一周年リクエスト



紅和さまへ















 ねえ。一つ、約束をかわそう?

 約束?

 うん。そう約束。

 ___いいよ。どんな約束?

 ・・・私たちが次に会った時には___

 





さわりさわり

流れる風が空に消えゆく。

夕焼けに近い時刻。

町はずれの閑散とした場所にある一つの茶屋。

以前よりも伸びた黒髪を後ろでひとまとめにくくって。

はそこにいた。



幾度となく文をやりかわした間柄の彼らと、今日久方ぶりに会うことができるのだ。

それに心弾ませ。

ゆったりと茶屋の前の長椅子に腰をおろして。

目を閉じて、風を感じていた。


さくり草を踏みしめた音に体が反応する。


さわり新たに現れた人影は五つ。

編笠を深くかぶった妙齢の女性。

その女性の手を引くのは茶色の髪を持つ男性で。

女性の横に付き添うように立つ金色の優男。

その後ろからは警戒するように紺に近い黒髪を持つ男性が。

そしてそれらの一番前にはりりしい顔立ちを持つまだ少年に近い男性。



「姫様、もうしばらくご不自由をおかけいたします。」

「良い。」

「段差がございます。ご注意を。」

「滝、警戒を怠るなよ。」

「わかっております。」

男性たちは皆女性を守るように。

その姿を見たは一度驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。




「しばしの御休息を。」

茶髪の男が茶屋の前、の横に位置する長椅子に女性を腰かけさせる。

どことなく辺りを警戒する様子からみて彼らは忍んで道を行くものか。

「いらっしゃいませ。何をお持ちしましょうか?」

店の奥から出てきた黒髪の若い男が低い姿勢で問いかける。

「茶を一つお願いします。」

金色の優男の言葉に了承の返事を返し男は店の中へと入っていく。

はただそれら一連の動作を見ていただけだった。

と、ばちり少年と目が合う。

一瞬優しくゆがめられたその目。


   久しぶりだな


交わす矢羽はあの頃と何ら変わりなく。

思わず笑みが漏れる。

が、その小さな再開はすぐさま遮られた。





    来た





突然空気が、変わった。

一番に反応したのは紺の男。

気配がした方向に一直線にその体を走らせる。

金色の男と茶髪の男は座る女性を守るように構えて。

少年は一直線に紺の男についていった。



辺りの気配を探れば結構な気配の数。




さてさて、この人たちがどんなふうに動くのか。


お手並み拝見と行きましょうか?


「ぐわっ、」

「うわあ」


二人の男が向かって行った先からは多くのうめき声が聞こえた。


「姫様には触れさせないよ〜」

女性に向かっていく黒い影との間に入り込むのは金色。

ふうわり笑うくせに目はとても鋭くて。

「姫様、その場所から動かれませぬよう。」

茶色の男は腰につけていた刀を構えた。



「そのものがこの国の城に出向くことは我らの主にとって不都合。ここで命を絶たせてもらう。」



明らかに頭と思われる男。

その男が女性に向かって告げれば女性はおびえるように体を揺らす。

そばの二人の男は視線を鋭くして。

紺色の男たちが走って行った方からはいまだ剣劇が止むことはなく。

男の後ろにはさらに幾人もの敵と思われる男たちが現れて。

(・・・これは手伝うべき、だよな。)

目の前で始まった激戦に一つため息を吐いて。

さてやろうかと一度眼を閉じ立ち上がる。


近づいてくる気配。


!」

呼ばれる自分の名。

言われなくても気づいてるよ。

懐から取り出した刃。

それを近づく影に投げ捨てて。

そして名前を呼んだ彼のもとに走りゆく。

いつの間にかこの場所まで戻ってきていた彼はそのの姿を見てほっと息をついた。


「滝。お前こそ気を付けなよ。」


滝の後ろ死角からの切り込みを手裏剣ではじく。

キィン キィン

響く金属音をものともせず迫りくる敵の集をはじき返す。

黒い多くの影。

でもそれにおびえることなどなく。

(今日は久しぶりにみんなと会って、ほのぼのとした日々を過ごすはずだったというのに。)


