好敵手
「お前らにそんなこと言われるのはいただけないな」
お前らに何がわかる?
努力をしていないくせに?
うぬぼれ屋が?
いくらでもほざくがいい。
だがな、あいつはお前らとは違う。
口で自分をほのめかす、それに見合うだけの実力は持っている。
それに相対するだけの努力をしている。
だというのに、それをお前らにけなされるのは、どうにもいただけないな。
へえ、滝のこと、そう言う風に思ってたんだね。
かわいそうに。
君たちは滝の素敵なところを何一つ知らないんだね。
それはそれは、
かわいそうには思うけど、同情なんてしないよ。
だって、君たちは僕の大事な大事な友人を傷つける言葉を吐いたんだから。
ぐだぐだと口うるさい、うっとうしい?
うん。
私も初めはそう思っていたよ。
けれども、滝はあれでいてとても優しい。
君たちが知らないということはね、つまり
君たちが滝のことを見ていないということだよ
それなのに滝の悪口ばっかり。
面倒な子たちだね。
「滝夜叉丸先輩!四年の先輩たちが!!」
そう言って走ってきた金吾。
その金吾に連れられるようにして走った先には見知った紫の三つの彼ら。
周りにも紫は存在してはいたけれど、そんな奴らには目をくれる必要性も感じなくて。
三木衛門はともかく、いつもは怒りを表に出さないタカ丸さんまで。
さらには喜八郎なんかはいつもの何十倍もの無表情だ。
それはつまり怒っているという証拠で。
さすがの私も、突然のこの状況についていくこともできず、理解することもできず。
「他の四年の先輩たちが、その、」
手をつないだままだった金吾が話し出したそれ。
はっきりしない詳細に目線で続きを求めれば少しいいずらそうに述べられた言葉達。
「滝夜叉丸先輩の悪口を言っていたらしく・・・」
じわり
胸に今まで感じたことのないような温もりが広がった。
ああ、もう、こいつらは本当にもう
「あいつの手を見たことがあるのか?」
仙輪を扱うためのその手は、多くの切り傷がある。
その仙輪を扱えるようになるためにどれほどの時間を費やしたのか、お前らにはわかるのか?
三木衛門の強い瞳。
ああ、私も見たことがある。
お前の手が豆ややけどで覆われているのを。
だが、その手が紡ぎ出す火器の扱いは、誰よりもたけていて、そしていとおしむようで
「ねえ、体育委員である滝を知ってる?」
七松先輩のしごきに耐えるだけでなく、あの自由奔放な後輩たちを連れ、あの背に追いつこうと必死になる姿を。
後輩たちを慈しむ様を、その時の柔らかな笑顔を。
優しい笑みの向こう、明らかな怒り。
私も知っています。
あなたが委員会の時だけでなく、いろんな人に必死に追いつこうとしている様を。
年下であろうと、教えを請い、そして、自分の足りないものを補おうと努力する姿を
「許さないよ。滝のこと、何も知らずに貶めるのは」
世話が焼けると言いながら一度も私を置いて言ったことがない。
一度も私をあきらめない
握りしめられた手の白さ
私も許せないよ、喜八郎。
お前を、大事なお前たちが貶められるのは。
認めているよ、お前のこと。
他の誰でもなく
私たちが
だから、思う存分やればいい。
背中は私に任せて。
僕は隣に並び立とうではないか。
今はまだ足手まといだから、帰る場所を作るよ。
口では言えない、態度で示そう。
※※※※
滝夜叉丸と四年生。
基本的に私の中の四年生というのはみんながみんな無関心。
共にいるのは好きだけど、べったりはしていない。
それでいうと、五年の方がべったりしてるイメージ。
お互いでお互いのことを認めている。
皆がみんな大事だと思っているが、自分の妨げになるのであれば、距離をとることすらいとわない。
お互いがライバル。
好敵手。
そんなイメージ。