ドリーム小説




まだここは、箱庭の世界


















あの戦場を忘れそうになる穏やかな世界。

忍びを育成する割に、暖かな箱庭。

そこは確かに庇護されていて。



そう、その場所は確かに、庇護されていたはずだった。


「先生!!」


帰る方法を探すため学園長の庵に集まっていた俺たちの元に、突然響いた幼い声。

ゆっくりとそちらに目をやれば、そこには黄緑色。

首もとに赤い蛇を巻き付けた子供。

名は、確か孫兵といったか。

今日はその腕に一羽の鷹を宿らせている。

「っ今竹谷先輩から伝令が!!」

その名前は、この学園の5年生のものだ。

5年生は今、ここにはいない。

最上級生と共に、とある城へ実習へ向かっていたはずだ。


「敵の数、誤りあり!」

息を弾まして孫兵は続けた。

「至急応援願う!!」

ゆらり、空気が、変わった。




「先生!先輩たちを、助けて!!」




その声を無視できるほど、俺たちは白状ではない。



「小十郎」

俺の主の声が響いた。

その一声ですべてを理解する。

「佐助」

真田も忍の名を呼んで。

真田と視線を合わせて一つ、頷く。

「学園長殿。ここは我々が。」

堅苦しい口調。

瞳は爛々と輝いて。

真田を引き継いで忍も言葉を放つ

「ここでお世話になってるからね。俺様たちがんばっちゃうよ」

主と正反対な口調。

しかしながら纏う空気はぴん、と張りつめて。

「今ここに私たちがいる以上、他人事ではありませんから。」

政宗様の意志をくんで、続けた。


「さあ、Partyを始めようじゃねえか」


にやり、俺の主の笑みにこの学園の主が小さく笑ったのが、見えた。












「うん。状況は最悪だね。」

偵察から戻った俺の忍の言葉。

「完璧に孤立状態。けが人も多数。逆にあの状態でよくもまあ伝令をだせたよね。すごいすごい。」

にこやかに最悪を告げるその神経にため息がでそうだ。

「どうする?」

答えはわかっているだろうに、俺の指示を待つ。

ちらり、政宗殿に目をやれば珍しくも俺の言葉を待っていて。

この世界の戦いは、俺たちの世界の者に比べれば幼い。

婆沙羅を使う者もいなければ、突起した武器があるわけでもなく。

そして、俺たちがいくら暴れようとも、俺たちはいずれあの世界へと戻るのだ。


すべて関係がない、と言ってしまえる。


脳裏によぎる、幼い者たちの姿。


忍を育成する学園で育ち、優しさに触れ、温もりを知り、そして、闇の中へと羽ばたいていく者たち。

いずれくる未来がどんなに過酷なものであろうと、今庇護されるべき彼らにはまだそれは”未来”の話。

不審者そのものであろう俺たちを受け入れてくれた、暖かな者たち。


この世界へ与える状況云々を考えるよりもなにより、まず、あのものたちを救うことが先決だ。


「政宗殿」

俺の言葉に彼はゆるり、一つしかない瞳を向ける。

その瞳は楽しそうに輝く。

確かにこの世界では暴れることができなかったから、気持ちは分かる。

なぜなら俺自身も気持ちが高揚しているから。

「旦那」

佐助の言葉に一つ、頷く。

「策もなにも、不要であろう。」

目指すのはあのものたちのところ。

「思うように、思うがままに」

目的はあのものたちを守ること。

「暴れようではないか」

政宗殿が愉しそうに電気を帯びる。

園後ろ片倉殿が、刃を構えた。

佐助が闇を纏って。

そして、俺も炎を宿した。


「Le't Party!!」


政宗殿の言葉を皮切りに、城へと走り出した。












「はいはーい。おとなしく寝ててね〜。」


闇に落とすのはもう幾人目か。

数だけは多いそれらを地面にたたきつけていく。

あたりは一面、倒れ伏す男たちであふれる。

自分たちの世界に比べてひどく手応えの薄い力。


今回の彼らの忍務はそんなに難しいものではないはずだった。

最上級生たちが城を落とす。

それを5年生たちが見学をする。

簡単に言えば、それだけ。


しかしながら、間違っていたのは忍務の情報。

先に偵察をしたときは、その情報に間違いはなかった。

忍である俺様の目にも、誤りは感じられなかったように思う。

脳裏に浮かぶ、学園の頂点。

あれ、はひどく喰えない輩だ。

幾度となく、彼らを試す意味を持って理不尽なものを押しつけてきたのであろう。

今回も、おそらくそれ。

そう、生徒たちはあの権力者に踊らされているのだ。


しかしながら、それ、は、これから先理不尽に忍という存在に襲いくる試練でもあって。


本当に喰えない奴だ、と思う。


「旦那ー。そっちはどう?」

隣の部屋、ひどく燃えるにおい。

ゆるり、視線をそちらにやれば、ぱたぱたとすすを払って戻ってくる旦那がいて。

「もうここは終了だ。」

「じゃあ、行こうか。」

手をのばして、俺様の烏を呼ぶ。

ばさり、やってきたそいつをなでながらゆっくりと先を見据えた。



「さあ、この先に、いるみたいだよ。」



彼らには、こんなところで無駄に命を落としてほしくなどは、ない。
















状況は、最悪。

残念なことに、突破口すら見つからない。

辺りを見回してため息しかでない。

場所は城の一番内側。

事前の情報であれば、城主が常にいる場所だった。

それを叩く。

それだけで私たちの忍務は終わるはず、だった。


偵察の段階では誰も予想はしていなかった。