キイン


ひときわ激しい金属音にはっとなり急いで音の発信源を見ればはじかれた刃に女性に迫る多くの刃。

守らなくてはと動こうとした体。


でも


編目笠の下おびえるような彼女の瞳を見た瞬間、心配は杞憂に代わった。


キン


今までの中でもっとも鋭いその音は、女性が発したもの。



「残念だったな。こちらはおとり、だ。」


編目笠を脱いだ女性はさらりその自慢の髪を揺らす。

その目は鋭く一遍の恐れすら感じてはいない。

彼女が笠を脱いだ瞬間敵の男たちの気配が怒りあふれたものに代わって。

「お前ら!もう一方を追え!」

頭の男が周りの者たちに合図を送る。

だがそれにこたえ走っていく男たちは進みだしたそばからどさりどさりと倒れていく。


「私たちにかなうとでも?」


ふらり一瞬ののちその場所に立っていたのは紺の髪を持つ獣のような男だけ。

男がそう声を発した瞬間、全ての刃は敵の男へと向かっていて。


「どうせ向こうの方が護衛が少ないとか姿がみすぼらしいとか思ったのだろう。」

以前と変わらぬその美しさで仙蔵は述べる。

「姫様の護衛のはずの私がこちらにいたからこっちに来たんだろ?同じ顔が二人いるとも思わずに。」

千の顔を持つといわれた男はあの頃のままの顔で嗤う。

「ごめんね〜。確かに僕姫様の髪結いだけど___忍務だってこなせるんだ。」

以前よりも強くたくましくなった彼は微笑み、言葉を発する。

「私たちの力、思い知ったろう?まだまだ本気じゃないけどな。」

暴君と呼ばれたその人は、以前よりもずっと大人びた表情で

「まったく・・・先輩方と一緒にいては私の気が休まる時がありません。」

戦輪使いと名高いそのものはさらにました美貌で苦笑を洩らす。




「私たちが相手であったことを、あの世で悔いるといい。」




最後の言葉は仙蔵が、美しく姫のごとく微笑んで。

男は最悪な人たちを相手にしたのだった。





「久しぶりだねえ、ちゃん。」

年上の同級生はほやりと笑ってに飛びついてきた。

「お久しぶりです、タカ丸さん、滝、立花先輩、七松先輩、三郎先輩。」

変わった皆のその姿に月日の長さを感じて。

でも

「ああ。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」

「ふむ。以前より多少は落ち着きが出てきたようだな。」

「そうか?はあまり変わってないように見えるぞ?」

「でも、ま、再び会えてよかったよ。」


変わらぬ物言いに絆の強さを感じた。

「本当はおとなしく会いに来る予定だったんだがな、急遽任務が入ってな。」

滝がため息をつきながらそう言った。


話を聞けばもともとタカ丸と小平太、滝、さらには三之助がつかえていた城の姫が嫁ぐことになったらしい。
だがその姫が嫁ぐことをよしと思わない国があり、それが先ほどの男たちを放ったのだ。
彼の城に姫が向かうのにおとりを使い二手に分かれることになった。
たまたまその城に臨時で雇われていた三郎と雷蔵、城下に来ていた仙蔵。
そしてこれ又不思議なことに姫の嫁ぎ先の城につかえていた文次郎に三木エ門。
そうして本当の姫様がわについたのは三之助に雷蔵、文次郎に三木エ門だったのだ。
こちらだという信憑性を持たせるために髪結いとして姫につかえていたタカ丸もこちらに着いたのだった。



「大変お待たせいたしましたね、ご注文の品でございます。」


先ほどの注文から大分時間がたったかのように思えるがそうでもなかったようで。

差し出されたお茶は人数分。

さらには注文していないはずの団子までついている。

なんだかそれに笑いが漏れて懐かしい彼に、声をかけたくなって。

「ありがとうございます、勘ちゃん先輩。」

懐かしい名を呼べば、彼は黒髪を揺らしにこり、あの頃のように笑う。

「いいえ、どういたしまして。お久しぶりです、先輩方も。」



懐かしい先輩たち、同級生。


嬉しいそれらなのに、どこか物足りないのは___







ざわり



店の中に入っていく先輩方の後をついていけば、一瞬、感じた殺気。

はっとしてそちらを向けば目の前に迫っていた刃。

先ほど虫の息であったはずの男が投げたそれは執念からかものすごい速さで一番傍にいたに牙をむいた。

(っ、間に合わない、)

