小説





授業も終わり、皆が皆各々の時間を過ごしているそんな時。


ふわふわとした不思議な髪を揺らしながら歩く藍色もそんな一人だった。

「んん、いい天気だ。」

ほてほてとしかしながら音を立てることもなくその藍色は学園の中庭を行く。
手にはなぜかいくつもの団子。
もふもふとそれを口に運びながらどこかでゆっくりしようとあたりを見渡した。

と、

「あれ・・・?」

ほてり、足を止めて見つめた先。
そこには水色がふにゃりとへたり込む姿。

「どうしたの?金吾。」

「勘右エ門先輩・・・」

そっと近づきしゃがみこめば見上げてくるまっさらな瞳。
大きなその瞳をかすかにうるりと揺らし、その口調はすでに半泣きだ。「体育委員会のみんなを見ませんでしたかぁぁぁ・・・?!」

へちょりと眉を下げて、なんだかもうこの世の終わりとでもいえそうな悲壮さだ。

「ん〜、ごめん、見てないなあ。」

がくりと落ち込む金吾。
どうしよう、そう小さく洩らされたそれ。
迷子の三之助ではなく、体育委員会のみんなを探しているとはなんだかおかしな感じで。

「どうしたんだ?」

そっと問えばばっ、と見上げてくるその瞳。

「僕が、僕が鬼なんて、無理ですよぉぉぉっ!!」

中庭に金吾の悲壮な声が響き渡った。








「学園内はもう探したんだね。」

ほてほてと金吾の手を引きながら、(ちなみに手に持っていたお団子は金吾の口の中だ。)問う。

「はい。僕が探した限りですが・・・。」しょんもりと落ち込むその姿は不謹慎ながらかわいらしいものだ。
しかしながら勘右エ門の所属する学級委員もなかなかだが体育委員会も毎回不思議なことをするものだなあ。
勘右エ門はそんなことを考えながら先ほど聞いた金吾の言葉を思い出す。



話は委員会開始当初に巻き戻る。

「今日の委員会はかくれんぼだ!!」

突然の暴君の言葉と同時に始まった壮絶なるじゃんけん大会。
金吾の必死な攻防も無駄に終わり、気が付いたとき、負けていたのは金吾であった。
つまり、鬼は金吾。

「じゃ、金吾、日没までに私たちを見つけだしてくれ!」

その言葉が終わるころにはその場所にはもう、暴君の姿はなく、さらには他の委員たちもいなくなっていた。学園の門を抜け、向かった裏山。
緑生い茂るその中に一歩足を踏み入れた瞬間がさりと揺れたすぐそばの茂み。
かすかに体をこわばらせた金吾をそのままに知った気配のもとに一歩足を踏み出す。

「かくれんぼだって、聞いたんだけどなあ?」

覗き込んだ先。
そこにあったのは申し訳なさそうに顔をあげる紫色。
いつもはきれいなその髪も、どことなくよれている。

「滝夜叉丸先輩!」

ぱあ、と先ほどまで落ち込んでいた金吾の顔が明るくなる。
滝夜叉丸は苦笑しながら茂みから姿を現した。

「はあ、まあ、かくれんぼなんですがね。さすがに金吾だけでは心配で来たのですが・・・」

そっと金吾の頭を撫でる。

「尾浜先輩がいてくださったなら安心でしたね。」ふにゃり、金吾の顔が安心したように緩む。
その姿はまるっきりお母さんだ。





「ちょ、まって、くださいっ!!」

「ん?なんだ、四郎兵衛。」

「いや、だから、止まってくださいっ!!」

「だが、こっちに行けば見つからない気がする。」

「お願いですから、とりあえず僕から離れないでくださいいぃぃっ!!」



がさがさと茂みを抜けた先、少し丘のようになったところ。
そこから聞こえた二つの声。
見えたのは黄緑と青。

「・・・かくれんぼ、なんだよな?」

勘右エ門の問いにそっと顔をそらす滝夜叉丸と金吾。
もうどうみても彼らは隠れることを前提としてはいない。
というか、四郎兵衛がどうしようもないくらいかわいそうだ。「四郎兵衛に三之助を話さないでくれと頼んでしまったから・・・」

