一周年リクエスト



凛さま





















体中がひりひりする。

土とか葉っぱとかで汚れがひどい。

それもこれも全部、そう全部あいつのせいだ!!



「っ、綾部喜八郎〜〜!!!」



すぱん


「ん?どうした、。」

「仙蔵!失礼するわよ!」


開けたのは友人である仙蔵が委員長を務める作法委員室。

でも用事があるのは仙蔵にではなくて。

ずんずんと奥に進めばふるり、こちらを見る紫。


「おやまあ、先輩どうしたんです?そんなに泥だらけで。」

「こっの、白々しい!綾部喜八郎!!」


ことり、首をかしげておっきなまんまるい眼でこちらを見つめてきた。

銀色の髪がふわり揺れる様は女である私が嫉妬するくらい綺麗だ。

いまの私とは対照的に。

そう、私はこの綾部喜八郎の掘った穴に先ほど落ちてきたばかりである。


「あんたが作った落とし穴にまた落ちたんだけど!?」

「落とし穴じゃありませ〜ん。蛸壷のた〜ちゃんです。」

平然とした顔でそんなことを言う綾部喜八郎は、悪びれたところなど一つもなくて。

「そんなことどうでもいい!とりあえず、いたるところに穴を掘るのをやめなさい!」

本来の要件であるそれを述べれば、ほとほとと何も考えていないような顔で綾部喜八郎は答える。

「落ちる先輩が悪いんですよ。」

「う、」

もっともな言葉に言葉がつまる。

思わず俯いてしまえば突き刺さる視線。

きっとあの無表情でじっとこちらを見続けているのだろう。

それを思うとふつりふつり、怒りが溢れてきて。

「っ、確かに、確かに二つも下の忍たまの罠に何度も引っ掛かる私も私よ・・・!でも、でもねえっ、」

きっとその綺麗な顔を睨んで告げる。

「なんでくの一長屋の私の部屋の前にまであんたが作った蛸壷があるのよ!?」

毎日毎日、あきもせず、その場所にある穴は日に日に数を増して。

「なんで私が行くところいくところに仕掛けてあるのよ!」

目的地に無事に着けたためしがないくらいに穴の数は多くて。

「私が掘った蛸壷じゃないかもしれないじゃないですか。」

じっと聞いていたかと思えばそんな言葉。

「あんた以外考えられない!」

あんなにも綺麗な蛸壷を掘れる人なんか限られてくる。

しかも、毎日毎日見ているのだ。

見間違えることなんか、ない。


「あんたの蛸壷見すぎて、他の人が掘ったのと大層違いがよくわかるのよ!」


それに一瞬きょとんした綾部喜八郎はその後普段では決して見られない顔を浮かべた。

ふわあり

一瞬本当に一瞬、微笑んだのだ。

「っ、」

それは見間違いかと思うほどの刹那。

「なら、もっとたくさん掘っておきます。」

元の無表情で、綾部喜八郎はそうのたまった。

「っ、・・・・」

ふつりふつり、湧き上がる何か。

よくわからない感情。

怒りとも、なんだか違うそれ。

でも、その感情の意味が全く分からなくて。


「そんなに私のことが嫌い?!」


思い切り言い放った言葉。

そうすれば綾部喜八郎はこてん再び首をかしげて。


「一度も嫌いなんて言ったことはありません」


まっすぐに見つめてくるその目はなぜかそらすことができないほど強い。

ふわり揺れる銀色は、周りの色をぼかす。


「っ、じゃあなんでっ、」

続けようとした言葉は遮られる。

綾部喜八郎本人の手によって。

「なんでだと思いますか?」

すごく近い綾部喜八郎の顔。

無表情ながらに整った顔。

その瞳には 私 が映る。

「自分で考えてみてください。」

私の口元に、まるで秘め事を話すかのように人差し指を立てて。

「ああ、でも___」

するり、その指で私の唇をするりと撫でて。



「私のこと名前で呼んだら教えてあげないこともないですよ」



妖艶なる笑みは、私の思考回路を爆発させるには十分で、全力でその場所から逃げ出したのは、当然のことだと思いたい。









(なんで顔が赤い、なんだこの動悸の速さ、なんであの笑顔が頭から離れないー!!)


(さてと、また蛸壷たくさん掘らないと。先輩が落ちてくれるなら。)












 愛情表現    













「・・・行っちゃった。」

「喜八郎。私たちがいること忘れているだろう。」

その声に振り向けばため息をついている立花先輩。

その後ろの藤内たちは何処となく赤い顔で、手に持った首をいじっていて。

「あまりいじめると、嫌われるぞ。」

苦笑を交えてのその言葉に、こてん首をかしげて言う。

「いじめてなど、いませんよ。私なりの最大限の愛情表現です。」

愛しい愛しい、あの人に。

私ができる精一杯の伝え方。

「罠にかかってくれれば、会いに来てくれますから。」

学年も、校舎も違う私たち。

会うのならばこんな方法しかできない。

「ああそう言えば、先輩。」

先ほど部屋に入ってきた先輩の第一声はたしか___

「仙蔵と、呼ばれるのはずるいと思います。」

綺麗な表情を浮かべている立花先輩に、とりあえず思っていたことを告げておいた。



















喜八郎の罠に落ちているのは実は無意識。
落ちれば会いに行く口実ができるとか心の底で思ってます。
喜八郎が笑ったのは自分の大好きなもの(蛸壷)が大好きな人になんだか理解してもらえた気がしたからです。
ちなみに思っていてもその理由はわかっていないくのたまヒロインちゃんでございます。

さまリクエスト、こんなのでよろしかったでしょうか??
楽しかったです。喜八郎を描くのが。
さまのみお持ち帰りおけです。
もちろん返品だってばっちこいですよ!



煌 那蔵