一周年リクエスト
璃桜さま
仙蔵さま
仙蔵さま
心の底からあなた様をお慕いしているのです。
「ここが、仙蔵さまの通っていらっしゃる学園なのですね」
『忍術学園』
そう書かれた大きな門の前にはいた。
長期休暇にしか返ってこない婚約者である仙蔵に届けものがあり来たのである。
「ごめんください」
その声に帰ってきた優しい声に胸をどきどきとさせながら門が開くのを待った。
学園に入れば色とりどりの装束を着た人たちが興味深そうにこちらを見てきていて。
それに笑えば小さな子たちは笑い返してくれた。
「さんは誰に会いに来たんですか?」
にこやかに笑って問いかけてきたのは事務員さんの小松田さんという方。
「6年の立花仙蔵さまに会いに来たのです。」
「そうなんだぁ」
ふにゃり笑う顔になんだか癒されて、仙蔵さまに会いたい気持ちが高まる。
「あ、あそこにいるよ、仙蔵君・・・はいないけど他の6年生たちが。」
指差された先、見れば5つの深緑。
その中の一人紺の髪を持った人がこちらに気づき首をかしげる。
「あの方たちに聞いてきます。」
仙蔵さまがどちらにいらっしゃるかを、そう言えばにこり笑って彼はうなずいた。
「じゃあ僕は仕事に戻るね」
「はいありがとうございました。」
お辞儀を返して深緑に近づいていけば案の定というのか紺の人がとても明るい笑顔で笑って話しかけてきて。
「私たちに用事か?」
「はい、私はと申します。立花仙蔵さまに会いに来たのですが、仙蔵さまはどちらにいらっしゃいますでしょうか?」
自己紹介と共に礼をしてその明るい笑顔を見つめて聞く。
そうすればほかの深緑たちもそれぞれ声をかけてきて。
「仙蔵なら今先生に呼ばれてここにいない。」
「たぶんもう少ししたら戻ってくると思うよ?」
目つきが鋭い黒髪さんとふわり笑顔が柔らかい茶色い髪の二人がそう教えてくれて。
ありがとうございます、そう答える。
「仙ちゃんの友人?」
興味深そうに紺色が聞いてきて。
「え、と私は・・・仙蔵さまの、婚約者、です。」
かあと顔が赤くなるのを感じる。
でもそれを隠すように俯けば驚きの声が上がって。
「仙蔵に婚約者?!」
「そんなのがいたんだな。」
笑顔のお兄さんと隈が濃い人それぞれがそう言って。
「なあ仙蔵ってどんな感じなんだ?」
その言葉に思い浮かべるのは仙蔵さまの姿。
私なんかよりもずっとずっと美しい黒髪。
麗しいといえるほどの瞳。
すらりとしたたたずまいは見る者すべての心に感嘆を与える。
「とても、とても素晴らしい方です。」
心の底から思ったそれに一瞬驚きの表情を浮かべる方々。
「さんは仙ちゃんのことが大好きなんだな!」
にっかり太陽のような笑みを浮かべた彼の言葉に恥ずかしいとは思いながらも全力でうなずいた。
「・・・仙蔵が戻ってきたぞ。」
今まで何も話さなかった顔に傷を負った人がそう言ったのに慌ててそちらを見る。
すらりとしたきれいな姿勢。
珍しく驚きに開かれたその瞳。
さらり風に揺られてその黒髪が瞬く。
ぱあ、と嬉しさがこみ上げる。
「仙蔵さま!」
その姿が嬉しくて嬉しくて近づいてきた彼の名を呼ぶ。
「・・・か?」
彼らしくない驚きの声。
でもそんなの気にならない。
浮かぶ笑顔はそのままに深く頭を下げて言葉を発する。
「お久しぶりです仙蔵さま。」
声が、
姿が、
全てが、彼を表すそれら全部が愛しいと思った。
「、なぜここにいる」
頭をあげるように言われそうすれば、言い放たれた鋭い言葉。
びくり震える体をそのままに仙蔵さまはさらに言葉をつづけて。
