ドリーム小説
唇に紅を乗せて。
「みて、喜八郎。」
のんびりと部屋でくつろいでいた喜八郎に掌を開いて見せる。
手に持つのは紅。
今年の流行の色らしい。
もちろん、俺が手に入れたわけではなくて、作法委員会委員長からの贈り物だったりするのだが。
「綺麗な色だろう?」
きらきらと、輝くその色。
俺には手におえないくらいに綺麗で。
私には色があわなかった。もらってくれると嬉しい。
そんなことを言われれば受け取らないわけにはいかなくて。
「先輩がくださったんだ。」
「立花先輩が?」
ようやっと喜八郎が反応した。
寝転がっていた姿勢から起き上がり壁にだらり、もたれかかる。
そんな喜八郎に近づきながら紅を指に乗せる。
「俺なんかより喜八郎のほうが似合いそうだ。」
指先を喜八郎に近づけて呟く。
俺なんかよりもよっぽど化粧映えする顔だから。
「喜八郎、じっとしてて。」
そのまま彼の唇に紅を乗せる。
柔らかな、かすかにしっとりとした唇に、自分でしたにもかかわらず指先が震えた。
それを悟られないうちに指を離して、彼の表情を見る。
白い顔に紅が映えて、艶やかさを醸し出す。
「うん、やっぱり、きれい。」
ほお、と息を吐いて喜八郎を眺める。
・・・紅を乗せたらぜひとも頬にも色を散らせたくなってきて。
無表情の喜八郎をそのままにさらに化粧道具を取り出す。
化粧筆に赤を付けて再度喜八郎の顔に手を伸ばす。
否、伸ばそうと、した。
「・・・へ?」
とん、と軽い音を立てたのは自分の背中。
先ほどまで目の前にあった喜八郎の顔は、いつの間にか私を見下ろすような位置に。
筆を持ったままの手は、なぜか彼につかまれて。
後ろは壁。
前には喜八郎。
手はつかまれて身動きができず。
先ほどまでの喜八郎と立場が逆転したようで。
「ねえ、。」
穏やかな、声。
なのにどことなく扇情的で。
私を見下ろすその表情は、陰になっていて少し見ずらくて。
でも、紅の赤さが色を増す。
つ、と彼の手が、私の手に触れていないほうの手が、頬に触れる。
ゆっくりと皮膚の上を這うように手は触れて。
それはゆるやかに私の首元に、巻きつく。
急所ともいえるその場所に触れられたことにぞくりと、背中が震えた。
「ねえ、」
再度呼ばれる名前。
返事ができずにいる私に、喜八郎の口角があげられた。
首から掌が離されて。
そして、指が、私の唇に、触れる。
「はここに触れたんだから、私に触れられても文句はないよね?」
ゆっくりと、形をなぞる様に指先がふれる。
上を、下を、撫でて、そっと合わせ目に置かれて。
「きは、」
呼ぼうとした名前。
それは口の中に指が侵入したことで発せなくなって。
「私は男だから。」
目が細められて、言葉が噛みしめるように発せられる。
「紅が似合うといわれても、嬉しくない。」
困ったように眉を寄せて、でも、どことなく愉しそうに。
「ねえ。」
ゆっくりと、指が、離れて。
「紅は、きっと、」
近かった距離がさらに、つめられる。
「のほうが、似合うよ。」
目の前が喜八郎でいっぱいになって。
唇に、押し付けられた熱に、思考が止まる。
「っふ、」
幾度となく押し付けられるそれ
色を移しあうように、
熱を共有するように、
呆然としているうちに、喜八郎の顔はそっと離れて。
俺の表情を見た後、再度念を押すかのように唇を啄まれた。
「き、は、ちろ」
はぁ、と止めていた息を吐き出すと同時に、顔に、熱が集まっていくのがわかって。
喜八郎を見ていることができなくなって。
そっと視線を外す。
小さく笑う声。
喜八郎にしては珍しいそれに、興味を惹かれるけれど、赤い顔をあげることなんかできなくて。
「。この紅頂戴?」
答えられない状況なのに、喜八郎は俺に問う。
「代わりに私の紅を上げるから」
どうして?そう聞きたくてようやっと彼に目をやれば、柔らかな穏やかな表情がそこにあった。
「先輩の選んだのじゃなくて、今度は私が選んだ紅を付けて?」
喜八郎はそういって、再び俺との距離を詰めた。
※※※
裕様、リクエストありがとうございました。
宵闇を気に入っていただけたようでとてもうれしいです。
喜八郎と夢主のお話、いかがでしょうか?
時間軸的には本編恋愛編終了後、ちゃんと両想いの状態です。
攻める綾部、に、なってるといいな。
ありがとうございました。