4時間目終了のチャイムと共に、教室がざわめきにつつまれる。

兵助は固まった体をほぐすためにぐっと背伸びをした。

4時間目終了とは皆が心待ちにしているであろうお昼の開始をも示す。

兵助にとってそれも例外ではなく、いそいそとお弁当を取り出した。

それを持って同じクラスで親友の勘右衛門のところに向かおうと腰を上げようとすれば目の前がかすかに暗くなって。

「ん?」

見上げればその原因であろう人物がそこに立っていた。

微かにうねりをもつ彼の髪は兵助と同じ黒色。

いつも笑みを浮かべているその顔はどことなくへにゃりと困ったような顔。

「勘ちゃん?」

彼、勘右衛門の名前を呼んで尋ねれば彼はその通りの良い声で言葉を紡ぎだす。

「ごめん、兵助!俺今日昼かってくるの忘れててさ。ちょっと売店までいってくるから先、食べてて?」

「!それなら俺も___」

言葉を言い終わる前に勘右衛門は踵を返して教室の出入り口に近づいていて。

「大丈夫だよ、一人で行けるから!」

その言葉を置いて彼は走って行った。

姿が見えなくなった勘右衛門の代わりに入ってきた隣のクラスの親友たちを見て

兵助は机にうなだれた。

「おいおい兵助、どうしたんだ?」

八左衛門が太陽な笑みを苦笑に変えてそんな兵助に声をかける。

「・・・勘ちゃんに置いてかれた。」

しばしの沈黙ののち帰ってきたのは何とも明快な言葉で。

それに状況をいち早く理解した三郎が笑う。

「心配性だな、兵助は。勘右衛門も子供じゃないんだ、一人で行けるし、帰ってこれる。」

それでもうなだれたままこちらを見ない彼は納得できないのだろう。

ただ、八左衛門や雷蔵、三郎が昼を食べ始めても、弁当箱を開けようともしないその行為は大変わかりやすくて。

兵助が勘右衛門に執着を見せるのも、常に一緒にいたがるのも、八左衛門たちにとって決して理解できないわけではない。

なにせ勘右衛門は1週間ほど前からこの学校に通いだしたのだ。

その理由は至極簡単。

彼は小学校の三年時から約八年間親の出張について海外に行っていたのだ。

そうして帰ったきたのは先週のこと。

しかも勘右衛門自身、それを親から聞かされたのが出発の一週間前だったり、その時期に兵助がインフルエンザでしばらく学校を休んでしまったり、
すれ違いの日々を送ってしまってる間に、勘右衛門は兵助に別れを告げることなくいなくなってしまったのだ。

