小説
その色は紅
あかい あかい あかい
沈む緋色
燃える赤
流れ落ちる紅
世界がまだ俺に優しかった頃。
そこには母がいて、父がいて。
優しく微笑んで俺の帰りを待っててくれてた。
それを奪ったのは
い く さ
それは一瞬で全てを奪い。
それは一瞬で全てを飲み込み。
それは一瞬で世界を変えた。
優しいそこは消えてなくなり、残ったのは俺という残りかす。
それからはただ生きることに必死で。
生き残ることが先決で。
してはいけないこともいろいろと、した。
何度も死にそうになって、
何度も死にたくなって、
何度も他人を憎んだ。
そんな俺を見つけてくれたのは、不器用で、それでいてとても優しい人だった。
その人が生かしてくれた俺の命を消さないために。
何が何でも生き延びてやるために。
俺は忍びになると決めた。
自分と、その人に誓った。
初めて行った学園
その場所はあたたかかった。
かけがえのない仲間たちが出来て
心許せる人たちに出会えて
なくしたはずの温もりを再び手にした。
虚像のはずのそれらはゆっくりと俺の仲を満たしていって。
この場所で俺は再び人になれた気がした。
けれどもそこはまだ
そのときの俺にはまだ、優しいだけの場所だった。
学年が上がるにつれて消えていく仲間。
増えていく傷。
激しくなる実習。
失くしていくのは
こ こ ろ
実習から帰っても高ぶる感情が抑えきれないこともあって。
その度に 『 お か え り 』 と何度も抱きしめてくれた腕があった。
そのおかげでいつもを思い出すことができて。
ちゃんと人に戻れていた。
− そ う そ の と き は ま だ −
そうして俺は忍になった。
その場所でであった、かけがえのない仲間を守るために。
再び手にしたその温もりを失くさないために。
そうして気がついた。
ああ、俺は
あ の 頃 俺 が 一 番 嫌 い だ っ た も の に
なってしまったのだ、と。
二度と動くことのなくなったその体を視線から外し
俺は手にした刃についていた紅をふりはらった。
見上げた空は暗く月は紅い。
もうここには俺に 『 お か え り 』 と抱きしめてくれる腕はない。
※※※
きり丸のイメージは黒と金。
優しくも強く。
−優しいからこそ強い。
恐ろしくも尊い。
−恐ろしいくせにどこか尊くて。
強いくせに弱く。
−強がってはいてもやっぱり弱くて。
きり丸を優しく抱きしめてくれるのは土井先生です。
彼はきり丸を大事な大事な家族だと思ってて欲しい。
ここにいないのは死んじゃったからとかではなく、きり丸は卒業してからせんせいに一度も会ってないからです。