ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-24









「大丈夫です、進めますわ」

金色のお姫様は毅然とした態度で前を向いて。
自ら倒した本当の父に背を向けた。
ラルゴがお姫様の本当の父親である。
その事実は彼女を、皆を揺らして。
けれどお姫様は自分の意志で先をきりひらいた。

「行こう、姫様」

震える手を握りしめて、そっと笑いかければ、彼女は泣きそうになりながらもうなずいてくれた。



「かくしてオールドランドは障気によって破壊され、塵と化すであろう。これがオールドランドの最期である」

ゲートを閉じて、アッシュに促されて向かった先。
そこにいたのは緑をまとう、導師のレプリカ。
導師イオンと同じで、全く違うその存在。
息をのんだのは、アニスか、シンクか。
ヴァンの姿が見えた瞬間、シンクは私をかばうように一歩前にでて。
アニスはイオンを守るために人形を大きくした。
私たちの存在に気がついたレプリカはゆるり、首を傾けて。
ふんわり、この場にそぐわない笑顔を見せた。

「イオン!」

呼んだのは、導師の名前。
恐らく今、彼も同じように呼ばれているであろう名前。
その手に持っていた第七譜石を放り出して、笑顔のままこちらに向かって駆けだした。
呆気にとられる面々の中一番に動いたのはアニス。

「待ちなさい、」

さ、っとイオンを後ろに押しやって、駆け寄ってくるイオンレプリカを止めようとする。
が、

「え、ちょ、」

彼の勢いは思っていた以上に大きく、そのままの勢いでアニスに飛び込んだ。
人形使いとして力はあれど、自分より大きな、しかも少年を抱き止められるはずもなく。
そのまま後ろに倒れていく。

「アニス!!」

あわてたように彼女を支えるイオン___だがもとより力の弱いイオンでは役不足で。

「この馬鹿!」

地面に倒れ込む前にイオンの後ろに体を滑り込ませたのはシンクだった。

「これが本当に第七譜石なのか!?」

走っていったイオンレプリカなどもう目にはいらない、とばかりにモースはヴァンに怒鳴り散らして。
それを嘲笑で受け止めるヴァン。
彼らに警戒を強めるジェイドさんやガイをよそに、こちらではなんというか、緊張感に欠けるやりとりが行われている。

「イオン、イオン!!」

にこにこと嬉しそうにイオンを呼ぶのはイオンレプリカ。

「ちょ、おもいい・・・」

それに押しつぶされたままのアニス。

「だ、大丈夫ですか?アニス」

間に挟まれて身動きのとれないイオン。

「・・・さっさと退いて欲しいんだけど」

あきれたようにため息をはくシンク。
なんだろう、緊迫した状況のはずなのに、ひどく癒される4ショットだ。

「アニスが潰れちゃうからね」

イオンレプリカの肩をたたいて手を引っぱりあげる。
そうすればきょとん、とした表情。
そして笑顔。

「ありがとう、えーと・・・」

、だよ。初めまして」

「・・・・・・、だね。覚えた!」

覚えたての言葉を復唱するその姿は幼くて。
思わずこちらまで笑顔になる。

「さっきまであなたがの乗っていたのはアニス」

指し示して教えれば、くるり、彼はアニスに向きなおって。
未だに座り込んだままの彼女の手をつかんだ。

「アニス!ごめんなさい!」

引っ張りあげる力は思ったより強く。
アニスはあわてたように足を地面に着けた。

「わ、」

そのままアニスの体をぎゅう、と抱きしめて、ぱ、と体を離した。
そして、

「久しぶり、イオン!!」

「わ、」

空いた透き間に入り込むように、レプリカイオンはイオンへと突進した。

「ちょ!」

もちろんその下にはシンクもいるわけで。

「・・・

「・・・なに、アニス」

横に立ったアニスが3人をじいっとみながら私に声をかけた。

「すっごくかわいいんだけど」

「すごく同感」

どうしよう、この空間だけが別次元のようだ。

「イオン!!」

嬉しそうなレプリカイオン。
彼の頭を優しくなでながらイオンははにかむ。

「前に一度会ったの、覚えててくれたんですね」

「忘れないよ!僕とそっくりなんだもん!」

にこにこと笑う顔に邪気などなく。
困ったような表情をしたイオンを不思議そうに見上げて。

「・・・あなたの名前は?」

そっとイオンが問いかければ、レプリカイオンは笑みを引っ込めて。

「___イオン、って呼ばれてる」

ゆるり、首を傾けて。

「変だよね、その名前は、イオンのものなのに」

_イオンのものなのに_

イオンが、アニスが、息をのんだ。
わかっている。
彼が言った言葉は、彼が言うイオンは、目の前の一人のことだと。
それでも、イオンにとって、その名前は”イオン”のものなわけで。

「ふぃ?」

ぶに
そんな空気を変えるかのように、イオンの後ろから伸びた手。
それはイオンを通り越して、レプリカイオンの頬へ。
無遠慮につかまれた柔らかな肌は餅のように横へ引っ張られて。

「そうだね。”イオン”はこいつのだ」

シンクが言葉を紡ぐ。
イオンの後ろをのぞき込んだレプリカイオンはシンクを目にして大きな目をさらに見開いた。
ゆっくりとシンクの手がはずれる。

「アニス」

不意にシンクが彼女を呼ぶ。
呼ばれたアニスは驚いたように肩をふるわせて。

「”イオン”はこいつのだから」

間に挟まれたままのイオンが、アニスをみる。

「そいつの名前を呼んであげてよ」

そして、レプリカイオンの瞳もアニスを写して。
3対の瞳にさらされて、アニスは息を一つ、はいた。

「___フローリアン、でどう?」

無垢なるもの
その意味を持つ言葉は、まっすぐに3人に届いて。

「フローリアン・・・」

噛みしめるようにつぶやいた言葉。
大事な大事な宝物を手にしたかのように、レプリカイオンは、フローリアンは、笑った。

「ありがとう、アニス」

以前出会ったとき、返せなかった返事を今この場所で。

「イオン、僕は、フローリアンです」

噛みしめるように紡ぎ出された名前。

「よろしくお願いします、フローリアン」

柔らかく微笑むイオンに、彼の笑顔も明るくなって。

「とりあえず退いてくんない?フローリアン」

それに水を差すように、シンクの言葉が響く。

「あ、忘れてた。」

焦ることもなく立ち上がったフローリアンは、同じようにたった二人を見比べて。
そして、ゆっくりとシンクへと手を伸ばした。
手はシンクの仮面にそっとふれて___
はずされた仮面。
それを抵抗するでもなく受け入れるシンク。
隔たりなく出会った瞳は、ふにゃり、ゆがめられて。

「ねえ、僕たちは、きょうだい、なの?」

まだ、なにも知らないこの子は、
無垢なるものと名付けられたこの子は、

「似たようなものだよ」

「似たようなものですよ」

シンクとイオンの返事をうけて
勢いよく2人に飛びついた。





※※※※
そしてこの後フローリアンはダアトでお留守番。










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