心からの感謝を 






夢を見た。

それは、とても懐かしい夢。

弱くて、甘くて、どうしようもなかった俺と、そんな俺の近くにいてくれた、二人の少年。
太陽に煌めく銀色が綺麗で、俺は何度もそれを眺めた。
ひまわりみたいな笑顔がまぶしくて、俺は何度も目を細めた。

銀髪の君との初対面はいいものじゃなかったね。
俺は君が怖かったし、君は俺が気にいらなかった。
偶然が重なって、君は俺を認めてくれた。
こんな俺を、君は守ると言ってくれた。
そのときから君は僕にとって、僕を形作る一部分になった。


黒髪の君とは、クラスが一緒。始めはただそれだけだった。
君の悩みを俺は真剣に受け止めることもできず、結果、君を傷つけた。
そのことにも気づけなかった愚かな俺に、君は心からの笑みをくれた。
こんな俺がいいと、君は言ってくれた。
そのときからずっと、その言葉は俺の支えになっている。



「十代目!」

今ではもう呼ばれなれた呼び名に
聞きなれた声に

薄れていた意識を取り戻す。

うっすらと目を開ければ、そこには見慣れた銀髪に黒髪。


大切な友人で、

  大事な部下で、

    かけがえのない人たちで


彼らの顔は酷く歪んでいて、
ところどころ紅で汚れていて、
 
あぁまた彼らの傷を増やしてしまった。

ぼんやりと考えているうちにも、目の前はゆっくりと色をなくしていく。
幸いなことにか、最悪なことにか、腹部に感じていた鈍痛さえも今は感じられず、
ただ瞳だけがそこにいる二人を映し出していた。

「十代目!!」


    こんな顔をさせたいわけではなかったのに、
 
           こんな気持ちを与えるつもりは無かったのに、


自分がここにいるのは、彼らを、自分にとって大切な人たちを守るためだったのに。
それすら叶わず、俺はここで朽ち果てるだろう。




ゆっくりと口角をあげ微笑む。
そうか、あの夢が走馬灯と言うのか。
 
   かつての自分。

    幼き日々。

そこで見つけたかけがえの無い人々。

それらが全て繋がり、今に至る。

すまない。大事な友よ。ここにいる俺は、もうすぐ消えるだろう。

けれども、どうか、


どうか、泣かないで欲しい。

        その涙は別の人のために。

どうか、悲しまないで欲しい。

        俺のせいで悲しみに支配されぬように。

どうか、探さないで欲しい。

        俺がここにいないことを受け止めて。


そして、どうか見つけて欲しい。

        俺たちの最初にして最後の希望を。

  



             君たちが俺にくれた、全ての物に別れを

                  こんな俺についてきてくれた君たちには、心からの感謝を







「十代目!」
呼び声に反応したのは一度だけで、唯一無二の主はその顔に微笑を浮かべてこの世界から消えた。

それは、自らの油断が招いた結果。

なんと言われようと、常に傍にいるべきだった。

目を離したその一瞬に、全ては終わっていた。

崩れ落ちるその身体に、流れ出ていく命の赤に、俺は何もできなくて。

俺よりも先に駆け出したあいつによってその体は支えられ。

色をなくしたこの世界にあの赤だけが、印象的で。

「___!」

やつらの声など聞こえず、ただ、迫り来るそいつらの世界を奪った。

主が最も嫌ってたことを、
  主が最も悲しむことを、

「獄寺!!」
    
怒りと悲しみと絶望とで支配された俺には、

あいつに止められるまで、自分自身を止めることができず。


    ただ、願った。


これが、嘘であることを、夢であることを。

閉じた目を開ければ、そこには今までと変わらない主が、同士たちがいると。







思わず駆け寄った。

崩れ落ちていくその体を、抱きとめるために。

抱きとめたその身体はぞっとするほど、冷たく。

震える手を必死で、堪えた。

共にいたあいつは、我を忘れ、やつらに飛び掛っていった。

俺もこの腕に抱えているのがなければ、同じことをしていただろう。

「獄寺!!」

こいつが、一番嫌っていたことを
  こいつが、一番恐れていたことを

あいつにさせるわけにはいかないと、声を張り上げた。

びくりと震えたあいつは紅に染まった体でこちらに向き直る。

ゆっくりと声にならない声がこぼれ、同じようにゆっくりと近寄ってくる。

傍まで来て、がくりと膝を突き大きな声でこいつの呼び名を叫ぶ。

「十代目!」

それに小さく身動きをした後、こいつは顔に笑みを浮かべて、

        二度と動かなくなった。






絶望に呑まれた俺らの前に現れたのは、ここにいた主とは同じでいて違う人物。




                  悲しみに身を焦がす俺たちの前に現れたのは、あいつが最後に残した希望の光。
 
                   

                     残された俺たちは、
                        託された未来を、
                           守るために。



                  いつか再び出会うであろう、君のために。
                                        

              



 ありがとうの言葉はいつまでも胸の中に


















円さんへ。ぱーとツー。

ごめん。
未来編で、つな死んでたら、と思って書いたやつ。
後悔はしてない。
ifストーリーということで。

もう一個のほうは、若干、黒綱。

こっちは白綱で書いた、よ。