ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-26









出発の前の兵士には、24時間猶予が与えられる。
その言葉を聞いてアニスはイオンの手を引いて街へ繰り出した。
ガイもナタリアに声をかけて、アニスたちの後を追う。
ルークとティア、ミュウはノエルの誘いに乗ってアルビオールへ。

彼らを見送れば、残るのは私とジェイドさんとシンクなわけで。

「・・・

控えめにシンクに名前を呼ばれた。
そっとうつむく顔をのぞき込めば、迷ったような瞳。

「なあに、シンク」

くしゃり、柔らかな髪にふれて問えば、シンクはちらり、ジェイドさんをみて。

「___一緒にいてくれる?」

控えめに、そっと服の裾をつかんで。
伺うようにしてくるその姿は普段を思えば非常にかわいくて。

「もちろん!」

即答してしまった。
瞬間、ぴしり、固まる空気。
冷ややかな視線を全身に感じてゆっくりとそちらに目を向ければ、満面の笑みを浮かべるジェイドさん。

「ええ、と・・・」

どうしよう、と困っていればため息。

「仕方ないですね。シンク、日暮れまでですよ」

くい、とめがねを押しやって、小さな苦笑を唇に浮かべて。
いってきなさい、と押し出してくれた。



手をつないで二人、ぶらぶらと道を歩く。
両側に連なる露天を時折冷やかしながら、取り留めのない言葉を交して。

「・・・ねえ、

ふ、と途切れた会話の中。
少しだけ固い声。
ゆるり、見上げた先、逆行でシンクの表情は見えない。

「___ルークが・・・アッシュが、ローレライを解放したら・・・」

ためらいの、先。

「戦う場所に身を置くことがなくなったら、」

見えないはずの表情は

「僕はもう___いらない?」

今にも泣き出しそうに見えて。

、」

答えないままつないでいる手を強く引いて。
先ほど二人でみていた露天へ連れていく。

「おじさん、そのペンダント同じの4つありますか??」

にこやかに笑うおじさんにお金を渡して、受け取って。
私の名前を再度呼ぶシンクに答えないでもうけられていたベンチに向かった。

!」

ベンチにシンクを座らせて、ぺい、と仮面をはずして。
ぺしょり。
その柔らかな頬を両手で挟み込んだ。

「シンク」

非難の色は、私が名前を呼んだ瞬間形を潜めて。
代わりに浮かんだのは恐れるような、色

「まだ、必要?」

紡ぐ、ことのは。
響け、届け。

「”家族”以外の言葉がないと、不安?」

武器になって。
そう持ちかけたのはやっぱり失敗だったかもしれない。

「ねえ、シンク」

あなたはまだその言葉に縛られている。
そうじゃ、なくて。

「シンク」

そっと手を離して、先ほど買ったペンダントを取り出す。
しゃらり、響くチェーンの音。

「私と、イオンと、フローリアンと」

シルバーの装飾の中、ちりばめられる緑の石。
シンクの色でイオンの色で、フローリアンの色。

「全部終わったら。4人でちゃんと、家族になろう?」

私の首に、そして彼の首にそっとかければ。
シンクの瞳が大きく見開かれて、くしゃり、ゆがんだ。

「___家を、探さなきゃね」

震える声で発せられた言葉。
おどけたように笑ってみせるけれど、それは泣き顔にも見えて。

「そうだね、4人みんなで住めれば小さくてもいいかな」

シンクの横に腰掛けて、彼をみないようにしながら返事を返す。

「イオンは導師の仕事があるから、ダアトに近くないとだめだね」

紡ぐ、紡ぐ。
これは、実現可能な夢の話。

「私、大きなソファが欲しいな。4人で座れる奴」

そっと手が、温もりに包まれる。
震えている声も、手も、知らないふり。

「僕自分の部屋がないと嫌だよ」

描く、描く。
未来を生きるそのために。

「シンク引きこもっちゃいそうだから、フローリアンと同じ部屋ね」

ぎゅう、と体を丸め込んで、目元を隠して。
嗚咽をこらえながらも言葉は続く。

「・・・せめてイオンがいい」

おかえりと、ただいま。
そんな言葉があふれる家に。

「がんばってお兄ちゃん」

優しい光であふれる場所に
言葉をぽつぽつとつぶやき続けていれば、ゆるり、手の温もりが消えて。



さっきとは違う、穏やかな表情でシンクは私の前にたつ。
かすかに赤い瞳に気づかないふりをして、先を促す。

「ちゃんと家を見つけて、一緒に住んで、僕らがちゃんと家族になるまで___」

こつり、おでこ同士を重ねて。
珍しく、ふにゃり、と笑った。

「お嫁に行くのは許さないからね」

その表情がかわいくて、かわいくて。
思わずその頭を引き寄せてぎゅうぎゅうに抱きしめてしまった。

「ちょ、!!」

抵抗の言葉を発しながらも、決して逃げようとはしない、かわいいかわい弟。
さらに腕の力を強くする。
と、
ぶわり、目の前に粉塵が巻き起こる。
瞬間私を抱えて飛び退いたシンクは、姿勢を下げて、その先をにらみつけた。
現れたのは大きな魔物。
しかしながらその上を認めてシンクは腕の力を弱めて。

、シンク」

鮮やかな桃色。
幼い口調で私たちを呼んで。
彼女、アリエッタは軽やかに地面に降り立った。

「なにしにきたのさ」

シンクの低い声にアリエッタは肩をふるわせて。
抱えたぬいぐるみを強く抱きしめた。

「ダアトに・・・イオン様、じゃないイオン様」

ぎゅう、と口元を隠しながら紡がれたのは、ダアトにいるフローリアンのこと。
聞いた瞬間、シンクが苦そうに口元をゆがめて。
ため息を一つ。



触れていた手が離れて、距離ができる。

「不本意だけど、そろそろ時間でしょ」

指さされた先。
夕暮れにはまだ遠いけれど。
シンクの顔は、明るくて。

「仕方がないからさ、譲ってあげるよ」

彼の視線は私じゃなくて。

「僕のお姉ちゃんを、さ」

瞬間、新たな温もりに、包まれた。

「あなたのではありませんが」

耳元、愛しい声。

「ありがたく、ちょうだいしますね」

背中の温もりに一気に安心感が押し寄せて。

「行きましょうか、

振り返ってうなずいてみせた。

















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