じゅんこさん。また脱走ですか?

生物委員へ向かっていればなぜか出会った毒々しいまでに美しい赤。

それはするりするり音もなく近づいてきて。

差し出した手にそっと擦り寄るその姿に笑みが漏れた。

「さて、ご主人様のところに向かうか?」

聞けば同意するようにちろり赤い舌を見せた。


「竹谷せんぱーい。」

生物委員の飼育小屋。

そこでは委員が皆虫取り網と虫籠をもって動き回っていた。

「お、か!」

「また脱走ですか?」

近づいていけば苦笑しているのが目に見えて。

「じゅんこー!」

不意に聞こえてきた声。
それにふわり笑ってその声の主を読んでやる。

「孫兵。」

を目にして泣き出しそうだった顔は一転ぱあっと明るくなった。

「じゅんこ!」

すごい勢いで迫ってきた彼はその勢いのままに抱きついてきて。

「わ」

さすがに3年生の彼を受けとめるのはむつかしくて後ろにいた八左衛門に支えられる。


前には半泣きの孫兵。

後ろには苦笑している八左衛門。

なんとも不思議な光景だ。


「どうしたんですかぁ?」

八左衛門の後ろから水色がにょきりにょきりあらわれて。

を目にしてわあわあと騒ぎだした。

水色の頭を撫でてやっていれば、ようやっと孫兵が離れて。

「ありがとうございます!」

彼の満面の笑みは大変貴重で麗しい。

「先輩。よかったら皆で食べてください。俺からの感謝の気持ち、です。」

ふにゃり、笑みを浮かべ包みを渡せばお礼の笑みが返された。

「先輩!ありがとうございます!」

にぱにぱ一年生の笑み。

「じゅんこさんには、こっち。」

もう一つ小さな包みを取り出して孫兵に渡してやる。

それに驚いた孫兵は幾度となくの顔と包みを交互に見やって、そして本当に嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!先輩大好きですっ!」

そんな満面の笑みでそんなことを言われたらドキドキするじゃないか。

心拍数の上がった心臓を抑えながら笑った。