ちなみに雷蔵たちはもちろん兵助に言っているものだと思っていたため、とくにしらせもしなかった。

よって、勘右衛門が海外に行ったと兵助が知ったのは彼が出発して五日後のことだったりする。

まあ、そういうことがあったため、兵助は勘右衛門に置いていかれることにひどく恐怖を感じているのだ。

また置いていかれるかもしれないと、いなくなってしまうかもしれないと。

だからこそ八左衛門たちも仕方がないと思ってみている。
というか、慣れてみれば彼らは合鴨の親子みたいに見えてかわいらしい。

生物委員の八左衛門からみればなんとも愛らしい生き物だったりするのだ二人とも。

「八、食わねえんだったら俺が食う。」

兵助の頭をなでてながらそんなことを考えていれば八左衛門の手に持っていた菓子パンがひょいと横から伸びてきた手に取られた。

「!なにすんだよ、三郎!それ俺のっ・・・!」

驚き声をあげるが時すでに遅し。

三郎の手に渡った菓子パンはすでに三郎の口の中に収められていて。

「・・・俺の、メロンパンが・・・」

ショックを受ければ三郎に鼻で笑われる。

「食べねえお前が悪い。」

そう告げる顔は笑顔。

「っ、このっよこせ、」

いらりときたので三郎の持っているおにぎりを奪おうと手を伸ばすが、ひょいと避けられて。

こいつはこういうときとりあえず逃げ足やらなんやらが速いのだ。

「だれが八なんかにやるかよ!」


「いい加減にしなよ?二人とも。」


追いかけっこをしだした二人の頭が仲良くぶつかり合うのは、にっこり笑った雷蔵さまがご降臨なされたその時だった。

と、ずっと死んだようにうつぶせになっていた兵助ががばりと起き上がり、一言
、言った。

「俺、勘ちゃん迎えに行ってくる。」

それは兵助なりに出した結論だったのだろうが周りの3人は苦笑して。

「だから大丈夫だって!」

笑って告げる三郎を兵助は華麗にスルーする。

「遅すぎる。もしかしたら、道に迷ってるのかもしれない!売店で人の多さに埋もれているのかもしれない!高速で走る先輩に弾かれたのかもしれない!」

立ち上がりこぶしを握り語るその姿はかっこいいが内容が内容だ。

「大丈夫だよ、兵助。勘右衛門はそこまで信用ないの?」

雷蔵の言葉にうっと言葉を詰まらせる。

がらり

「!勘ちゃ・・・」

開いたドアに瞬間の速さで視線を向けた兵助だが、それは期待した人物ではなくて。

「・・・あれ?ここ体育委員会室じゃないんっすか?」

黄緑色のネクタイをつけた少年が首をかしげてたっていた。

「ここは2年い組の教室だよ?」

不思議そうに首をかしげている彼、三之助に雷蔵がやさしく教えれば彼は一瞬きょとりとする。

そしてぽつり、

「また、体育委員室移動したんっすかねえ・・・」

その言葉に雷蔵が固まる。

「無自覚方向音痴で有名な中等部3年の次屋三之助だよ雷蔵。」

再び八の手から奪ったパンを頬張りながら三郎が雷蔵に告げる。

「次屋、体育委員室は廊下左に言って階段で3階まで行って、渡り廊下渡った最上階だ!」

八左衛門が菓子パンを取られていることに気づいていないのか笑いながら三之助に教えてやれば彼はどうも、と一つ頭を下げてドアを閉め教室から出て行った。


右側に。


「っ、てちょっとまてい!それは右だろうがっ・・・あーあ、行っちまった・・・。」

「・・・うわあ、ほんとに方向音痴・・・」

雷蔵のつぶやいた声に三郎もうなずいた。

「やっぱり行ってくる。」

三之助が行ったドアから声がして、みれば今まで隣に座っていたはずの兵助がいない。

行動の速さに驚くばかりだ。

がらり、ドアを開けた瞬間、兵助の目の前を一陣の風が通り過ぎた。

「次屋、さあんのすけえええ!!!どこ行ったんだ!!委員会が始められないだろうがあ!」

そんな奇声を発しながら。微かに見えた紫のネクタイと、さらり流れた髪、そしてその声と内容に、その正体が1年の滝夜叉丸だと知れた。

「・・・あいつも大変だよなあ・・・」

八左衛門がポロリこぼした。

「じゃあ、行ってくる。」

一度三郎たちを見て進みだそうとドアのほうを見た瞬間、いつの間にかそこにあった姿。

それは待ち望んだ彼で。

「どうかしたの?兵助。」

不思議そうに首を傾げて言った勘右衛門。

兵助はそれに全力で抱きついた。

「勘ちゃあん!」

慣れたように頭をなでて何があったのかと八左衛門たちをみる勘右衛門。

それに苦笑を返した雷蔵たちにすべてを悟ったのだろう彼は笑う。

「いやあ、売店行くのにさ、道に迷ってね?たどり着いたら人ごみに巻き込まれるし、帰りに七松先輩に廊下で弾かれてさあ。
最後には立花先輩たちの集団に会っちゃって、委員会に入れって催促されてさあ・・・。」

どこか遠い目で告げる勘右衛門。兵助がいってたことがほぼあたっている。

そして兵助の頭をぐしゃぐしゃとかき回して、満面の笑み。

「兵助。俺はもういなくならないし、兵助のこと絶対置いてかないよ。」

その言葉にようやく兵助も笑った。







おいてかないよ、もう二度と







おけま
何買ってきたんだ?
ええとねえ、いなりずしに、笹ずし、それから豆腐パンかな。
















※※※
リアル友人に頼まれた物。
製作時間約1時間。
あっは・・・。
ちなみに課題としては

兵助中心
学パロ
三郎はいらないといわれたがだした。
豆腐ねたなし
ほのぼの

だったが。
あれ、なんか色々とクリアできてないよね。
うん。
だが楽しかった。
勘ちゃんに依存する兵助がかあいい。