忍務内容が、すべて、偽りだとは。



恐らくは我らが学び屋を邪魔に思う面々。

それらが手を組んだのだろう。

その証拠にこの場所にある戦力は一つにとどまらない。


「仙蔵」


沈んでいた思考を、浮上させる。

かすれた声は同室の文次郎のもの。

手足に傷を負った状態では顔を動かすことくらいしかできないが。

向けられている視線は一つではなかった。

忍務の見学だけであった5年生は、異常を感じて我らと共に戦おうとしてくれた。

しかしながらそれも向こうの思惑道理で。

今、ここにいる6年生6人と5年生5人は見事に体中痛めつけられて為すすべもなく。

見張りの気配は多数あれど、姿をみせはしないためよけいに動けなくて。

「さて、どうしようか」

困ったような声。

伊作のそれに、小平太があっけらかんと笑う。

「どうしようもないな!」

すべてをあきらめたような声なのに、瞳は爛々と何かを探していて。

「雷蔵の怪我の状況は?」

傷だらけの5年生に長次が問いかける。

「動けはします。」

困ったように眉を寄せて不破はつげた。

「雷蔵、うそをつくな。」

その横に寄り添うようにいる三郎はどことなく不機嫌で。

「竹谷、おまえの鷹は?」

留三郎が問う。

「一応伝令でとばしました。」

「うまくいけば学園側から援護がくる、かと」

竹谷に続いて久々知が。

「まあ、学園側が援護をだす気があるか、微妙ですけれどね」

尾浜の言葉に皆、口をつぐんだ。

薄々、勘づいてはいたのだ。



見放される可能性があることを。



それでも、粘るしか方法はないわけで。




突然、あたりの気配が、揺れた。

同時に響いたのは爆音。

それは一カ所だけではなく、至る所から。


さらには炎や雷など、人の力ではあり得ないものがあたりにあふれる。

「突破口、みーつけた。」

小さくつぶやいたのは小平太。

その口元には、笑み。


それにつられるように皆の表情に色が戻る。


「そういえば、忘れてたな。」


蒼が、紅が、輝く。


「あの人外の存在を」




あの学園に居候する、異世界からの客人を。






















どん、とひときわ激しく炎があがって。

雷が空を埋め尽くした。



そして、降り立つのは4つの影







「さ、皆、お待たせ〜」


ふわり、笑みの後ろに闇を隠して。


「怪我はござらぬか?」


瞳の奥に炎を宿す


「手応えのない野郎だな」


茶色のコートをはためかせて


「さあ、助けに来たぜ?」


一つしかない瞳で笑った。











俺たちを見て、泣きそうにそいつ等は笑った。

ぼろぼろの状態で、痛みをこらえながら。


瞳にはかすかに光が戻り、俺たちの声に応えが確かにあって。


それに、ひどく、安堵した。



「政宗さん!!」

留三郎の声。

それは恐らく俺に向かってくる敵の刃に向けてだろう。

きいん

響く金属音。

俺の右腕がその刃を退けた音。

それを見もせずに感じ取って、一歩、足を進める。

また一つ、どこからともなく飛んできた刃。

首を傾けることでよけて、また一歩。

「なんだ随分ぼろぼろになったんじゃねえか?」

くつくつ、喉の奥笑って見せれば、文次郎が、三郎が、眉をしかめて。

頭に向かってきた銃弾は刀で弾き飛ばして、さらに一歩。

「政宗も随分派手にやってくれたみたいじゃないですか。」

三郎が皮肉るように口角をあげて言葉を発する。

今の状態に似合わない会話にやっぱり笑いが止まらない。


「見いつけた。」


そのつぶやきは真田の忍びのもの。

瞬時に気配は消え去って、どこかへと向かっていく。

首謀者を見つけたのだろう。

あんなんでも実力は確かだ。

ましてやこの世界。


逃がすことなどないだろう。


「私も、ちょっと行ってくるな!」

にかり、笑うのは小平太。

瞳を爛々と煌かせて、傷だらけの体を颯爽と動かして。

忍びを追いかけて消える。

「伊作殿、皆の怪我はいかがか。」

真田の声。

同時にばたばたと伊助や長次、雷蔵のところに走っていく真田。

一歩、一歩、重圧をかけるように足を進めていたのに、あっさりと距離を詰めやがった。

しかしながら先ほどまで飛んできていた刃は消えて。

代わりにかすかな悲鳴。


さすが忍び、仕事が早い。



「政宗様」

「小十郎、退路を作っておけ。」

「御意に」


小十郎に指示を出して、こいつらのところへとたどり着く。

ゆっくりと、一番近くにいた八左衛門の髪に手をやって、ぐしゃり、かき回す。


「生きてるな?」


俺の言葉にぐ、っと息をのんで、八左衛門は確かにうなずいた。


「政宗さん、こっちも。」


空いているほうの手を取られて今度は黒髪のもとへ誘導される。

声は勘右衛門のもの。

でも触れた頭は兵助のもので。


ぐしゃり、撫でればゆっくりと体が緩んでいって。







「助けてくれてありがとう」







小さくつぶやかれた言葉に、やっぱり笑みが漏れた。





















※※
ハル様、素敵なお話を書く機会を与えていただきまして、ありがとうございました!
あんまり颯爽・・・?とは言えないうえに、あんまりからみがないことに書き上げてから気づく、という・・・
ですがとても楽しく書かせていただきました。
少しでも気に入ってくだされば幸いです。




煌 那蔵