「___いいかげんに、してください。」

ざわり、静かな静かな声が、その小ささに似合わぬ闘気をまといその部屋に広がる。

「なにがだ。」

書面から顔を上げることなくそれに答える低い声。
その返答に、さらにその部屋の空気は重くなる。

「っ、田村先輩・・・」

それを少しでも緩和させようとしたのか、団蔵の声が小さく落ちる。だが、それにも三木ヱ門は目を向けることはなく。ただ、その燃えるような赤い瞳はたった一人、文次郎に向けられていて。

「団蔵。」

立ち上がり、間にたとうとした団蔵を左吉がつかみ止める。左吉に促されるようにその場に座り込む団蔵。
その間にもぴりりとした空気はどんどん重くなっていって。

「田村、座れ。」

低く低く、命令するかのような言葉。それに今までのすべてが爆発したかのように、三木ヱ門の瞳が色を変えた。

「あなたに命じられるいわれはない。」

その言葉にようやっと目を上げた文次郎。

「なにが言いたい。」

「どうして、どうしてっ、僕はこんなことがしたいためだけにこの学園にいるのではありません!」

細目られた文次郎の瞳を気丈にもニラ見返して三木ヱ門は言葉を続ける。

「いつもいつも、こんな時間まで、こんな場所に拘束されて!」

ぐっ、と三木ヱ門の手のひらが握りしめられた。

「僕は、あなたの所有物ではありませんっ!」

それにすう、と消える文次郎の感情。先ほどまでの三木ヱ門の怒りの空気は相殺され、代わりに部屋を包むのは絶対零度にも近い、殺気。

「だからどうした。この場所にいる限り、お前等は俺のもんだ。」

その言葉に反応したのは三木ヱ門だけではなく、互いに身を寄せあってこの空気に耐えていた左吉と団蔵で。

「そんな、」

「ひどい・・・!」

「僕はあなたのものじゃないっ!」

「だというのに、夜は遅い、朝は早い、人使いは荒い。・・・こんなんじゃお肌の調子も悪くなる一方です!」

「田村先輩、」

とっと左吉と団蔵が三木ヱ門を支えるように寄り添う。

「僕はっ、」





「僕は、アイドルなのにっ!」

うわああ、と顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちる三木ヱ門。それをかばうように前にでたのは団蔵と左吉で。

「潮江先輩、田村先輩に謝ってください。」

「悪いのは、先輩です。」

きっ、と小さな後輩ににらみつけられて、文次郎はしばしうろたえる。しかしながらそれにすくむような男ではない。

「俺は何一つ間違ったことなどしていない!不満があるならば、お前等がでていけ!」

その言葉にばっ、と伏せていた顔を上げた三木ヱ門。その赤い瞳をさらに赤く染めて、綺麗な顔をゆがめて叫んだ。

「っ、実家に帰らせていただきます!」

「まって!お母さん!」

「帰らないで!」

すがりつく団蔵と左吉を引きずりながら、三木ヱ門はふすまへと手をかけた。

瞬間。

「会計委員会室は、どこだっ!!」

すぱんっ、と開かれた襖。
ごんっ、と響いた鈍い音。
開いた先、ぱかりと口を開けたまま、額に手をやりうごうごと痛みでのたうちまわるのは左門。
ぶつけたのであろう、顎を手のひらで覆い、壁に手を当てて、じわじわと襲いくる痛みに必死で耐える姿。

「___(今のは、痛い。)」

「___(うわあ・・・)」

ゆっくりとすがりついていた手を離して、そっと二人から目を離した一年生`S。

「・・・さっさと席に着け、もう少しで終わる。」

文次郎ですら目線をそらしたまま言葉を発した。



深夜のテンション。