「なぜ、ここに来たのかと聞いている。」
その瞳は冷たく私を見つめていて。
「あ、せん、ぞうさま、にお届けものがあったのです・・・」
ごそりごそり持っていた荷物から仙蔵さまに渡すものを取り出して渡せばそれをすぐさま受け取って、そして言った。
「ならばもう用事は終わったのだろう。
帰れ 。 」
その言葉はきつく胸に響いて。
「勝手にきてしまって、申し訳ありません。はい。このまま失礼させていただきます。仙蔵さまにお会いできてよかったです。」
仙蔵さまに嫌われるのだけは、嫌だから。
できるだけ笑顔を浮かべて告げる。
「仙ちゃん!せっかく来てくれたのにそんな言い方はないんじゃないか?」
紺色の方が仙蔵さまにそう言って。
「そうだよ、仙蔵。そんな風に言うのはよくないよ。」
「いつものお前らしくないぞ仙蔵。」
茶色のふわふわした髪の人が言えばその横にいた目つきの鋭い人がかばうようにして話してくれる。
けれどもそれらの言葉に耳を傾けることなどなく、仙蔵さまは私に向かって
「、私の言葉が聞けないのか。帰れ、そういったんだが?」
彼の瞳にはいつものようなあったかさはなく。
「おい!仙蔵!」
隈のすごい人が仙蔵さまの肩をつかむ。
それに止めてくださいといそうになったけれども、ここは彼らの領域で私が口を出していい場所ではなくて。
「皆さん短い間でしたがお世話になりました。失礼いたします。」
仙蔵さまの言葉を実行するために、皆様にお礼を述べれば焦ったように声がかけられた。
「今から帰ったら、結構な時間になっちゃうと思うよ?」
「この学園で一晩過ごして言った方がいいんじゃないか?」
皆さんの優しい言葉。
嬉しかったけれど私には仙蔵さまが一番だから。
「大丈夫です。心配してくださってありがとうございます。仙蔵さま、お体大事にしてください。」
最後にもう一つお辞儀をしてくるり門へと足を向ける。
早くいかないと涙がこぼれそうだから。
でも、それは温かい腕に阻まれて。
「仙ちゃん、さんを一人で返すのか?こんな時間に?」
腕をつかんだ彼がそう言えば隈の人が仙蔵さまに向かって念を押すようにして口を開いた。
「今夜はここで一晩過ごすべきだ。そうだろう仙蔵。」
強い言葉。
「勝手にしろ。」
それにふいと顔をそらして仙蔵さまはそう言って去って行った。
ほとりこぼれそうななる涙を堪えるので精一杯だった。
「それでは失礼します。」
先生からの呼び出しも終わり、皆のもとへと向かっていた。
その中にいた一つの小柄な影に、まさか、という思いが生まれた。
近づくたび鮮明になる姿に、なぜここに?という想いよりも、どうしようもない愛しさがこみ上げる。
「仙蔵さま!」
私を呼ぶその声が彼女がここにいるという確証に代わり、今すぐ駆け寄ってその小さな体をこの腕の中に抱きしめてその耳に私の存在を焼き付けたいと、そう思った。
駆けよりそうになる体を押しとどめてあえて冷たい言葉を選んで告げる。
長期休暇にしか会えない彼女に会えたことはとてもうれしい。
だが、場所が問題だ。
ここは忍術学園で、この場所には多くの男が存在して。
それは、つまり彼女を見る者が増えるということで。
それはとても、好ましくはない。
私が告げた言葉に体を震わせる姿に悲しげに伏せるその瞳に、生まれる罪悪感。
でも、そんな姿さえもいとおしいと思わせて。
同時にそんな姿を他の人に、自分という存在以外に見せることがとてつもなく嫌に感じて。
庇われる彼女に言いようもない感情が溢れた。