咄嗟に命を守るため利き腕ではないほうを差し出す。

!」

先に進んでいた滝が、の名を呼ぶ。



でも、それはを傷つけることはなかった。



ふわり

不自然に凪いだ風

ふわり巻き起こる風。

揺られる髪。

その持ち主は微かな金属音をはじかせての前にそっと着地した。

流れる銀色はそのままに

少し伸びた髪

背は大きくなっていて

背中を向けるその姿は凛々しく逞しく

あのころとは違う黒を身にまといながらも

まとう雰囲気はなんら変わりなく

刃を放った男に三郎先輩が向かうのを目の端で見ながら、目の前の人物が振り向くのを見ていた。



「ねえ、。私成長したでしょ?」



無表情でそんなことをいうものだから、なんだか体の力が抜けて。


「きはちろう」


名前を呼べばことり、傾げられる首。


「久しぶり、だね。」


こくり一つうなずきが落とされる。


「ねえ、


あの頃より少し低くなった声は優しく耳になじんで。



「あの時の約束覚えてる?」



尋ねられたそれ。

脳裏に浮かぶのは卒業間近のあの記憶。

忘れるはずのない、約束。



   約束?

   うん。そう約束。

   ___いいよ。どんな約束?

   ・・・私たちが次に会った時には___

 


「忘れるはず、ない、だろ、」


その言葉に眩しげにゆがめられる瞳。


「俺は一度だってあの約束を忘れたことなんかない。」


一歩、喜八郎が近づく。


「俺は一度だって、喜八郎を思い出さなかったときはないよ。」


それに喜八郎はとてもとても満足そうに微笑んで。


「なら、。」


近づいていく距離。


「いま、約束を果たそ?」


一歩、また一歩。


「これから、ずっと、」


目の前に端正な顔。

その距離は、零。


「そばにいて。」


その言葉に、は笑ってうなずいた。









   ねえ。一つ、約束をかわそう?

   約束?

   うん。そう約束。

   ___いいよ。どんな約束?

   ・・・私たちが次に会った時には


     自分のことを認められるくらいに強くなっていよう。

             そして、そうなれれば、一緒になろう。

                      これから先ずっと一緒にいよう。









温かい腕の中久しぶりのぬくもりに溢れる涙が止まらなかった。







約束












滝:あいつら、恥ずかしげもなく・・・。

こへ:まあ、いいじゃないか滝!卒業してからずっと我慢していたんだろう?

タカ:幸せそうだからいいじゃない、滝夜叉丸。

仙:喜八郎のやつ、久しぶりにあったというのに先輩である私に何も言ってこないとは・・・

三:それを言うならもですよ。・・・でも、会えることは確かではなかったのに、よく離れたなあ。とは思いますね。

勘:それだけお互いを信じてたんでしょう?。

三:大切な後輩たちだ。・・・どうか幸せになれればと願うよ。















・・・なんでこんな文章になったんだろう。
それは私がとても素敵なリクエストに舞いあがったからです。
補足といたしましては、会おうと約束したその日に入った忍務。
でも会いたいということでそれならばその場所に行こうじゃないかということです。
以前より手紙といいますか、何らかの通信手段で連絡は取り合ってました。
そして久しぶりに会おうじゃないか!という感じですね。ちなみに卒業してから2年後くらいです。
と喜八郎は学園にいるときは恋仲です。
ですが卒業してすぐに一緒になるには色々不自由があったりして。
ならばお互いに一人前といえるようになったら一緒になろう。
と、いうことで一度卒業して別々に生きていきます。
そして再開・・・という感じです。

勘ちゃんはお団子屋さんなわけではなくて、今回情報収集で団子屋として潜伏してました。
三郎、雷蔵は双忍として動いています。
こへ率いる体育委員はなんだか意図せず同じ城に努めることに。
もんじのところもたまたま三木と同じ城だった。という感じです。
タカ丸さんは髪結師兼忍者です。
両方の腕を見込まれて、様々なところで活躍中。
仙蔵はフリーで活躍中。
ちょっと仕事がひと段落ついて次は何をしようかなと思ってたときに三郎あたりと会ってならば私も参加させろ。
という状態。
喜八郎はどっかの専属忍者かなあ・・・。

と、まあ、個人的、楽観的希望だったり。
考え出すときりがない未来設定ですね。
大変楽しかったです。
紅和さま、素敵なリクエストありがとうございます!
喜八郎落ち、卒業後、こんな感じでいかがでしょうか?
返品は随時承っております!


これからもよろしくお願いいたします。


煌 那蔵