな声に、皆一度だけ視線を交わして。




そして、消えた。






















※※※※














旦那のところに戻らなくてはいけないというのに。

1週間の偵察任務の後、巻き込まれた戦。

それは自分の体を思った以上に弱らせていたようで。

いつもであれば簡単に振り払える追っ手が撒けない。

一つ、舌打ちを漏らす。


と、さらにいくつもの気配。

それは確かにこっちに向かってきていて。

新手だろうそれに、苦い感情がこみ上げる。

困った。

これじゃいつになったら戻れることか。

他へ意識をやったのがいけなかった。


追いかけてきた忍のくないが俺様の腕をかすめる。


あ、やばい奴だ。


刃には毒を塗る。

それは戦場での当たり前。



さらには前方からは新たな気配






ふわり、よぎる、主の笑顔。





前からやってきた気配が、俺様の、横を、すぎ、た・・・?


「・・・え?」


乾いた声が口から漏れた。

一瞬だけ消えた音が、すぐに戻ってきて。

後ろでくないが、手裏剣が落とされる音が響いた。


前からきたのは知らない気配だった。

俺様の仲間ではなかったはずだった。


鈍っていた足を止めて、ゆっくりと振り返る。


そこにあったのは、深緑を纏う少年たち。

後ろにいた追っ手たちをあっさりと地に落としていく9人の少年。

指示を出す一人

それから__

「佐助さん。治療します、腕を。」

捕まれた腕からは温もりが。

緩慢な動きで振り向けばそこには面影が残るめがねの少年。

「らんたろう?」

記憶の角の名前、小さく呟けば、俺の言葉を聞き取って少年が笑う。

「はい、お久しぶりです佐助さん。」

「ど、して、ここに?」

毒のせいでうまく動かない体。

乱太郎が座らせるのに従うしかなくて。

「虎若、生物委員の毒消しを」

鋭い乱太郎の声。

俺の言葉への返事ではない。

「わかんないんっすよ。俺たちも」

代わりに聞こえてきたのは別の少年のもの。

ゆっくりとそちらを見れば、藍色の髪がきれいな美形。

否、

「きり丸・・・」

「はいはい、そうっすよ。きり丸っす。」

座る俺を見下ろすきり丸。

その表情はあのころよりも柔らかく。

虎若に渡された薬を乱太郎が口元に持ってくる。

彼らに対しての警戒は、初めて会ったあのときから持てていないから。

あっさりとそれを口に入れて。

「佐助さん、これもどうぞ〜。」

しんべヱがどこからか取り出した砂糖菓子を俺様の口に入れる。

「どうしたんですか?あなたらしくない。」

兵太夫があきれたように言ってきて。

「偵察が続いてね。」

なんだこの薬、すごい。

もう体が動くようになってきた。

「相変わらずの忍び使いの荒さのようですね。」

伊助が苦笑する。

それに同じように笑い返して。

「もう近くにはいないかと」

金吾が刀を腰に戻しながら戻ってきた。

その太刀筋は昔とは比べ物にならないくらいきれいで。

「おっきくなったねえ・・・」

あの水色の装束は失われて。

代わりに纏うのはあのとき、彼らを迎えにきた最高学年。



一番黒に、近い色。

彼らはもう、あのときの幼子ではないのだろう。



「佐助さん」

団蔵が、笑う。

あのときよりも大人びた、無邪気さをなくした笑みで。

「俺たちわかんなかったんです。何でこの場所にまたきたのか。」

それでも、瞳は優しいまま。

「でも、今理解しました。」

三次郎が穏やかに続けた。

「ちゃあんと理由があったみたいです。」

喜三太がにっこりと笑う。

この戦場に似つかわしくない明るい笑顔で。



「佐助さん。あなたを助けるためだったんです。」



庄左ヱ門が柔らかく告げた。