一周年リクエスト



紗和さまへ












「あれ雅?」

食堂の裏。近道をするために通ればそこには困ったように手のひらを見つめる女の子。

この学園に来て一月ほど。

とても優しくてかわいらしい彼女に絆されるものは少なくなく。

かくいうもその一人であった。

といっても、にとってみれば彼女に対して懐かしいという感情が多々だが。

ちゃん。」

よんだ声に振り返りふわり微笑むその笑みは疲れたこころとからだを癒すには最適の薬。

ふにゃりそれに微笑み返して彼女に近づく。

「どうかしたのか?」

「う〜ん、ちょっと、ね。」

彼女が見てた手のひらを見ればそこには黒いゴム。
この世界ではいわゆる髪紐というやつで。

よくよく見れば円形の輪っかのはずのそれは一か所が切れてゴムの役割を果たせないようになっている。

「切れたのか。」

聞けばこくり頷く彼女。

「私紐じゃあまりきちんとくくれなくて、このゴムを重宝してたんだけど・・・」

そう言って少し悲しげに話す姿はなんとも哀愁を漂わせていて。


胸がきゅんとした。

「雅、後ろ、向いて?」

の言葉にきょとりとした彼女だったがおとなしくの指示に従って。

するり

は自らがつけていた髪紐をほどき雅の髪に触れる。

「え、え?ちゃん??」

さらり長い髪を後ろで一つにくくって、蒼い髪紐をてっぺんで結ぶ。

「はい、できた。」

一度頭を軽く撫でてやればその個所を抑えながら振り向く彼女。

「それ、あげるよ。」

頑張って練習して結べるようになろう?

そういえば彼女は満面の笑みを浮かべに飛びついた。

「っ、ありがと!ちゃん!」

その温かな体をぎゅうと抱きしめ返していれば背中に走る衝撃。

微かに目の端に移った銀色に一つため息。

「どした、喜八郎。」

問えばその人物はもぞり体を微かに動かしてをちらりと見る喜八郎。

「・・・ずるい」

彼はポツリその言葉を吐いた。

「・・・へ?」

その真意を測りかねていれば新たな気配。

に雅。それに喜八郎。何してるんだ?」

現れた仙蔵が不思議そうに首をかしげる。

「立花先輩、喜八郎、とってください、重いです。」

が切実な希望を述べれば彼は苦笑しながらも喜八郎をから離して。

はがされた喜八郎は無表情ながらもどこかむっとした表情。

「・・・ずるい。」

再び述べたそれにの中でその理由が判明した。

「え、わ!」

「いいだろ、うらやましかろう。」

抱きついていた雅をさらにぎゅうと抱きしめて喜八郎に見せつけてやる。

そうすれば喜八郎の眼はさらに鋭くなって。

その横では何があったのか仙蔵が肩を震わせて顔をそむけて笑っている。

「喜八郎にはわたさないからな。」

告げればぷいとそっぽを向かれた。

(雅を取られたからってすねてる。かっわいいなあ。)

は喜八郎のそんな姿ににっこにこである。

「いいなあ。」

そんな言葉をつぶやいて現れたのは蒼色装束。

じーっとと雅を見ていたかと思ったら一瞬でその顔を変化させた。

「ほらほら!」

そう言ってそのまま両腕を大きく広げて待つ彼。

その顔はなぜか雅の顔で。


「え、なんで雅の顔なんですか。三郎先輩」


彼女と同じ顔をしているというのにその笑みが企んでいるようにしか見えないのは彼だからであろう。

ちなみにまだ仙蔵は笑い続けている。

しかも先ほどよりも悪化してしゃがみこんでいる。

喜八郎は仙蔵の手が離れたと同時に再びこちらに寄ってきて。

そしてに抱きつこうとした。

「・・・しかたないなあ。」

そんな喜八郎を見ては苦笑し体を反転。

「きゃ、」

そうすれば喜八郎の腕の中には雅が収まって。

「これでいいだろう?喜八郎。」

満足げなに対して不満げな喜八郎がそこにいた。


ちなみに仙蔵はとまらぬ笑いに体を震わせ、

無視されたはずの三郎は喜八郎と、雅を生温かく見守っていた。


「あれ〜先輩方こんなとこで何してるんっすか。」

きょとり新たに現れたのは黄緑色。

ひょこりと現れたと思えば開いていたの腕にしがみつく。

「ちょ、三之助、重い。」

ぐえ、と三之助の体重に蛙が潰れるような声を出しては訴えた。

「雅に抱きつけ、俺に抱きつくな、いま離れるから!」

大声でいえばさらにきょとりとした顔の三之助が目に入って。

「え、何言ってるんっすか。俺が抱きつきたいのは__」

その言葉はの耳に伝わることなく。

離れたぬくもりの代わりに三之助には困ったような雅、ぎんとした目をしている喜八郎。

そしていまだに大爆笑を続ける仙蔵の笑い声が与えられた。






ちなみに雅から離れたはほっとしたように三郎のそばに立っていて、

「雅、可愛いから人気者ですねえ。」

というような会話をつづけていたのであった。











知らぬは本人ばかりなり





















紗和さま、リクエストありがとうございました!
仲が良い雅と
それに嫉妬する数人とのことでした!
とても素敵なリクエストだったのですが、なぜかこんなことに・・・
しかも無意識・・・?みたいに・・・くっ・・・
紗和さまのみお持ち帰りokです。
返品を言ってくだされば書き直しますですよ!

煌 那蔵