友人たちにも見せたくないほどに大切な彼女を、この手で守りたいと思っているのに、
言いたくもない言葉を吐いて、彼女をここから遠ざけようとしたのに、
不器用な自分に嫌気がさす。
大切に大切にしてどろどろに甘やかせて、そうして私の腕の中から一歩も離れられないようにしてしまいたいのに、嫌われることが怖くてできない。
それどころかひどい言葉しか口にできず、守るはずの彼女を傷つけてしまう。
そうしてむしゃくしゃしたままで夜を迎えて。
彼女はこの場所で一泊して明日の朝に帰ることになった。
それまでにきちんと話をしようと思っていたのに、それすらうまくいかなくて。
ため息をつき、自らの部屋に入ればそのこはなぜか三つ指を突いて座っている彼女。
「・・・は?」
つぶやけば彼女はそっと閉じていた目を開いた。
その目は少し潤んでいて、上目づかいのそれに心臓が大きく音を立てた。
「仙蔵さま・・・」
か細い声はその体同様震えていて。
思わずその体を引き寄せて掻き抱いた。
ぐっと力を入れて抱きしめれば微かに止まる息。
何か言おうとしたのが気配でわかったからそれを遮るように言葉を放つ。
「すまなかった、ひどい、言葉を言った。」
ひゅうと息が耳元で吸われて。
不規則になる呼吸音に、震えの止まらぬその体に心の底からすまないと思った。
「来てくれて、嬉しかった。お前に会えて、嬉しかった。」
子供のような言葉しか出てこなくて、でも必死で伝えたくて
拙い言葉をつないでつないで、そうして伝える。
お前が大切で大切で仕方がないんだ。
お前のことを誰にも見せたくないと思うのだ。
お前をこの腕の中とじ込めて何処にもやりたくなどないのだ。
だからどこにも行かないでくれ。
抱きしめるというよりも、すがりつくようなそれに彼女はずっと答えてくれて。
「仙蔵さま、本当はお届けものがあったというのは口実でどうしても、どうしても仙蔵さまにお会いしたかったのです。」
「いくら忍者の学園と言っても女性の方はいらっしゃるものでしょう?私なんかかなわない方ばかりなのでしょう?」
「私が仙蔵さまの中から消えてしまったらどうしようって、そう、思ったらっ、怖くて怖くて不安でっ!」
すまない、私が不安にさせていたのだな。
だがそんなかわいらしい言葉言われてしまえば私の理性が持たないというのに。
「私はお前以外をほしいとは思わない。」
「頼むから、私以外の男に笑うな、話しかけるな、お前には私がいればいい。そうだろ?」
それらは心の底からの思い。
でも、そんな言葉では足りないくらいお前が愛しい。
ああもうどうしてくれようか。
こんなにも可愛くて、愛しくて、離れがたい存在。
どうすればこの言葉が伝わる?
どうすればこの想いは伝わる?
成績優秀冷静沈着。
そんなことを言われる私など、彼女の前ではまったくもって意味をなさない。
その体をさらに強く抱きしめて、愛しさをこめて、たった一言彼女に告げた。
「愛している。。」
私も、あなたのことを愛してます。
帰ってきたその言葉に、さらに腕の力を強めた。
甘く甘く
※※※
三つ指ついてたのは文次郎の助言だったり。
仙様婚約者のお話でした。
不器用だけどドロドロに甘い仙様。
学園でほかのみんなに興味をもたれないようにとあえて冷たく当たる仙様の方を書かせていただきました。
璃桜さま、こんなのでよろしかったでしょうか??
とっても楽しかったです。
どろどろに甘やかすのが。
仙様の心境を書くのが。
こんなのでよろしかったら璃桜さまのみお持ち帰りください。
もちろん返品も受け付けておりますよ。
煌 那蔵