小説
翼に傷を負った鳥は二度と飛べないんだよ。
あなたはそういって空を見てた。
その瞳に私が映ることは無いのでしょう。
その横顔を眺めて私はそう思ってた。
任務に向かう私に主が言うのはただ任務の達成のみ。
失敗は許されない。
言外に示されるそれに私は気づかぬふりをして、空へと飛び立つ。
赤く血塗られたそこは、酷い匂いで。
その真ん中に立つ主はさらに赤く。
帰ろうか。
振り向いて、笑顔を見せて。
忍びの癖に優しい主は、またその心を涙にぬらすのでしょう。
忍びの癖に隠し切れないその悲しみを私は知っています。
それは私が人間ではないからでしょう。
人では知りえないことが解ることができるのはとてもうれしいことですが、結局伝えることもできないのであれば同じなのでしょう。
確かに翼に傷を負った鳥は二度と飛ぶことはできません。
ですが、主。
私は思うのです。
翼を持たぬあなたたちは、心に傷を負ってもなお、飛び続けるしかありません。
それは、人から見えないから。
それは、目には見えないから。
私には痛いほど感じられるのです。
その思いが。
私のそれを伝える方法が無いことはとても残念ですが。
私は主のおそばにいれて嬉しいのです。
決して、巻き込まれたのではありません。
これは、私の意志です。
強制されたのではありません。
これは私の願いなのです。
ですからどうか、私を解き放つなどとおっしゃらないでください。
こんなときまでそんな優しさ、ほしくはありません。
どうぞ、望みをかなえてくれるというなれば、
いつまでも、お傍に
忍鳥
真っ黒い私は迷彩に包まれ眠りましょう。