一周年リクエスト
シアンさま
「なあ、三之助。」
「なんですか、先輩。」
広い広い空が一番よく見える屋根の上。
三之助と共にそこで座って空を見上げていた。
ふいに思ったことをぽつり口に出せば返事が返ってくるそれにそっと安心する。
「この世界はとてもきれいだと思うんだ。」
さわり流れた風に、空で瞬く小鳥たちに、微かに聞こえる後輩たちの声に。
柔らかな時間が流れる今この時は、とても、とてもきれいだと思えて。
あの世界なんかよりもずっとずっと。
たとえ、生きるために人を手に掛けるこの世界であろうと。
たとえ、いずれ戦いの中に身を置くこの身であろうと。
精一杯、生き抜こうとするこの世界の人たちはとても綺麗で、眩しい。
それはこの世界に来なければ気づかなかったことで、
あの世界を離れたからこそ知れたことで。
手を、空に向かって掲げる。
あまり強くない太陽の光が手の輪郭をぼやけさせる。
そのままの状態でさらに手を、空に近づけるようにして、伸ばす。
「、先輩、」
ぱしり
その手は、温かなの手よりも一回りもふたまわりも大きな手に掴まれて。
「三之助?」
掴まれた手をそのままに、そちらを見ればの手を握ったまま微かに俯いた三之助の姿。
「どうした?」
その顔を覗き込もうとすればふるり、顔が横に振られて。
そっと頭に握られていない方の手を乗せればびくりと震えた肩。
「どうした、三之助。」
先ほどと同じ言葉を、同じ声色で発する。
そうすればようやっと三之助は顔をあげて。
「先輩が、消えるような気がして」
一言一言区切るような言葉は
「ここから消えてしまうような気がして」
微かに震えを帯びていて
「だから、掴まないとと思って」
ぐっと強くなる掴む腕の力は
「俺がこの場所に縛り付けなきゃと思って」
まるで縋りつくよう
「先輩」
ゆっくりと紡がれる言葉は優しく響く。
「先輩」
震える声は彼の恐れをそのまま表していて。
「先輩」
俺はそれに全力で答えなくてはならない。
「だいじょうぶ。」
三之助を安心させるように
「俺は消えない。」
その言葉は強く
「この場所から、三之助のそばから。」
掴む腕の力と反比例するように
「信じて。」
その声は優しく
私がこの箱庭から羽ばたくまでは絶対に、そばに居続けるから。
三之助がそっと掴んでいない方の手での頬に手をあてた。
ふわり風によって微かに冷えていた頬がぬくもりに包まれる。
その温かさに頬を擦り付ける。
「先輩。」
先ほどのように震えてはいない声。
「俺は、まだ先輩よりも弱い。」
ゆっくりと確実に大きく成長する彼の証。
「けど、絶対に先輩を追い越すから。」
視線はまっすぐにを見つめていて。
「先輩を守れるようになるから」
先ほどまでのよわよわしさはそこにはなく
「俺を待っててください。」
微かに笑む顔は
「一年、先輩が卒業して、俺が追いつくまでの一年。」
笑う表情は
「絶対に俺を忘れないでください。」
あまりにも大人びていて
「俺が卒業したら先輩のこと探しに行きますから。」
艶やかだった。
「俺をいつでも思ってろ、。」
ぐいと引き寄せられた腕の中。
耳元でささやかれたその言葉に体が沸騰するように熱くなる。
頭を胸に抑えつけられれば三之助の鼓動が微かに早いのを感じて、
紅くなった顔が、その音によって癒されていく。
心地よい心音に、ぬくもりに、火照った顔を必死で押さえて。
腕の中から彼に言う。
「俺は三之助に守られるだけの存在にはならないよ。」
顔は上げずに
「三之助の足手まといになんかならない。」
三之助に伝えたいことを
「なあ、三之助」
一つ一つ確実に心に刻むように
「俺たちは一緒に生きていくんだ。」
「そうだろう?」
より強まった腕の力にただただ身を預けて、自身も彼の背中に腕をまわして力を込めて抱きしめた。
この想いが、溢れる想いが少しでも目の前の彼に届きますようにと。
守るために強くなる
恋愛夢。
宵闇主。
で、三之助を書かせていただきました。
成長でも、いつもの年でもどっちでもいいかなあとか思ってます。
一つの年の差は大きいけど、思う力は同じなのです。
共に行きたいと願う三之助はを守れるほどになりたいのだけど、は守られるだけは嫌なのです。
なんともおかしな関係ですが、この二人はこんな感じです。
シアンさま、勝手にお相手などを決めてしまったのですが、これでよろしかったでしょうか?
大変楽しく書かせていただきました。
返品も受け付けておりますですよ!
これからもよろしくお願いいたします。
煌 那蔵