そっと顔を伏せて哀愁漂わせる滝夜叉丸。
とてとてと金吾が歩みだす。

「三之助先輩、四郎兵衛先輩、見つけました!」

はしりと二人の服をつかんでにぱり、笑う。
この状況で立派に鬼を務めるとはなかなかしたたかな一年生だ。

「あ、金吾。」

「見つかっちゃった。」

三之助は無表情のまま金吾の名を呼び、四郎兵衛は少し恥ずかしそうに笑う。

「じゃ、次は俺が鬼か。」

「鬼ごっこじゃないです、三之助先輩。」

どことなく勘違いを含んだ三之助の考えをあっさりきっぱり切り捨てる四郎兵衛。
二人の服の裾をつかんだままの金吾に滝夜叉丸が近づいていく。「あとは小平太先輩だ。」

「あ、滝夜叉丸。」

「滝夜叉丸先輩と呼べ三之助。」

これまた三之助の発言をあっさりぽんと切る滝夜叉丸はどこからか取り出した紐を三之助の腰に巻き付け始めた。

「ちょ、何するんすか、滝夜叉丸。」

「先輩をつけろ。」

くるくるくる、しばりつけた紐のもう片方を自分の腰にも縛り付ける。

「俺別にあんたとくっつきたくないんすけど。」

「滝夜叉丸先輩だ!」

ぎゃーぎゃーと言い合いを始めた二人。

「さて、小平太先輩を探しに行こうか、金吾。」

「はい、四郎兵衛先輩。」

そんな三年生と四年生を完璧に無視して進んでいく一年生と二年生。
そのなんともいえない姿勢にあっぱれだ。
見事なまでに自立している体育委員の下級生たちに自分の委員会の後輩たちが被った。「勘右エ門先輩、小平太先輩見つかりますか・・・?」

一年生の金吾と二年生の四郎兵衛だけではなかなか悟れないその気配。
彼らより年上でも、最上級生の気配を悟るのは勘右エ門にとってもなかなか難しいものだ。
だが下から見上げるきらきらした瞳には逆らえなくて。

「三之助っ、こっちだと言っているだろうが!!」

「えー絶対こっちですって。」

「だからっ、勝手に動くな!!」


後ろからついてくる二人の上級生を無視しながら進む下級生。
まるで我が学級委員会だ。
後ろの声を流しながら探る気配。
最上級生、さらにはあの野生児と言われる七松小平太。
優秀であるといわれる5年い組の勘右エ門であれどそうそう簡単に悟れるものではない。と、

ぴしり

空気が固まる気配。

ざわり

肌を撫でる恐ろしい気配。

勘右エ門だけでなく、他の皆もその気配に気づきあたりに目をやる。
滝夜叉丸が、三之助が、とっさに四郎兵衛と金吾を背にかばう。
勘右エ門も懐に入れているくないに手を伸ばす。


がさり


揺れたのは木の上。


見上げたそこ。


揺れた深緑。


そして




「みいつけた。」





落とされた言葉。



「「「っ、ぎゃあああああああああ!!!」」」



降ってきた最上級生は楽しそうに笑いながらこちらに一歩足を進める。


「小平太先輩っ!!鬼は僕ですよねっ!!」

金吾が勇敢にも声を上げる。

ゆっくりと金吾を見た小平太がとてもとても楽しげににやありと口角をあげた。「誰も探しに来ないから、暇になって、私が鬼になってみた。」


ぞわり、背中が凍る。

そして小平太からもたらされたのは恐ろしい言葉。



「かくれんぼは駄目だな!飽きた。次は鬼ごっこだ!もちろん」



勘右エ門含め、皆がゆっくりと後ずさる。



「鬼は私だ。」















なぜあの時金吾に声をかけてしまったのか。
逃げる勘右エ門の頭の中にはそんな思いだけがあった。












※※
体育委員と勘ちゃんの組み合わせは最高だと思う