小説









いのちのあかしをみぎのてに

























「なら、ギャリーの蒼い薔薇と交換ね!」



とても綺麗な表情で、メアリーは笑うの。


その言葉に固まるのは私だけじゃなくて、ギャリーもで。


思わず見上げてしまったギャリーの顔。


一度大きく目を見開いて、ゆっくりと、何かをあきらめるように一つ目を閉じて。


そうして、ふわりと私を安心させるみたいに笑う。





そんな表情、もう見あきたの。





「っ、イヴ!?」


ギャリーがメアリーに薔薇を持った手を差し出す。

それを腕をつかむことで止めて。

思わず驚いた表情でこちらを見てくるギャリーをとがめるように睨む。



「ギャリーの命と引き換えに手に入れる生なんて、ほしくはないわ。」


私が掴んでいたギャリーの手が、怯えるみたいに震えた。


「メアリーを置いてきぼりにして手に入れる現実なんて、嬉しくないわ。」


ぴたり、ギャリーの手をつかもうとしていたメアリーの動きが止まる。



「イヴ、」


「メアリー。私の赤い薔薇は、あなたにあげる。」


ギャリーの言葉を遮って、メアリーをまっすぐに見つめて。


「な、に言ってるの?赤い薔薇はイヴの___」


胸に走るのはつきりとした痛み。

メアリーがぎゅっと私の薔薇を握ったから。



「私の命は、メアリーに預けたの。」



私の命は、メアリーと共にあるの。



「代わりに、ねえメアリー。あなたの薔薇を私に頂戴。」



ギャリーの手を離さないままでメアリーに向かって手を差し出す。


びくりとその手に怖がるように震えたメアリーに、ふわり笑う。




「メアリーの命、私に預けて?」



それが造花だからとか、関係ないの。

その黄色の薔薇は、あなたの生きている証なの。



「メアリー?」



再び名前を呼んで手を出せばゆっくりと掌に乗せられる黄色の薔薇。

メアリーの命の証。


「綺麗な黄色。私は大好きよメアリーの色。」


それにびっくりしたように後ずさるメアリー。


其れに交代するみたいにぐっとつないだままの手をギャリーに引かれて。



「でも、イヴ!」


ギャリーの声。

私を優しく包みこんでくれる人。

私を柔らかく守ってくれる人。



私が、一緒に生きたい人。



「ギャリー。私は三人で、ここから出たいの。」



大きく見開かれた目。

こんな時だというのに、笑っている私が映っている。



「っ、そんなことっ、できるわけないじゃないっ!!」



叫ぶ声は、メアリーのもの。


含まれる悲しみは、私たちに向けられていて。



「どうして無理なの?」


「だって、本に書いてあったもの!」


ゆっくりと問いかけた私にメアリーは泣き叫ぶように言い放って。



「どうして、それが本当なの?」



誰ひとり証明したことのないそれが、どうして本当だとわかるの?



「っ、そんなの、無理なものは、無理なのよっ!!」



響く声。

何度も何度も自問自答したその言葉達。


私も同じ気持ちを持っていた。



目の前で何回も何回も見てしまった光景。

三人で出られる道なんて、何処にもないって。


何度もそう思いそうになって、それでも道を探して。



もう少しなの。

ようやっとここまでこれたの。


絶対に、あきらめないの。



「いやよいやよいやよ!」



何度も何度もメアリーが泣き叫ぶ。


おもちゃ箱の中、響く声。


「もうこの場所で独りきりは嫌なの!!」














わたしも、もうひとりきりで、いきるのは、いや
















パシン


両手で挟み込む温かな温もり。

生きている、温度。

しっかりと挟んだ頬。


「メアリー聞いて。」


驚きで見開かれた瞳の中の私がにじむ。

じわりじわり、止まることなく溢れる雫が私の手を濡らす。


「私は、あきらめたくないの。」


お願い、聞いて。

お願い、届いて。



「もう二度と、見たくはないの。」



頭に浮かぶの二人の顔が。

私を庇って消えるギャリーは笑っていて。

私が燃やしたメアリーは泣いていて。



「メアリーが燃えてしまうのも。ギャリーが死んでしまうのも。」



失った記憶が溢れるたびに、何度も何度も後悔して。

次こそは、次こそはと繰り返した。


それも、ここまでだから。



「今度こそは一緒に出るのよ。」





涙にぬれたメアリーの瞳。

そっと近づいてきたギャリーが優しくその目元をぬぐう。


「もうこれ以上、可愛い二人に泣いてほしくなんてないわ。」


その言葉の通り、私の視界も歪んでいて。


「もうイヴもメアリーも、一人になんてさせないから。」


この場所でずっと先を歩いてくれた人。


ずっと私たちを支えてくれた人。






「行きましょう、メアリー、イヴ。」






ギャリーが右手で私を、左手でメアリーを引っ張り上げて。


私の右手にはメアリーの薔薇。


メアリーの左手には私の薔薇。


「イヴ。私の命、あなたに預けるわね。」







そうして、私の右手にはメアリーとギャリーの命。











その温もりをぎゅっと抱きしめて。


流れていた涙を袖で拭って。


まっすぐに前を見て。














目指すのは三人皆で生きられる、未来。