小説
あなたの成長を待ってあげられるほど優しくはないの
「・・・・・・」
「・・・・・・」
とあるカフェテリア。
昼下がりの柔らかな日差しの中。
普段であれば談笑が響いているその場所。
その中の一つのテーブルは異様な光景を醸し出していた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
一人は座っていても長身だとわかる男性。
ところどころぼろりと見えるコートが印象的だ。
その前に座るのはまだ幼い少女。
赤いスカートとスカーフが柔らかなどことなく気品を与えている。
ここまでであれば、ただちょっと幼女趣味が入っているかもしれない男性が女の子とお茶してる。
という男性にとっては不名誉な称号をもらうだけで済むものだ。
だが、その二人、どこかおかしいのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
この店に入ってきて飲み物とマカロンを頼んでから一向に会話がない。
しかも女の子の方が注文を終えてから今までずーっと男性を見ているのだ。
それも生半端な「見ている」ではない。
むしろ眼見だ。
穴があくほどに見つめている
「・・・・・・ねえ、ちょっと、イヴ。」
「なに?ギャリー。」
さすがにそれに我慢できなくなったのか男性が少女の名前を呼ぶ。
それに答えながらもイヴと呼ばれた少女は男性を見ることをやめない。
「ちょっと・・・あまり見ないでほしいんだけど。」
「どうして?」
きょとり、とまるでなぜ問われるのかわからないと純真無垢な瞳は問う。
「逆にアタシが聞きたいわよ。」
ため息と共に返された返事にぱちくりと瞳を瞬かせるイヴ。
「だって、嬉しいんだもの。」
主語もないそれは、幼い子供特有のもので。
共にあの場所を乗り越えたこの子はまだ幼いことを再認識させて。
「何が嬉しいの?」
問いかけにふわり、今まで無表情だった少女が微笑む。
「ギャリーにもう一度会えたこと。」
まるで不意を突くかのような言葉に、ギャリーが微かに目を見開いた。
「ギャリーにまた会えて嬉しいの。それにね、あの場所で約束したマカロンが食べれることも。それからね、」
「っ、ちょっとまって、イヴ。ストップストップ・・・」
楽しげにほおを緩ますイヴを慌てて止めるギャリー。
「あれ?どうしたのギャリー?顔痛いの?」
口元を手で隠しながらもごもごとギャリーが口をはさむ。
「イヴ、恥ずかしいから・・・」
どう見ても本心であろうそれに相も変わらずきょとりとした表情のイヴ。
「どうして恥ずかしいの?私はギャリーにたくさんたくさん感謝してるの。」
「ここにいるのはギャリーのおかげ。ギャリーが私を何回も助けてくれたから。」
追い打ちをかけるようなその言葉。
ギャリーは机に突っ伏している。
もうやめてあげて、イヴ。
ギャリーのライフは〇に近いわ。
そんな言葉が届くはずもなく、なおも言葉を紡ぎ続けるイヴ。
「私の手を引っ張ってくれたり、守ってくれたり。・・・すごくかっこよかった。あの時のギャリー。」
微かに恥ずかしがるような声色に変わったそれに、ゆっくりとギャリーが机から顔を上げる。
「王子様、みたいだったの。」
ふわり、さっきみたいに笑っているその頬は赤く色づき、子供ながらにあまやかな感情を滲ませる。
「っ、」
まるで恋されているような錯覚。
どくりとギャリーの心臓が音を立てた。
(相手は9歳よ9歳、だめよアタシ、だめよ!)
ぶわり、溢れだしそうになった感情。
彼女の二倍以上生きていればさすがにその感情の意味も名前も知っていて。
でも、それを認識するわけには行かなくて。
まだ相手が幼いのもある。
けれど、この子にとって自分という存在は生まれたての雛の刷り込みのようなものだから。
必死で自分に言い聞かせる
そんな行動をしている時点でもうすでに結果はわかっていても思わずにはいられなくて。
「お待たせいたしました。」
葛藤するギャリー。
それをふわふわ笑いながら見つめるイヴ。
そんな彼らに終止符を打ったのはマカロンを持ってきた店員のお姉さんで。
「美味しそう・・・」
とたん、先ほどまでの甘やかな雰囲気は拡散して。
子供のきらきらとした瞳がのぞく。
「はあ・・・美味しいわよ。食べていいのよイヴ。」
ギャリーの言葉にぱあ、と広がる笑み。
そっと伸ばした手につかむマカロン。
口に入れてふわり、広がる甘みにその顔が、とろけそうになる。
どくり
再びなる心臓。
それでも目の前の少女の可愛さを見ていればそれでもいいかなとか思ってしまう自分がいるのも確かで。
「どう?イヴ。」
「すごく、おいしい、ギャリー!」
ふわり、最上級の笑み。
それをみて、ぷつり、頭の中でストッパーが仕事放棄する音が聞こえた。
「イヴ、口についてる。」
手を伸ばして、髪に頭に触れる。
後頭部まで伸ばした手をぐいと手前に引き寄せた。
唇の横。
先ほどまで美味しそうにマカロンを口に運んでいたところ。
その端についたマカロンのクリームを
ぺろり、なめる。
「うん、おいしいわね。」
どっちかというと無意識というのだろう。
先ほどまでの葛藤などなかったかのように手を離して唇を舐める。
「っ、あっえっ、」
「ん?どうしたの?イヴ。」
目の前で顔を真っ赤にさせながら口をパクパクとさせるイヴ。
そうなった原因も理由も知っている。
それでも、先ほどあんなに動揺させられたのだ。
これくらい可愛いものだろう。
にこり、わざとらしく笑って再びその頬に手を伸ばす。
ゆるり、その唇を人差し指で撫でる。
その甘くておいしそうな唇。
「ほら、イヴ。早く食べないとアタシが全部食べちゃうわよ。」
(ごめんね、イヴ。アタシあなたを逃がしてあげれるほど優しくないし、待ってあげれるほど心広くもないのよ。)
※※※
おまわりさーん。ここにロリコンがいまーす!
男前なギャリーさんもヘタレなギャリーさんも大好きです。
プレイ中選択肢でじっと見つめる、があったらそればっかりしてました。
楽しかった。